「あなたにとって、ファインワインとはなんですか?」ーーーー5月26-28日に香港にて開催されたアジア最大のワインの見本市、Vinexpo Asia2026のマスタークラスにて、世界最優秀ソムリエコンクール出場を控えるReeze Choi氏と、台湾初のマスターソムリエであるKevin Lu氏により、こんな問いが投げかけられました。
ボルドーの格付けシャトーだろうか。ブルゴーニュのグラン・クリュだろうか。あるいは数十万円、数百万円で取引される希少ワインだろうか。会場の参加者からも、「長い余韻」「熟成能力」「複雑さ」「高価なワイン」といった答えが次々に挙がっていました。
面白いことに、Choi氏は事前にAIとファインワインについて議論をしてきたそうです。
「ファインワインは高価すぎる。若い世代を遠ざけている。富裕層のためだけの存在ではないか」と。それについてのAIからの答えは、「あなたは間違っている」だったそうです。

AIが定義する「ワインファイン」
Choi氏は、「ファインワインは高価すぎる。若い世代を遠ざけている」と主張しましたが、それに対しAIは真っ向から反論しました。AIが例として挙げたのは、スペイン・リオハのViña TondoniaやレバノンのChâteau Musarだったそう。どちらも世界的に評価されるワインではありますが、決してラフィットやロマネ・コンティのような超高額なワインとはいえません。
そして、AIはこう主張したと言います。
「ファインワインとは価格ではなく、歴史であり、土地であり、物語である」
確かに、一般的に語られるファインワインの条件には、複雑性や熟成能力、テロワールの表現、希少性、評価の高さなどが挙げられます。しかし、それらは本当に絶対条件なのでしょうか。
AIは、「ファインワインとは価格ではなく、歴史や地域性、そしてその土地を表現する力によって定義される」と答えたそうです。
ファインワインの条件とは何か
冒頭の問いに対するセミナー参加者からの答えのとおり、一般的にワイン専門家が挙げるファインワインの条件には、複雑性、バランス、熟成能力、希少性、テロワールの表現、職人的な生産、客観的な高い評価などがあげられるでしょう。
しかし、それぞれの条件を突き詰めて考えると、必ずしも明確ではなさそうです。
例えば「少量生産」。
これはよくファインワインの条件として語られます。しかしシャトー・ラフィットやシャトー・ラトゥールのような名門シャトーは毎年数十万本規模のワインを生産しており、決して小規模とはいえません。
では「高価格」でしょうか。
Kevin氏はある調査結果を紹介しました。それによれば、多くの消費者は500香港ドル(約1万円)以上の価格帯になると「ファインワイン」を期待するというもの。しかし、実際には、単一畑で手摘み収穫を行い、職人的な醸造を行う生産者の中には、それでも数ユーロで販売されるワインも存在しているのです。
つまり市場価格と品質は必ずしも一致しない。むしろ価格には、ブランド力、マーケティング、歴史、評判が大きく影響しているとのことです。

価格ではなく体験
今回のセミナーで供された6種類のワインは、決して世界最高額のワインではありませんでした。
ドイツのビオディナミ生産者によるリースリング・ゼクト、オレゴンのシャルドネ、ボルドー・グラーヴの白ワイン、長野県塩尻市のドメーヌ・コーセイのメルロー。そしてポムロールのシャトー・オザンナなど。
価格帯も知名度もさまざまです。
しかし、Choi氏は「私たちにとっては、これらはすべてファインワインである」と言いました。
その背景には、彼自身の忘れられない体験がありました。
若き日に香港のミシュラン三つ星(当時)レストラン「ジョエル・ロブション」でソムリエとして働いていた頃、ワインリストには1,000香港ドルを超えるボルドーがずらりと並んでいました。その中で、唯一1,000香港ドルを下回っていた白ワインが、グラーヴ地区のシャトー・オリヴィエだったそうです。まだ若手だった彼は、そのワインをテイスティングする機会に恵まれ喜びました。
「980香港ドルで、この品質なのか。」
完熟したトロピカルフルーツやアプリコット、蜂蜜を思わせる豊かな香り、樽香との見事な調和、そしてヴィンテージの暖かさを感じさせながらも鮮やかさを失わない酸。その完成度に衝撃を受けたといいます。
しかし、そのワインは市場では「ファインワイン」として語られることが多い存在では決してありません。「なぜ、これほど素晴らしいワインなのに、ファインワインと呼ばれないのだろう。」この時に抱いた疑問こそが、今回のセミナーで彼が参加者へ投げかけた問いの原点だったのでしょう。
さて、話は目の前にある6種のワインに戻ります。なぜ二人は、「私たちにとっては、これらはすべてファインワインである」と言うのでしょうか。なぜなら、土地を表現している、生産者の哲学がある、飲み手に感動を与えるから、とのことです。
特に印象的だったのは、ドメーヌ・コーセイのメルローについての話です。
年間生産量はわずか300本。日本ではすでに高い評価を受けいるこのワインですが、世界的にはまだそこまで多くの人に知られているというわけではありません。
このワインについてAIは「歴史がないからファインワインではない」と判断したといいます。しかし会場でそのワインを味わった参加者の多くは、その品質に驚きました。
もしこのワインがみなさんに感動を与えることができているならば、それこそが本当のファインワインではないだろうか。
二人は会場にそう問いかけました。

実際のマスタークラスでReeze Choi氏がドメーヌ・コーセイについて語った様子はこちら(約2分)。
ファインワインは誰が決めるのか
「ファインワイン」という言葉、こうして改めて向き合うと実は極めて曖昧な概念のように思えてきます。
市場は価格で判断する。点数で判断する評論家もいる。歴史は伝統で判断する。しかし実際にワインを飲むのは私たち自身です。だからこそ二人は最後にこう語りました。
ファインワインとは、必ずしも世界で最も高価なワインではありません。自分自身で味わい、自分自身で価値を見出すもの。ワインの世界では、とかく価格や格付けに目が向きがちです。しかし本来の楽しみは、その土地の個性や造り手の想いに触れ、自分自身の感性で評価することにあるのではないでしょうか。
そうであれば、「ファインワインとは何か」ーーーその答えは、テキストにも、AIにも、評論家にも完全に示すことは不可能なのかもしれませんね。最終的にその答えを見つけるのは、ワインに向き合う私たち自身なのでしょう。
さて、あなたの思う『ファインワイン』はどんなワインですか。

磯部 美由紀
日本ワイン.jp 編集長
J.S.A認定 ワインエキスパート / C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
映画 フロマージュ・ジャポネ 制作実行委員会 事務局長
https://nihoncheese.jp
ワイン記事監修実績:すてきテラス
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕
