山梨県山梨市万力。
秋色に染まった山々、赤く紅葉した甲州の葉がひときわ美しい時期にお邪魔しました。
万力(まんりき)地区に佇む「Cave an(カーヴアン)」の自社畑は、太陽の光をしっかりと受け、訪れる誰もが笑顔になりそうな、まさに”パワースポット”のような場所です。
同ワイナリー代表の 安蔵正子さんにお話を伺いました。
2022年誕生、小規模だからこそ叶う丁寧なワイン造り
Cave anは 2022年に山梨のワイン特区の制度を使ってワイン製造免許を取得し、現在4年目を迎えるブティックワイナリー。
山梨県産ブドウを中心に、地域の個性を大切にしたワインを生み出しています。
現在1.4haの畑を持ち、年間約6,000本を生産しています。
主力は甲州ですが、実は近年こだわっているのは プティ・マンサンやタナ といった“暖かい地域向け”のヨーロッパ系品種。「特にプティ・マンサンは今とても面白い品種。タナはタンニンがしっかりしていて、毎年いい色が出るんです。」と話されます。
畑では メルローとタナを1列ごとに植える“混植形式” も試みていらっしゃり、品種ごとの相性や土地の特性を探りながら栽培に挑戦されています。
タナはタンニン豊富で骨格がしっかりとしているが、味わいがビターチョコレートのような単調なものになりがち、一方メルローはこの畑だと色づきがもう一歩欲しいところだが、ワインにすると豊かな果実味をもたらす。それぞれの品種が骨と肉の役割をしてくれ、バランスよい赤ワインに仕上がるとのこと。

南向き斜面、粘土質、“ブドウに最適”と“人には大変”の畑づくり
万力地区の畑は、標高430mの南向きの急な斜面にあり、富士山を正面に望む素晴らしい景観の立地。粘土質で水はけがよく、日照量も申し分ない。風通りも非常に良い。
「ブドウにとっては最高の環境。でも人間にはなかなか大変なんです。」
急斜面ゆえの重労働、道幅も狭いので車も出し入れしにくい、日当たりの良さゆえの雑草の勢いがすごい…。
それでも正子さんは、この土地のポテンシャルを信じて丁寧に畑仕事を積み重ねています。
仕立て方法は 棚仕立て・垣根仕立て・新短梢(棚コルドン) を品種と土地に合わせて使い分けていらっしゃいます。
「畑を借りた時点で棚があるかどうか」「品種の性質」などを判断し、最適解を選ばれているのです。
畑の隅には、小松菜やルッコラが盛りだくさんに茂っています。
「どうせなら食べられるものを」と数年前に種を植えたそうですが、畑に除草剤を使用していないため、これらの野菜は収穫しても毎年自然に生えてくるそうです。
都内スーパーでのルッコラのお値段を前に見送ることもある筆者としては、羨ましい限り。他にもズッキーニやナスなども、自分たちの畑から収穫しているそう。
自然と共に畑仕事に勤しみ、自園の野菜を使った食事とワインを楽しむ。本質的な”豊かな暮らし”とは、もしかしたらこういったところにあるのでは、と考えさせられます。
春の畑に咲くルッコラ

春に小松菜が花をつけている様子
小規模だから可能な“見守る醸造”
醸造所はコンパクトだが、こだわりの要素がぎゅっと詰まっています。
破砕・除梗を行ったブドウは、フォークリフトでタンクへ移動。ステンレスタンクに加えて特徴的なのは、Cave anのロゴが入った北海道製の可愛いコンクリートタンクです。
ここには 甲州の「醸し(かもし)」 を入れているそう。
「甲州の醸しは渋みが出やすいので、少し空気が通るコンクリートや樹脂タンクでまろやかに仕上がるようにしています」
発酵では使わず、貯蔵に使うことで柔らかな風味を引き出す──自身のこだわりを持ち、繊細なアプローチが印象的です。

“ワイン造りの要”を、フランスと日本で学ぶ
正子さんは、同じく山梨県にある勝沼の丸藤葡萄酒工業にて長くワイン造りをされてきました。また、旦那様の転勤に伴って渡仏された際には、 ボルドーでもワイン造りを経験されています。
「フランスは特別なことをしていると思っていたんです。でも実際は日本のやり方とほとんど同じでした。決定的に違うのは “ブドウの質” なんです」
技術の差というよりはいかに基本ときちんと踏まえるか、あとはブドウそのもののポテンシャル。
それを肌で感じられた経験から、Cave anの哲学はより明確になったようです。
「良いブドウをつくること、そして基本に忠実であること、がすべての要。」
ブドウや土地と向き合い、そのままの個性を素直に表現することを大切にしています。
目指すのは “料理を邪魔しないワイン”
正子さんのワイン造りのテーマは明快です。
「食事と一緒に飲んでいて、気づいたらグラスが空になっている。そんな料理を邪魔しないワインを目指しています。」
そう、日本人の食卓に寄り添うワイン。
それがCave anの核となるスタイルなのです。

Cave anのワインをご紹介
◆ ア・ターブルシリーズ(甲州100%) — 日常の食卓に寄り添う2本
“アターブル”=ご飯ですよ(フランス語)その名前のとおり、日常の食卓に合わせやすい、まさに”食中酒”に最適なシリーズです。どちらも「気づいたら飲んでいた──そんな食卓ワインです」とのこと。
【アターブル 甲州 シュールリー(辛口)】(白)
すっきり繊細、さらりとした飲み心地。
【アターブル 甲州 醸し】(オレンジワイン)
コンクリートタンク使用。皮と種を一緒に仕込むことで、ほんのり渋みと複雑味を持つ。
果実味と旨みのバランスが良く、魚介類などにも合わせられる。
◆プレミアムシリーズ
こちらは「今日はちょっと気合いを入れて夕食を作ろう」という日や、ゲストとともに楽しむテーブルに相応しいシリーズ。
お料理上手な正子さんに、それぞれに合わせるおすすめ料理も伺ってみました。
・万力ブラン(プティ・マンサン主体) — トロピカル香と軽やかな甘み
正子さんが「今一番面白い」と語るプティ・マンサンを主体にした白。
南国の果実の香りが華やか。基本的にドライだが、ほんのり甘やかさも感じられる。
おすすめ料理:
・とうもろこしのムース
・西京焼き
・お醤油とみりん、砂糖を使った甘みのある和食
・レモンやライムを絞るエスニック
◆ 万力ルージュ(5品種ブレンド) — エレガントで柔らかな赤
日当たりが良すぎるほどの万力で育つ赤は、ガッツリではなく “柔らかなエレガンス” が出るという。
外観は、鮮やかな赤と黒の中間くらい、華やかなベリーの香り、ほどよい酸味、若いながらも丸みのある口当たりです。
おすすめ料理:
・ラザニア
・八丁味噌で煮込んだ肉料理
・醤油ベースの和食
・日本の発酵食品全般

さいごに
正子さんが最後に語ってくれたのは、ワイン造りに込められた素直でまっすぐな想いでした。
「日本ワインは本当に美味しくなっています。山梨の美しい景観と一緒に、ぜひ味わってほしい。小さなワイナリーですが、一生懸命つくっています。ぜひ山梨にも足を運んでください。」
南向きの畑に吹き抜ける爽やかな風。
丁寧に積み重ねられた畑と醸造の仕事。
その結晶が、Cave anのワインなのでしょう。

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磯部 美由紀
日本ワイン.jp 編集長
J.S.A認定 ワインエキスパート / C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
映画 フロマージュ・ジャポネ 制作実行委員会 事務局長
https://nihoncheese.jp
ワイン記事監修実績:すてきテラス
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕

