プロの直接指導を受けながら、ご自身のオリジナルワインを造るプログラム「あなただけのワインづくり体験」。
昨年9月にリリースされたこちらは「飲み手が生産の最初の工程から関わる」という新しい試みのワインづくり体験プログラムとなっています。
太平洋側に位置し、本来は豪雪地帯とは言えない岩手県花巻市だが、今年は特別雪が多く、訪問した2月初めも数日大雪が続きパウダースノーがしっかりと積もっていました。
Vol.1,2にて写真に撮った畑は、同じ場所とは思えないほど真っ白で、日差しが雪面に跳ね返って眩しい中剪定の説明を受けました。

プティ・マンサンの瓶詰め前工程
今回のメインは、ろ過と瓶詰め。
- ボトルとキャップの組み合わせを決める(瓶色が2種類、キャップ色は複数から選択可)
- キャップの異物チェック(ゴミ取り)
- 白→オレンジの順でろ過
- 亜硫酸分析
- ボトリング(瓶詰め)
ろ過器には大きく3種類ある、を学びました。
- 珪藻土ろ過(粗いものに強い)
- デプスフィルター(ワインでよく“仕上げ”に使われる)
- メンブレンフィルター(微生物レベルまで止める=除菌に近い)
今回は、少ない量の仕込みということもあり、田村講師が持ち込んだ小型のデプスフィルターで仕上げました。
極力ろ過をスムーズに行うべく、沈殿したオリや酒石をうまく避けて上澄みを移すことには慎重に取り組みました。小規模ロットだとフィルターに吸われる量の影響も大きく、“30Lしかない”からこその緊張感でしょう。

低温の「天然冷蔵庫」が、酸の角を取る
昨年12月に飲んだ時に白がかなり酸っぱかった、という振り返りから、2ヶ月間の低温保管(-4℃付近)を経たワインを再確認。
そこで出てきたのが、ジャリジャリした結晶(つまり酒石)。
酒石酸が冷却により結晶化して落ちると、酸が少し穏やかになるという理屈を前回座学にて学びましたが、今回その“結晶として存在する酸”を実際に見て触れたことで、理解の度合いも深まりました。
そして、ろ過後のワインがステンレスタンクに溜まっていく瞬間。
ろ過前ワインが入っていた青い容器だと分からなかったけれど、鏡面のステンレスの中で液体が“ブリリアントに輝く様子を見ることができ、田村講師の「ろ過して輝く液体は特別だ」という言葉に、一同納得しました。
また、一同の最も大きな関心ごとであった、”前回試飲ののち、ワインがどう変化しているのか”については、気になっていた酸も落ち着き、フルーティーさや旨みも備え、納得の状態で一安心です。

ボトリングは「分業」と「酸素を入れない執念」
最後は全員で瓶詰め。工程はシンプルに見えて、実際には気をつけどころが多い作業です。
- 瓶内の空気を専用の機械にてプシュっと窒素置換して酸素を追い出す
- 少量なので計量機ではなく、手作業で液面を揃える
- 量の調整および口元を拭う(カビ・汚れ対策)
- キャップ前にもヘッドスペースへ窒素を入れる
- 巻締め機は途中で離すと失敗するので、下がり切るまでしっかり押し切る
- 出来上がったボトルをカゴに丁寧に並べていく
役割が6つに分かれて、各人順番に回し全員が全ての工程を体験するように組まれました。
興味深かったのは、酸素が溶ける温度の話です。冷たい方が酸素が溶けやすいため、ケアを怠ると想像以上に酸化防止剤(亜硫酸)の消費が進む、という説明が、現場の動作と環境とで実感することができました。
さらに、瓶詰めにおいて地味に奥が深かったのが「法律と見た目」の話。
酒税法・計量法の範囲内に収めるだけでなく、瓶の個体差で液面の高さが揃わない問題がある。だから“見た目の揃い”まで管理が必要になるということです。
何気なく目にしていた、美しく店頭に並ぶワインボトルたち。あれは単なる美意識のみならず、信頼を作る工程でもあると理解しました。


2025年の畑の振り返り
仮剪定の終わった雪の畑も案内いただきました。
今年は天候に恵まれて収量が増えた品種もある一方、高温の影響でカメムシが大量発生し、複数回の“襲撃”を受けたという話も。(カメムシはワンシーズンで3~4世代くらい発生するそう)
増えた品種と減った品種が混在し、「なかなか一長一短で、簡単にはいかないですね」との高橋さんは仰ります。
以前に耕作放棄地だった棚田も造成が終わり、来春には畑が増えるそう。次に訪れたときはさらに景色が変わっているかもしれません。
雪景色の畑を前にメンバーで前回訪問時の風景を思い出し、前回同様の集合写真を撮りました。そうした季節や自然の移ろいも改めて実感することができた体験です。

アールペイザンワイナリーでの剪定について
冬の畑の作業のメインは、春に芽吹く枝を計画的に残すための剪定です。
アールペイザンワイナリーでは一度で決め切らず「仮剪定→本剪定」と二段階で進める考え方で、ちょうど仮剪定が終わった状況の畑を見ることができました。
- 仮剪定:枝が長いまま一発で切ると後が大変なので、まず“真ん中あたり”でざっくり落としておく
- 本剪定:枯れ込みや木の状態を見ながら、最終的に残す芽(1〜2芽など)を決める
ここでは早く切りすぎると芽が傷む可能性があるので、様子を見ながら進めるそう。
一方で、雪が強い地域では枝を軽くして樹が折れるリスクを減らすために、早めに切ってしまう考えもあるそうです。しかしながら、その作業をするための人手・作業設計・方針などにもよるため、それぞれの状況で最適な方法を選ぶのでしょう。
また、”遅霜が怖い場所では芽吹きを遅らせたいから遅めに切る”ということもあるそうです。現場の“仕事繰り”や”自然”などの複合的な要素から柔軟に状況をみて判断していくこともまた、農業の難しいポイントのひとつだろうと思いました。

まとめ
今回の花巻訪問では、雪の畑で剪定の説明を聞き、低温で落ち着く酸と酒石を見て触れ、ろ過の設計と小ロットでの作業の難しさ、酸化の怖さを実体験で理解して、最後に瓶の中へ“できるだけ空気を入れずに”詰めることを体験しました。
そして、最後に自分たちで製作したオリジナルラベルを貼って完成。
参加者はみな、これらワインを飲む機会に思いを馳せながら写真撮影、各自白6本、オレンジ6本の1ケースを自宅配送手続きを終えて、”あなただけのワインづくり体験”無事に終了。
参加者にとっては、単なる”オリジナルワインがつくれた”ということだけでなく、ワインづくりの工程、農業の難しさ、仲間と作業する楽しさ(大人になってから仕事以外でなかなかありませんよね!)など、多くのことを味わう機会となったことでしょう。

あなただけのワインづくり体験第二期
現在は第二期を募集しているそうです。
決まっているスケジュールはこちら。
3月28日ー29日:剪定
5月9日ー10:植付
自分だけのワインをつくってみたい人、ワインは知っているけれどつくったことのない方!百聞は一見にしかずです。
ご興味のある方は、ぜひ剪定に間に合うようお申し込みご検討ください。


磯部 美由紀
日本ワイン.jp 編集長
J.S.A認定 ワインエキスパート / C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
映画 フロマージュ・ジャポネ 制作実行委員会 事務局長
https://nihoncheese.jp
ワイン記事監修実績:すてきテラス
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕



