日本人初となるマスター・ソムリエ(MS)※の有資格者である高松亨(たかまつ とおる)さん。
※一般社団法人日本ソムリエ協会の名誉称号であるマスターソムリエとは異なる。
じつは現在、地域おこし協力隊として北海道余市町で活動中です。
今回、そんな高松さんにインタビュー。
余市町の地域おこし協力隊に受け入れられた経緯や活動内容、さらに余市のワインなど、いろいろな質問をぶつけてみました。
世界で活躍し続けてきた高松さんの貴重なお話。
ぜひ、チェックしてみてください。
余市町の地域おこし協力隊の受け入れについて
余市町の地域おこし協力隊として活動している高松さん。
じつは当初、この話はドメーヌ・タカヒコの曽我さんのところに短期的な研修を申し込んだところからはじまったそうです。
「現在、マスター・オブ・ワイン(MW)の勉強をしているのですが、この資格は栽培・醸造といった部分が深くかかわってくるんです。そのため、実際にワイナリーでワイン造りを学ぶ必要がありました。そういった理由から曽我さんに短期的な研修を申し込んだんです。」
しかし、ドメーヌ・タカヒコでは短期的な研修を受け付けていなかったそう。そこで曽我さんに紹介されたのが、“地域おこし協力隊”という制度。
「新規就農の制度も紹介されたのですが、2月頃に“地域おこし協力隊”という制度を紹介され、結果的にそちらの制度を利用することになりました。もともと余市のワインは面白いと思っていましたし、世界と戦えるワインだと感じています。これからどんどん宣伝していきたいですし、将来的には自分のワイナリーを立ち上げ、そういった立場からも余市のワインを世界に広めていきたいですね。」
レストランで働くのも魅力的ではあるものの、経験を積み重ねることで現場ではなくマネジメントの道に進んでしまうことに違和感を感じていたという高松さん。
「自分はどうしてもワインと常に接していたいんです。ブドウの育ち方やワインの質など、現場から“モノ”を伝えるというあり方が自分らしいと感じています。アメリカやオーストラリア、ヨーロッパでワイナリーを立ち上げてもインパクトがありません。曽我さんと話しているうちに、莫大な開業資金ではなくてもワイナリーをスタートできることもわかりましたし、背中を押された形で自分も余市でワイナリーを将来設立したいと考えています。」
受け入れ前の日本ワインに対するイメージについて
長く海外で活躍してきた高松さん。
実際、受け入れ前の日本ワインについてどのようなイメージを持っていたのでしょうか。
「僕が初めて飲んだ日本ワインは、中央葡萄酒の〈GRACE WINE〉でした。品質も素晴らしいワインでしたし、好印象でしかありませんでした。“日本でもこんなワインが造れるんだ”といったイメージですね。」
中央葡萄酒の栽培醸造家の三澤彩奈さんとも親交があるという高松さん。
日本トップクラスのワインから日本ワインに入ったことは、大きなポイントだったのかもしれません。
地域おこし協力隊としての活動について
現在、地域おこし協力隊として高松さんはどのような活動をされているのかお聞きしました。
「メインのミッションとして、世界に余市ワインを届けるといった活動をしています。輸出先とすれば、アメリカとフランス、イギリス、オーストラリア。これから知ってもらいたい余市のワイナリーのワインをコストの調整をしながらか3、4ケースずつ集めてパレットにし、世界のインポーターと交渉していきます。」
まず、世界で認められるワインとなること。
“世界が認めた余市ワイン”となることで、世界はもちろん国内需要にも繋がると考えているといったお話は興味深い部分でした。
もちろん将来のワイナリー設立のためにドメーヌ・タカヒコでの栽培と醸造の勉強も並行しているということで、だいぶ多忙な日々を過ごされているようです。
余市ワインの特徴について簡単に教えて頂けますか?
余市のワインに特徴があるとしたら、どんな部分があるのかお聞きしてみました。
「ボルドーやブルゴーニュのようなトラディショナルなワイン産地の場合、多くの生産者が消費者のことを考えて清澄したり濾過したり、ビジネスとしてワインが消費されているイメージがあります。一方、曽我さんを筆頭に余市のワインは亜硫酸などの使用量が少なかったり、無添加、添加しても限りなくゼロにちかい傾向があるように感じています。見た目や衛生面から清澄や濾過は重要だとは思いますが、やはり旨みや香りなど失ってしまうものも多いのではないでしょうか。」
また、そういったナチュラルな造りでありながら、品種香がしっかりとした上にオフフレイバーがなく、すいすい飲めるといった部分も余市ワインの特徴だと気がついたそう。
「ピュアなワインもいいかもしれませんが、品種香を感じなければどの品種を飲んでいるかわかりませんし、個性が無い…といった結論になってしまいます。そういった意味でも、余市のワインはバランスがとても良いといった印象です。」
世界がナチュラルなワイン造りへと変化していく中、余市はその中でも良質なワインを生産する産地ということが高松さんのお話からしっかりと伝わってきました。
余市のワインと他産地の違い
日々ワイナリーは増加傾向であり、今や日本全国にワイナリーが点在するまでに日本ワインが発展しました。
その中で、重要になってくるのが、“産地の差別化”です。
余市のワインとほかの産地と違いがあるとすれば、どんなところがお聞きしてみました。
「先ほどお話したように、やはり余市ワインの特徴は、“クリーンでナチュラル”といった部分だと思います。産地としてこういった動きが強いことから世界のワイン地図の中で、“北海道はこういったスタイルのワイン”と認識してもらえるように輸出していきたいですね。」
ほかと比較して特徴的であることは重要かもしれないが、そもそも“飲んでくれる人が美味しいと思ってもらえるワインであること”が大切だと高松さんはいいます。
「自分もレストランで働いていましたが、自分が美味しくないと思ったワインをお客さまに、“美味しいワインです”と出すことはできません。まず、ワインが届いたレストランのソムリエが飲んで美味しいと思えば、そのワインについて調べると思います。そういったシーンが増えていけば、余市、北海道のワインのイメージがどんどんついてくる。余市のワインの特徴を利用して、“売っていく”といった意味では、こういった部分が勝負になってくると考えています。」
“余市のワインは、この部分が優れていて差別化できている”ということを伝えるだけでなく、しっかりその違いや個性を、“ビジネス”といった視点でとらえている高松さん。
もともとソムリエとして働いてたからこその独特な視点だと感じました。
日本ワインが躍進するために必要なこと
ワイナリーが増加傾向にあるとはいえ、一時期の日本ワインブームは一段落している状況でもあります。
この状況の中、日本ワインが躍進するためにはどんなことが必要になると高松さんは考えているのでしょうか。
「ソムリエも生産者も、世界のワインの潮流を知ることが大切だと思います。例えばカベルネ・ソーヴィニヨンであれば、南アメリカや南アフリカなどいろいろな世界のワインを飲み、その潮流を知るべきでしょう。その昔、ワイン評論家のロバート・パーカーが好きな味わいのワインが流行ったものの、もはや世界のワインはそのスタイルではありません。さまざまな国のワインを飲み、時流を掴むことが重要になってくるのではないでしょうか。」
また、ワインが好きな人がそのワインを多くの人に伝えていくといった、“ワインの連鎖”も重要だと高松さんはいいます。
「例えば、オーストラリアでは以前シラーズが人気でした。しかし僕がロンドンに行って戻ってきた2年後、オーストラリアのレストランでの多くのお客様はピノ・ノワールを飲んでいました。なぜこんなことが起きたのか。それは、“ピノ・ノワールが美味しい”といった口コミが広まっていった結果なんです。ワインが好きな人がワインが好きな人に伝えることで、どんどんその輪が広まっていきます。今後、余市ワインを“余市のワインは美味しい”とワインインフルエンサーが広めていくといった構図が理想的ですし、重要だと思いますね。」
“日本を世界に誇るワイン産地、ワイン国に!”といったニュアンスのスローガンをどこかで耳にしたことがありますが、仮にそれを日本が目指すのであれば高松さんの指摘は重要です。
まず世界の潮流を知った上で世界と戦える良質なワインを造る。さらに、それをワインインフルエンサーなどが広めていきムーブメントを創造していく。
今後の日本ワインにとって貴重な提言かもしれません。
今後の展望について
高松さんに今後の展望についてお聞きしてみました。
「先にもお伝えしたように、将来的には自分でワイナリーを始めたいと思っています。余市であればピノ・ノワールも魅力的ですが、個人的にはシラーやシャルドネが良いのではないかと考えていますね。とくに、3年、4年、5年後を見据えるとシラーが面白い。コート・ロティのような、そんなシラーができあがるかもしれません。これから必ず余市は面白い産地として成長していきます。世界と余市を繋げる、そんな役割になっていきたいですね。」
日本ワイン.jpを見ているワインファンに向けて
「余市のワインを知ってもらう上で、“同じ品種・同じ金額”の世界のワインと飲み比べしてみてほしいと思っています。単体で飲んでも余市のワインが理解しにくいですし、初めて余市のワインを飲まれる方であればなおさらです。全く一緒とはいいませんが、比較的金額が近く、同じ品種で造られたワインと比較しながら余市ワインの特徴や魅力を感じていただければと思います。」
余市町の地域おこし協力隊として、余市町民となった高松さん。
初めて日本に長期滞在しているのだそうですが、シドニーと比較すると余市はゆったりした時間が流れているといいます。
「余市町は今までで一番自分らしくいられる場所」といった言葉が印象的でした。
日本はもちろん、世界からも注目されているワイン産地、余市町。
ぜひこれからも高松さんの活動、そして余市ワインを追い続けていきたいと思います。
高松亨氏について
高松氏は、1995年生まれで、オーストラリアシドニーの出身。15歳からバリスタとして飲食店で勤務し、20歳の時にブルゴーニュワインの味に感動。その後、オーストラリアやイギリスのレストランにて勤務するかたわら、世界各国のワイン産地を訪れ独学でワインを研究し続けていました。そして、2019年。世界のソムリエ業界の頂点に立つマスター・ソムリエの試験に合格。さらに、日本人としては初めてとなる快挙で、現在は世界最年少の有資格者とされています。
余市町の地域おこし協力隊など詳細について
北海道余市町総務部企画政策課
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