メルシャン株式会社は、2022年より経営企画部の田村隆幸氏が中心となり進めてきたコンサルティング事業を進化させ、日本ワイン産業の支援を目的とした新たな取り組み「日本ワイン応援事業」始動を発表しました。
これまで展開してきた栽培・醸造コンサルティングを拡張し、原材料や資材の調達、販売、広報などワイン産業全体を支える包括的な支援へと進化させます。
4月20日に開催された新規事業発表会の内容についてお伝えいたします。

増加するワイナリー軒数、その裏にある課題

冒頭、田村氏より日本ワインを取り巻く現状や課題についての説明が行われました。

日本ワインはここ10年で急速に注目度を高め、現在ワイナリー軒数は500を超える規模に拡大しています。
佐賀県以外すべての都道府県でワインが造られるようになり、輸出も過去10年で約3.5倍に伸びるなど、国内外で存在感を強めています。しかしその一方で、ワイナリーの約9割は小規模事業者であり、そのうち約4割が十分な収益を上げられていないという調査結果や、ワイナリー数は増加しているものの、ブドウ収穫量は伸び悩み、むしろ減少傾向にある、といった構造的な課題がある現状を説明されました。

たとえば、畑を整備し、ブドウを収穫し、ワインとして販売するまでには5年以上を要し、資金回収までの期間が極めて長いという農業であるがゆえの時間軸の問題があります。
また、日本産ブドウに依存する構造上、天候不良などの不測の事態において原料の代替が難しく、供給不足がそのまま販売機会の損失につながるといった問題も抱えています。
問題は大きく、収益構造の脆弱性、技術・人財の不足、農業の構造上の課題、販路・マーケティング力の弱さに整理されました。

”コンサルティング”から“応援事業”へ

メルシャンはこうした状況を踏まえ、従来の栽培・醸造コンサルティングを再定義し、「日本ワイン応援事業」として、より広範な支援へと舵を切ることにしました。

これまでのコンサルティングは、主にスタートアップワイナリーに対し、栽培や醸造といった一部工程をサポートするものでした。しかし今後は、顧客対象を限定せず、既存ワイナリーや自治体も含めた幅広いプレイヤーを支援。さらに、ブドウ栽培の前段階から、流通・販売、ツーリズムまでを含む全工程へと関与範囲を広げていきます。

その背景には、上述の問題点の解決をし、産地として成立させるには、個別の技術支援だけでは不十分という認識があるとのこと。
地域やワイナリーのフェーズによっても悩みや課題はそれぞれ違っているため、包括的なサポート体制が必要だといいます。

また、シャトー・メルシャンは、歴代の経験豊富な人財である「人的資本」と約150年によぶワイン造りの経験から蓄積された「知的財産」など、豊かなアセットを有します。それらを、有効に活用していく機会にも繋がります。

日本ワイン応援事業のチームメンバー(左より)大滝敦史氏・山口明彦氏・藤野勝久氏・田村隆幸氏

三つの新たな取り組み

今回の事業では、主に三つの方向性が示されました。

①「コンサルティング事業」サポート範囲の拡大
ポイントは、“植える前からの支援”。従来は問題が顕在化してからのコンサルが中心でしたが、今後は畑の設計や苗木選定といった初期段階から関与することで、時間的ロスの最小化を図ることにも繋がります。また、上述のとおり、スタートアップワイナリーに限らず様々なフェーズのお客様も対象としていきます。

②「共同調達ビジネス」開始
全国に点在する小規模ワイナリーと資材サプライヤーの間に立ち、適切な選定や共同調達を支援します。これにより、ワイナリー側は効率的な設備投資が可能となり、サプライヤー側も需要の見通しが立てやすくなるメリットが期待されます。

③新規事業「あなただけのワインづくり体験」
ワイン造りを体験したい個人とツーリズムを受け入れるリソースが不足しているワイナリーをマッチングする新規事業です。すでに2025年10月より試験的に開始しています。
ワイナリーを地域の拠点とし、体験型コンテンツを通じて交流人口を増やすことで、地域経済への波及効果を狙います。

現場の声が示す価値

これまでコンサルティングを手掛けた実績は全国で13箇所。地域やワイナリーよって課題はそれぞれ違っており、それらを通してより知見を蓄積し、学びを生かしているそう。
発表会には、実際にコンサルティングを受けている複数のワイナリーや生産者が登壇しました。
コンサルティングを受けての感想や、意気込み、きっかけなどそれぞれが述べられました。中でも多い感想は「孤立しがちな現場において、技術的なことはもちろん、人的な支援や情報共有も心強い」ということです。

栽培や醸造に関する知識や情報のみならず、判断やそれらに基づく考え方なども共有されることは、彼らにとって実利的にも精神的にも大きな支えになっているのでしょう。田村氏はこうした面でもコミュニティ形成でのメリットを訴えます。

メルシャンがもつ、技術・人材・ネットワークといった無形資産を外部に開放することで、産地形成を実現していく。それは、「日本を世界の銘醸地に」というシャトー・メルシャンのビジョンの実現そのものでしょう。

産業として支え合う仕組みへ

日本ワインは確実に拡大していますが、その持続的成長には構造的な課題の解決が不可欠だと思われます。
今回の「応援事業」により日本ワイン全体が産業として次のステージへ進むことを願います。

個々のワイナリーの努力に依存してきたこれまでのモデルから、産業として支え合う仕組み、その転換が実現するかどうか、今後の展開が注目されます。

後編では、本事業の初の事例、美瑛ファームが目指すワイン造りをお伝えします。
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