プロから直接指導を受けながら、ご自身のオリジナルワインを造るプログラム「あなただけのワインづくり体験」。
9月にリリースされたこちらは「飲み手が生産の最初の工程から関わる」という新しい試みのワインづくり体験プログラムとなっています。
耕作放棄地問題や担い手不足など、日本の農業が抱える課題に対し、「関与人口を増やす」という視点でメルシャン株式会社にて長年ワインの研究、商品開発、ワイン造りの経験を持つ田村隆幸氏が中心となり企画されたものです。

メルシャン株式会社 田村隆幸氏

その第一弾として、参加者は10月に岩手県花巻市にあるアールペイザンワイナリー代表の高橋和也氏の協力のもと、収穫からワインの仕込みまでを体験しました。

ワイナリーの大きな窓の向こうには棚田の跡地が広がっており、非常に美しい風景。
駅からそう遠くはない立地ですが、地域の高齢化によって耕作放棄が進んでいるのが現状です。高橋氏はそれらの土地をワイン用ブドウ畑として再生する構想を練っているそうですが、このプロジェクトがそれを後押しするものになるよう期待もあるようです。

1.ブドウ収穫

アールペイザンワイナリーのプティ・マンサンの畑一区画が本企画のために用意されています。これをみんなで収穫し、どのようなワインにしようかディスカッションし、実際の醸造に取り組むという非常に実践的なもの。

前日のサンプリングで糖度は平均24度。生育状態も良好。タイミングとしては理想的な状態。
しかし天候は土砂降り。雨避けのタープを張り、移動しながらの収穫という非常にレアな体験となりました。アールペイザンワイナリーの高橋氏も「私もこの体験は初めてです。」とのこと。

収穫はすぐ終わると思っていましたが、実際は思ったより体力を使いました。しかし、タープを張ってはいただいたものの、みな収穫に集中するあまりタープでの雨避けなどすっかり忘れ、ずぶ濡れになって収穫に勤しみました。

この時点の学び:

✔︎収穫用ハサミの使用方法および注意点。
(自分の手を切らないよう、下から優しく支えるようにブドウの房を持って梗の部分をカット。畝の向こう側にいる人の手にも注意。)
✔︎同じ区画でも畝によってブドウの状態が違うこともある。
✔︎ 天候・糖度・畑の状態が揃う「収穫タイミング」の判断は糖度等を計測する他、経験も重要。(どの粒で測るか、つい「美味しそうな粒」を選んでしまいがち。バイアスに注意。)

2. 選果(ブドウの品質チェック)

次に行ったのは「選果」。房から不良粒を取り除く工程です。

取り除く対象は以下の通り:

  • 病気に侵された粒(黒・茶・ピンク色に変色)

  • 未熟で硬い緑の粒(他の房と比較して青すぎる)

  • 萎びた粒・傷んだ粒

  • 果汁流出している粒(雑味の原因)

  • 不受精の小さい実

今回の仕込み量は約100kg弱と小さく、一粒レベルの品質差が全体の仕上がりに影響しやすいとのこと。そのため、非常に丁寧な作業が求められ、みな真剣に行いました。
やはりほぼ全員が初めての経験のため、選果具合が気になります。「これくらいは大丈夫だろうか」「厳しすぎるか?」など、お互い周りをみながら、田村氏に質問をしつつ作業を進めました。

気づき:
✔︎「粒単位で味が変わる」規模感だからこそ丁寧な手作業が重要
✔︎撥ねた房もドレッシングに加工するなど廃棄せずに利用方法はあるらしい

3. 圧搾(果汁にする工程)

今回の圧搾方法は2種類。
まずは田村氏より各圧搾方法の説明を受け、実際にそれらを体験します。

圧搾方法 特徴 得られる傾向
全房圧搾(ホールバンチプレス) 房を茎ごと絞る。果汁の通り道が確保されやすい やわらかい味わい、歩留まり高め(約60%)
除梗後圧搾 房を解体し、粒だけで絞る 味が厚くなる傾向、歩留まり低め

今回は半量ずつ。同じブドウでも圧搾方法の違いがどのようにワインに影響するのか、楽しみです。

補足メモ:

  • 使用したのは小型の水圧式バスケットプレス(試験機用途にも使われるサイズ)

  • 圧搾は3~4サイクルで果汁を取り切る

4. 仕込みの方針

当初は白ワインのみの予定でしたが、意見交換の結果、同じブドウで白ワインとオレンジワインの2タイプを仕込む方針に決定。
この比較により、仕込み方法の違いが香りや味わいにどう反映されるか、圧搾方式×酵母選択が品質にどう影響するかなど違いを可視化できることが楽しみです。

まとめ

この日行ったのは全工程のほんの一部ですが「良いワインは良いブドウから」という言葉の意味を実感したのではないでしょうか。収穫のタイミング、選果の判断、圧搾方式の選択。どれも最終的な味に直結することを学びました。

次の工程は発酵。どの酵母を使い、どのタンクで管理し、どれくらい寝かせるか。その選択次第で、同じ果汁がまったく異なるワインになるとのこと。これらを実際に体験いたします。