うなぎと日本ワイン〜「キリノカ」と老舗うなぎ店「稲毛屋」が魅せたペアリングの世界〜

目次
うなぎに合わせるお酒といえば、日本酒。そんなイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。
フランス料理では、うなぎと赤ワインを合わせる機会もあります。しかし、日本の老舗うなぎ店で、さまざまなうなぎ料理と日本ワインのペアリングをじっくり楽しむ機会は、まだそう多くありません。
2026年10月31日、東京・西日暮里の老舗うなぎ店「鰻と地酒 稲毛屋」で、「キリノカワインで鰻コースを楽しむ会」が開催されました。
主役は、長野県小野にある「キリノカヴィンヤーズ&ワイナリー」のワインと、「鰻と地酒 稲毛屋」が腕を振るううなぎのフルコースです。
会には、美味しいもの好き、ワイン好きを中心に、業界関係者、WSET Diplomaなど、ワインに深い知識と経験を持つ参加者が多くいらっしゃるのが印象的でした。
そんな顔ぶれながら、会場は終始和やかな雰囲気。
キリノカヴィンヤーズ&ワイナリーの造り手であり代表取締役の沼田実氏を囲み、料理とワインを自由に組み合わせながら、あちこちで「おいしい!」「これとこれが合う!」と会話が弾みます。
日本のうなぎ料理と日本ワイン。その組み合わせには、筆者が思っていた以上に豊かな世界が広がっていました。

CHAPTER 01
「うなぎといえばキリノカ」を目指して
そもそも、なぜキリノカがうなぎとのペアリング会を開催したのでしょうか。
その背景には、ワイナリーが位置する長野県小野の土地柄と、沼田氏が大切にするワインと食文化の考え方があるようです。
小野は諏訪文化圏に位置し、諏訪地域には古くからうなぎを楽しむ文化が根づいています。
沼田氏は、日本人にとってのごちそうとして、寿司、天ぷら、うなぎ、すき焼きなどを挙げながら、キリノカのワインはうなぎと相性が良い、そして「うなぎといえばキリノカ」と思ってもらえるような存在になりたいと語ります。
とはいえ、料理に合わせるためだけにワインを造っているわけではなく、何よりも大切にしているのは、小野のテロワールを表現することだといいます。
その土地の個性を素直に映し出した結果として、自ずとそこの食文化に寄り添うワインになる。
ワインをよく知り、食を愛する造り手ならではの発想でしょう。

CHAPTER 02
7種類のワインと多様なうなぎ料理
この日用意されたワインは7種類です。
乾杯はメルローを使用したロゼ・スパークリング「Morine La Goccia Merlot Rose Brut NV」。フレッシュな酸と優しい果実味が心地よい、食事のスタートに最適な一杯です。
続いて「M.D. Riesling 2025」「Domaine Kirinoka 小野 Chardonnay 2025」、オレンジワインの「Morine Ogosso Orange Three Amigas 2025」。
そして後半には、なんと3種類のピノ・ノワールが登場しました。
「M.D. Pinot Noir 2025」「Domaine Kirinoka Pinot Noir Cuvée 善知鳥 2025」「Domaine Kirinoka Pinot Noir Cuvée 参 2025」です。
一方、稲毛屋が用意したのは、うなぎの魅力をさまざまな角度から楽しめるコース料理です。
煮凝り、うまき、肝わさの前菜盛り合わせから始まり、うざく、鰻のたたき、ミニ白焼きとミニ蒲焼き、小骨の塩焼きと肝のタレ焼き、そして締めのミニ鰻丼まで。
この日のうなぎは、宮崎県産の「和匠うなぎ」です。
うなぎという魚は、季節や調理法によってその表情は本当に驚くほど変わるものです。
白焼きの繊細な旨味、たたきの食感と香ばしさ、うざくの爽やかな酸味、肝のほろ苦さ、そして蒲焼きの甘辛いタレと豊かな脂。そこに、品種もスタイルも異なる日本ワインが加わることで、次々と新しい発見が生まれることをみなで楽しみました。

CHAPTER 03
リースリングとうざく〜酢と生姜がつなぐ爽やかな相性〜
この日、とりわけ印象的だった組み合わせの一つが、「M.D. Riesling 2025」とうざくです。
うざくは、うなぎとキュウリを酢で和えた、日本ならではの料理です。
うなぎの旨味と脂を、キュウリの清涼感と酢の酸味が引き締めます。そこにリースリングを合わせると、ワインの生き生きとした酸が料理の爽やかさと重なり、心地よい余韻が続きます。
沼田氏は、リースリングに感じられる生姜のようなニュアンスにも言及し、ペアリングの完成度を評価します。うざくに使われる生姜とワインの香りが、料理とワインをつなぐ役割を果たしているというのです。
一方、オレンジワインを合わせても、また違った相性が楽しめます。
キュウリや酢の爽やかさに着目すればリースリング。うなぎの旨味や料理全体の厚みに目を向ければ、オレンジワインにも魅力があります。つまり、同じ料理でも、どの要素に注目するかによって、ペアリングの可能性が変わるのです。
参加したWSET Diplomaの後藤由香里さんも、「M.D.のリースリングは、ワインとしても素晴らしかったですね。特に、お酢を使ったうざくとの組み合わせがとてもよかったです。」と、リースリングそのものの品質と、うざくとの相性の両方を高く評価していました。

CHAPTER 04
繊細な旨味を引き出す、白焼き、たたきと白ワイン
「Domaine Kirinoka 小野 Chardonnay 2025」も、うなぎ料理との相性を探るうえで興味深い一本でした。
白焼きは、うなぎそのものの旨味や脂、焼きの香ばしさを楽しむ料理です。さらにはこの稲毛屋の焼きは、「うなぎ本来の香りや味をストレートに楽しんで欲しい」という大将のこだわりから、炭を使わず電気で焼いています。
炭やタレを使わない分、ワインとの組み合わせによって、素材の味わいがより繊細に感じられます。
また、鰻のたたきには、白焼きとはまた異なる食感や香味があり、ワインとの新たな接点が生まれます。
「シャルドネとたたきが最高」「わさび醤油を添えた白焼きにリースリングがいいね」という感想も聞かれました。
白焼きには白ワインという大まかな括りもよし、シャルドネとリースリングのどちらを選ぶか、さらには薬味によってどう印象が変わるか、そんな小さな違いを楽しめるのも、今回の会ならではでした。

CHAPTER 05
蒲焼きとピノ・ノワール〜3種類の個性が見せた奥深さ〜
会の後半を大いに盛り上げたのが、3種類のピノ・ノワールの飲み比べです。
同じ品種でありながら、それぞれのワインは異なる個性を見せます。
「M.D. Pinot Noir 2025」は、イチゴクリームを思わせる果実のニュアンスが印象的な一本です。
「善知鳥(うとう)」は、よりフレッシュな表情を持ち、沼田氏によれば、マグロや寿司などとも合わせたいタイプだといいます。
一方、「参(さん)」は、複雑味や熟成感を感じさせる、また違った個性を持っています。
沼田氏は、「参」について、新樽比率が高かったことによる酸化的なニュアンスを率直に説明しつつ、その複雑さが料理との組み合わせで魅力になると語りました。
例えば、熟成した醤油や味噌、バルサミコのような風味を持つ料理。そんな味わいには、「善知鳥」よりも「参」が合う場合があるというのです。
では、うなぎの蒲焼きとの関係はどうでしょう。
蒲焼きの魅力は、うなぎの脂や焼きの香ばしさだけではありません。甘辛いタレが持つ旨味やコク、複雑な風味も重要な要素となります。
そこに「参」の複雑味が重なることで、果実味メインのピノ・ノワールとはまた異なる相性が生まれ、実際に参加者からも、蒲焼きと「参」の組み合わせが印象に残ったという声が聞かれました。
ワイン単独での評価とまた違った魅力が、料理と合わせることで浮かび上がる。そんなペアリングの面白さを、改めて実感させてくれました。

CHAPTER 06
ワインのプロたちも、それぞれの「おいしい!」を発見
後藤由香里さんは、先述のとおりリースリングとうざくの相性を特に評価しながら、赤ワインでは「M.D. Pinot Noir 2025」の果実味にも魅力を感じていました。
また、WSET Diplomaの三浦恵理子さんは、「それぞれ個性の異なるピノ・ノワールにどの料理が合うのかを考える楽しさがありましたね。」と、3種類のピノ・ノワールの個性の違いに着目していました。
そもそも沼田氏自身、今回の会では、一皿ごとに決められたワインを合わせる厳密なペアリングにこだわっておらず、複数のワインをグラスに残しながら、料理が運ばれるたびに自由に組み合わせる、という楽しみ方をしていました。
「これは合う」「こちらの方が好き」「意外とこっちも面白い」と、参加者同士で感想を交わし、沼田氏がその理由やワインの特徴について解説するという、自由で楽しくも贅沢な会でした。
それぞれの「おいしい!」を発見し、共有できることこそ、この会の素晴らしさだったように思います。

CHAPTER 07
四季と食文化が生む無限の可能性〜日本のうなぎと日本ワイン〜
フランス料理でうなぎと赤ワインを合わせる楽しさとは、また少し違った、日本のうなぎ料理と日本ワインのペアリング。
これにはまだまだ大きな可能性があるようです。
日本には、白焼き、蒲焼き、たたき、うざく、肝焼きなど、うなぎ一つをとっても実に多種多様な調理法があります。焼き方や薬味、タレや酢の使い方によって、その味わいは大きく変化します。
さらに、日本には四季があります。
季節によって食材の状態や味わいが変わり、料理の楽しみ方も変わっていきます。
一方、日本ワインにも、繊細な酸、穏やかな果実味、旨味、複雑味、そして土地ごとの個性など、多様な魅力があります。
その二つを組み合わせることで、単に「合う」「合わない」という言葉だけでは語りきれない、何通りにもなる豊かな味覚の世界が広がっていきます。沼田氏がペアリングについての雑談で”もはや宇宙”と表現したのも、きっとこうした世界のことと推察します。
そして、どの味わいに着目するか、どんな余韻を楽しみたいか、自身がどう感じるか。そう考えると、ペアリングはきっと、もっと自由なものでしょう。
うなぎに日本酒、フランス料理にワイン、という定番ももちろん素晴らしいものです。でも、次にうなぎを楽しむときには、ぜひ日本ワインを選んでみてはいかがでしょうか。
そこには、まだ知らなかった日本ワインのおいしさと、日本の食文化の新たな魅力が待っているはずです。
キリノカヴィンヤーズ&ワイナリー
鰻と地酒 稲毛屋https://kirinoka.com/
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