【Wine Tourism】成功するワインツーリズム – 日本と世界の魅力的なワイナリー巡りの事例から学ぶ

【Wine Tourism】成功するワインツーリズム – 日本と世界の魅力的なワイナリー巡りの事例から学ぶ

前回は日本各地のワイン産地の特徴や注目ワイナリーについてご紹介しました。第4回となる今回は「成功するワインツーリズム」と題して、日本と世界の魅力的なワイナリー巡りの要素や楽しみ方について考えていきます。これを読んでいるワイン愛好家の皆様と一緒に、訪れて感動する日本ワインの旅について探求していきましょう。

私が考える「成功するワインツーリズム」とは

一口に「成功するワインツーリズム」と言っても、その評価は人それぞれ。私自身の経験から言えば、ワイン造りの背景にある物語や人との出会い、そして何より「また来たい」と思える体験ができたかどうかが成功の鍵を握っているように感じます。実は、ワインの味がドンピシャで好みに合うかどうかよりも、そこでの体験全体が心に残るかどうかの方が大切だと思うのです。
単にワインを試飲するだけでなく、そのワインが生まれる土地の風土、造り手の哲学、そして地元の食文化など、多角的な体験ができるワイン旅行は格別です。そんな視点から、私が実際に訪れた場所や、ワイン愛好家の間で評判の高い事例をもとに、成功するワインツーリズムの要素を探っていきましょう。

ワイン愛好家にとっての「成功」の要素

これまでの体験から、個人的に感じる「成功するワインツーリズム」の要素をまとめてみました。

【1. 学びと発見がある】
単にワインを飲むだけでなく「なぜこのワインがここで生まれるのか」という背景を知ることで、ワインへの理解が深まります。

>>ブルゴーニュの「テロワール体験」:
ブルゴーニュの魅力は「テロワール」という概念を体感できる点にあります。わずか数十メートル離れた畑でも全く異なる味わいのワインが生まれる不思議さを、実際に歩いて、飲んで理解できる体験は、ワイン愛好家なら一度は経験してみたいものです。

>>山梨での甲州種の可能性:
日本最大のワイン産地である山梨では、甲州種という日本固有品種の多様な可能性を体験できます。「ぶどうの丘」では数十種類もの甲州ワインを試飲でき、様々なワイナリーの解釈や醸造法による違いを一度に比較できる贅沢な機会です。この体験を通して、同じブドウ品種から生まれる多彩な表現や造り手の個性を実感できます。甲州ワイン愛好家には必見のスポットといえるでしょう。

>>ナパバレーのエデュケーション:
アメリカ・ナパバレーでは、ワインを単なる消費財としてではなく、文化や芸術として捉え、その理解を深めてもらう取り組みが充実しています。特にロバート・モンダヴィ・ワイナリーは、いち早くワイナリーツアーを確立した先駆者として知られています。モンダヴィの功績は、ワインを特別な場面だけのものではなく、料理や音楽とともに日常生活に取り入れられる身近なお酒として位置づけた点にもあります。ワイナリーでのコンサートや料理教室の開催など、ワインを中心とした豊かなライフスタイルを提案する姿勢は、現代のワインツーリズムの基礎を築いたと言えるでしょう。

【2. 人との出会いがある】
ワインは「人が造るもの」。造り手との対話や、同じワインを愛する人々との出会いは、ワインツーリズムの大きな魅力です。

>>地域全体でのおもてなし精神:
長野県塩尻市では「信州ワインバレー構想」のもと、ワイナリー同士の連携が進んでいます。実際に訪れると、各ワイナリーが競争よりも協力関係にあり、お互いを紹介し合う姿勢が印象的です。訪問したワイナリーのスタッフが近隣の小規模ワイナリーの魅力や特徴を熱心に教えてくれたことで、予定になかった素敵な場所との出会いがありました。
山梨県勝沼エリアでも同様の取り組みが見られます。この地域では、ワイナリーの場所を示した可愛いマップが各所で配布されており、ワイナリー巡りを快適にしてくれます。私の訪問中、テイスティングカウンターで隣り合わせた別の旅行者と、テイスティングの感想から自然と会話が始まり、お互いのおすすめを教え合いながら一緒に次のワイナリーを訪れることになりました。こうした地域全体でのおもてなし精神と偶然の出会いが、訪問者にとって思い出に残る体験となります。

>>小規模ワイナリーでの対話:
規模を問わず、造り手と直接対話できる機会は貴重です。ニュイ・サン・ジョルジュなどの村の小さな家族経営のドメーヌでは、オーナー自らが畑を案内し、その土地ならではの気候や土壌の特徴について熱心に語ってくれます。予約制のプライベートツアーでは、通常のツアーでは味わえない特別なヴィンテージのテイスティングが体験できることもあります。
日本でも、新潟県のカーブドッチや徒歩圏内の周辺ワイナリーでは、オーナーや醸造家との交流機会が設けられています。広大な自然に囲まれた環境で、日本海側の気候と向き合いながらワイン造りに取り組む姿勢や情熱について直接聞ける体験は、日本ワインの奥深さを知る絶好の機会です。こうした体験を通じて、ワインの背景にある哲学や情熱を知ることができます。

【3. 地域の食文化とつながる】
ワインは食と共にあるもの。その土地の食材とワインのマリアージュを体験できることは、ワインツーリズムの醍醐味の一つです。

>>トスカーナの農家民宿体験:
トスカーナの丘陵地帯では、アグリツーリズモ(農家民宿)に滞在すると、朝食から夕食まで地元の食材とワインを楽しめる贅沢な時間が過ごせます。ワインと食、そして景観を一体で楽しむ「トータルな体験」こそ、イタリアワインの真髄です。夕暮れ時に葡萄畑を眺めながら楽しむアペリティーボは、ワイン愛好家なら誰もが憧れるひとときではないでしょうか。

>>長野の食材とワインのマッチング:
長野の強みは、ヨーロッパ系品種を栽培しながらも、地元の食文化との相性を意識したワイン造りにあります。私のもう一つの趣味はグルメなので、地元の郷土料理とワインの組み合わせを発見するのは何よりの楽しみです。特に印象に残っているのは、信州味噌を使った料理と長野産メルローの組み合わせです。濃厚な信州味噌の旨味と、熟成した長野のメルローから感じる土のような風味が調和し、それぞれの魅力を引き立て合います。味噌の発酵によるコクと奥行きが、メルローの柔らかなタンニンと溶け合う瞬間は、地域ならではの食文化とワインの素晴らしい融合を感じさせてくれました。

>>山梨の郷土料理とワイン:
山梨では、ほうとうや馬刺し、甲州牛などの郷土料理やジャンルにとらわれずに地元食材を使用した料理と地元ワインの組み合わせを楽しめるレストランが増えています。特に甲州ワインは和食との相性も良く、日本固有の食文化とワインの新たな関係性を発見できる点が魅力です。

【4. ワイン産地の景観と環境の魅力】
ワイナリーを取り巻く景観や環境もまた、訪問体験を豊かにする重要な要素です。世界各地のワイン産地には、それぞれ独自の風景の魅力があります。

>>トスカーナの絵画的風景:
トスカーナの丘陵地帯に広がるブドウ畑とオリーブ畑の美しさは、それだけで訪れる価値があります。起伏のある地形に広がる整然としたブドウ畑と、その間に点在する古い農家や中世の村々の景観は、まさに絵画のようです。

>>北海道余市の雄大な自然:
北海道余市のワイナリーの特徴は、そのロケーションの美しさ。海を望む斜面に広がるブドウ畑は、季節ごとに異なる表情を見せます。澄んだ空気と広大な空、そして日本海の景色がワイン体験をより印象的なものにしています。

>>山梨の日本らしいワイン風景:
「恋人の聖地」にも登録されているぶどうの丘からは、南アルプスに沈む夕日や眼下に広がる甲府盆地の風景が楽しめます。勝沼エリアを巡ると、昔ながらの田園風景の中に佇む木造の小さなワイナリーに出会えることも魅力です。手作業で丁寧に管理された畑と家族経営の建物が織りなす景観は、日本ならではの繊細さと人の営みを感じさせてくれる、他の国のワイン産地では味わえない風景といえるでしょう。ワイナリー巡りを計画する際は、景観を楽しむための時間も十分に確保したいものです。

【5. ワインツーリズムのアクセスと情報整備】
どんなに素晴らしいワイナリーでも、アクセスが極端に悪かったり、情報が不足していては訪問のハードルが高くなります。成功しているワインツーリズムの事例には、訪問者への配慮があります。

>>ナパバレーの顧客体験設計:
ナパバレーの強みは何と言っても「訪問者目線」に立ったサービス設計。オープンで明るいテイスティングルーム、丁寧な説明、美しいワイナリーの建築など、訪問者が快適に過ごせる工夫が随所に見られます。多くのワイナリーで予約システムがオンライン化されており、言語の壁を感じることなく訪問計画が立てられるのも大きな利点です。

>>日本ワインツーリズムのインフラ整備:
日本では山梨県がワインツーリズムのインフラ整備に力を入れています。「ワインツーリズムやまなし」などのイベントでは、専用の循環バスが運行され、レンタサイクルも充実(ただし、ワインを試飲した後の自転車走行は道路交通法違反の飲酒運転となるため注意が必要です)。また、ワイナリーガイドも整備されており、訪問者を歓迎する街づくりがされています。これらの取り組みは、移動手段に悩む日本のワイン愛好家にとって大きな助けとなっています。

>>情報アクセスの重要性:
長野県では信州ワインバレーの情報を一元化したウェブサイトがあり、地域のワイナリーが集約されています。営業時間や予約方法、アクセス情報など、訪問前に必要な情報が簡単に入手できるため、旅行計画が立てやすいのが特徴です。

これからの日本ワインツーリズムの可能性

これまで見てきた成功要素を踏まえ、これからの日本ワインツーリズムにはどのような可能性があるでしょうか。

【テーマ性のあるワイナリー巡り】
例えば「日本固有品種を巡る旅」や「自然派ワイン造りの現場を訪ねる」など、テーマ性を持たせたワイナリー巡りが今後もっと増えていくでしょう。自分の関心に合わせた切り口で訪問することで、より深い学びや感動が得られるはず。また、日本の四季を活かした季節ごとのワイナリー訪問も魅力的です。春の芽吹き、夏の葡萄の生育、秋の収穫、冬の剪定と休眠期、それぞれの時期に異なるワイン体験ができます。

【デジタル技術の活用】
オンライン予約システムやバーチャルツアー、さらにはAR(拡張現実)を活用した畑の案内など、テクノロジーの活用はワイン体験をさらに豊かにしてくれます。例えば、スマホをかざすとその畑の特徴や醸造方法が表示されるようなサービスがあれば、自分のペースで学べて便利かもしれません。

【サステナブルな日本ワイン体験】
環境に配慮したワイン造りへの関心が高まる中、有機栽培やビオデナミ農法を実践するワイナリーを巡る旅も注目されています。自然と調和したワイン造りを学ぶことで、ワインを通じた環境意識の向上にもつながります。また、地元の食材を活かしたレストランとのコラボレーションや、地域の伝統文化と結びついたワイン体験など、地域全体で持続可能なワインツーリズムを目指す動きも増えています。特に日本では里山文化との融合が独自の魅力となるでしょう。

最後に – 日本ワインツーリズムの魅力を広めるために

ワインツーリズムの魅力は、まさに「その土地でしか味わえない体験」にあります。どんなに知識があっても、実際にその場所を訪れ、空気を吸い、人々と交流することでしか得られない感動があります。
私自身、ワイン愛好家として大切にしているのは「先入観を持たずに訪れる」こと。有名・無名に関わらず、その場所ならではの魅力を発見する姿勢が、思わぬ感動につながることも多いものです。
日本のワインツーリズムは、単なる観光ではなく「文化体験」です。訪れる私たちも消費者としてだけでなく、その文化の一部として参加する気持ちで旅をすれば、より豊かな体験が待っているでしょう。国内にも素晴らしいワイナリーがたくさんあります。ぜひ、この記事が皆さんのワイナリー巡りの一助となれば幸いです。
次回は「未来を切り拓く – 持続可能な日本型ワインツーリズムの提案」と題して、これからの日本のワインツーリズムの可能性について考えていきます。

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