”ワイン業界一筋、目指すは究極のピノ・ノワール造り”とワインに情熱を注ぐ、沼田実氏が長野県辰野町小野に2024 年に立ち上げたワイナリー『KIRINOKA VINEYARDS & WINERY』。
今年リリースされたメゾン・ド・キリノカ シャルドネ 白鷗 2024の評判を耳にされた愛好家もいらっしゃるでしょう。
今回は、そのシャルドネにフォーカスし、”小野”のテロワールとワインとのつながりを体験するメーカーズセミナーが開催されました。
KIRINOKA VINEYARDS & WINERY 沼田 実 氏について
都内ホテルに 10 年間の勤務後、オーストラリアワイン専門の輸入商社へ転職。
この頃より、国内でピノ・ノワールの栽培に適した地を求めて各地をまわりはじめる。
2008 年にアメリカ・オレゴン州にあるピノ・ノワールの名門ワイナリーでの研修を経て、ニュージーランド国立リンカーン大学へ進学し、栽培学と醸造学を修め、栽培・醸造家としての一歩を踏み出す。
帰国後は、ワインスクールの講師やワインコンサルタントとしてワイナリーの立ち上げにも携わる。
2020 年より長野県 辰野町小野で、スコップひとつから開墾をはじめ、ピノ・ノワールとシャルドネを定植。

KIRINOKA VINEYARDS & WINERY 沼田実氏
信州ワインバレーと小野盆地
場所の概要
ご存知のとおり長野県は、千曲川ワインバレー、日本アルプスワインバレー、桔梗ヶ原ワインバレー、八ヶ岳西麓ワインバレー、天竜川ワインバレーと5つのエリアで構成されています。
その中で小野盆地は、桔梗ヶ原ワインバレーと天竜川ワインバレーの中間くらい、塩尻駅(標高約700m)から車で15~20分登ったところにあり、小野駅は標高約810m。キリノカの圃場は主に標高約850m帯に位置します。
この付近はちょうど日本列島の分水嶺となっており、善知鳥峠(うとうとうげ)を挟んで、日本海側(塩尻)と太平洋側(小野盆地)で水流域が分岐しています。
ちなみに「塩尻」という地名の由来は”塩の道のエンド”。その昔、日本海から糸魚川を通って運ばれてきた塩の「終点(しり)」という意味があると言われています。逆に太平洋側からの道も存在するようです。
これらのことからも、この付近が日本列島のど真ん中ということがわかります。海から遠いことで、昼夜の寒暖差が大きいことが特徴です。
小野盆地の土壌について
中央本線を挟んで東側が火山性(田んぼが多いエリア)、西側が約1.5億年前のジュラ紀堆積系(畑が多いエリア)となっています。
沼田氏の講義で度々言われるのが「アルカリ性土壌からのワインは酸性寄り、酸性の土壌からのワインはアルカリ性寄りとなる」。ワインが酸性ならば使用するSO2が少なくて済むということになります。また、一般的な農業では、酸性化した土壌にはアルカリ性の石灰を撒いて中和をはかります。その点から言えば、小野のpHは6.7、ほぼ中性。
また、圃場北方にある大芝山石灰採掘場から流れる水は、圃場への石灰(カルシウム)供給をもたらします。
これらに沼田氏はこの場所をチョイスする意味があると考えます。


圃場と栽培構成
シャルドネについては、300本(契約栽培)、500本(北小野)、300–350本(小野)=計約1,100–1,150本が植栽されています。
北小野ヴィンヤードは東向きでやや涼しい。標高およそ880m。南側の小野ヴィンヤードは、地質は同じでもFe含有多く、ワインの表情差を形成してくれることが期待できそうです。
歴史的には、松本藩と高遠藩の垣根を越え、北小野×辰野のブレンドで「400年越しの統合」の実現と言えましょう。これはワインファンのみならず歴史愛好家にも萌えポイントになり得るのでは。
キリノカシャルドネの醸造におけるポイント
沼田氏の現在のシャルドネは、収穫後一晩冷蔵(約4℃)し翌日に除梗破砕→プレスしています。
まだ樹齢が若いことや太陽光の量を鑑みて、風味をもたらすためにスキンコンタクトを行います。その際の注意点としてフェノール管理は慎重に考え、温度を下げて酸化リスクをコントロールしています。
MLFについては、co-inoculationは採用せず。
ちなみにブドウのコンディションが悪い場合は、嫌な風味がつかないようにスキンコンタクトはすべきではないと考えているそうで、今回のブドウそのものへの自信も伺えます。
「シャルドネは発酵前のジュース処理がワインの8割を決める。」そういう意味では、シャルドネはテロワールを自然に表現してくれる品種と言えるとのこと。

シャルドネ比較テイスティング

世界のシャルドネとの比較テイスティングは、下記アイテムのとおり豪華なラインナップ。
レコール・デュ・ヴァンの元場講師がモデレーターとなり進められました。
各ワインの説明とテイスティングコメントのまとめは下記のとおり。
・ドメーヌ高畠オーヴィーニュナイトハーベストシャルドネ2023/高畠ワイナリー(日本・山形)
シャルドネで有名なワイナリー。中でも垣根栽培(粘土質土壌)した自社葡萄を小仕込みした特別ブランド。2023は暑かった年。高畠は盆地でローヌと同程度の気温。
トロピカルフルーツのニュアンスが強い。
・Bred&Butter Chardonnay2023/Bred&Butter Winery(USA・カリフォルニア)
ナパとソノマの間、土は砂質。カリフォルニアシャルドネのイメージがとても強いワイン。ハワイで飲みたいシャルドネ。
ココナッツミルクやコパトーンを思わせるようなアメリカンオークの特徴がよく出ている。明るいワイン。温度帯は大事。
・M3Chardonnay2023/Shaw&Smith(Australia・アデレードヒルズ)
イギリス人以外で初めてのマスターオブワインが設立したワイナリー。国際的な綺麗な造りのワイン。
穏やかな印象。嫌気的であり近年のシャルドネらしいつくり。収穫時期が早かったことが推測される。酸の伸びがしっかりしてる。
・Mate’s Vineyard Chardonnay2023/Kumeu River(NZ・North Island Kumeu)
NZの有名ワイナリーは南島が多いが、クメウは北島。オークランドの近くでそんなに寒くはない。クロアチアからの移民でワイン産業に携わってきた歴史がある場所。NZ初のマスターオブワインが設立したワイナリー。
過去ジェームスサックリンがTOP100に選んだワイナリーのひとつ。
桃や白い花のニュアンス、上品な印象。他アイテムと比較して酸の伸びが最も長い。
・Meursault2022/Joseph Drouhin(France・ブルゴーニュ)
石灰質の影響受けているが、そこまで目立たない。粘土質土壌のシャルドネ。
熟した果実、クリームやバターのニュアンスを感じるがtoo muchではない。均整のとれたワイン。なめらかな酸。
・キリノカ シャルドネ 白鷗 2024/キリノカヴィンヤーズ&ワイナリー(日本・長野)
外観濁っている。熟した桃、すりおろしたりんごなど多くの複雑な香り、味わいもマルチレイヤー。旨みを感じる。ミネラリティ。塩味も感じる。ノンフィルターで清澄もしていない。
香りが華やかになる酵母は使用していないため、香りは大人しめだが味わいのクリーミーさ(テクスチャ)が濃い。
ここではミネラリティの言語化について、「ミネラルそのもの」ではなく「ミネラルを想起させる風味・触感(ミネラリティ)」として味わいに対しての評価表現であろうとの議論もなされました。
各ワインのテイスティングを通し、セオリーだけではなく、肌感覚での楽しみ方などもレクチャーされた。
さいごに
沼田氏が20年以上探し続けたどり着いた理想の土地、長野県の小野。
ピノ・ノワールのみならずシャルドネにおいても、土壌、地質、気候からそのポテンシャルには、今後も大きな注目が寄せらせることでしょう。
さらにテロワールには”人”も含まれます。「ワインは設計」と語る沼田氏は、彼の描くワインの仕上がりイメージに合わせ、ブドウの状態からそれによるワインメイキング(補糖、樽、醸造方法など)を考えていく。
自身を”究極の飲み手”と表現する彼の目指すシャルドネはどのようなものだろうか。
”シャルドネはテロワールを自然に表現してくれる品種”と語られましたが、これらを踏まえて生み出されたワインは、世界の銘醸地シャルドネを知る人こそ、試す価値のある一本でしょう。
また、さらにはそれらを一緒に体感・体験していくプログラムも用意されているそうです。
ご興味のある方はぜひ参加されてはいかがでしょうか。
【こちらからご購入いただけます】

磯部 美由紀
日本ワイン.jp 編集長
J.S.A認定 ワインエキスパート / C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
映画 フロマージュ・ジャポネ 制作実行委員会 事務局長
https://nihoncheese.jp
ワイン記事監修実績:すてきテラス
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕


