長野・山梨・静岡・新潟ーーいずれも優れたワイン産地として、確かな評価を築いてきた土地です。
”日本ワインぶどうの父”と称される川上善兵衛氏の歴史や新潟ワインコーストの勢いを背景に、昨年12月には「新潟県ワイナリー協会」も設立した新潟県。長野・山梨は言わずと知れた日本を代表するワイン産地であり、静岡にも個性豊かなワイナリーが存在します。
今回この4県が連携し、ワインを共通資源として地域の魅力を発信する「ローカルワイントークショー&試飲会」が開催されました。
会場にはメディア、旅行会社、飲食・流通関係者が集い、セミナーとトークセッション、試飲会の三部構成で、各県のテロワールとワインツーリズムの未来について語られました。
日本ワインの現在地とツーリズムが必要な理由
第一部は、ワインジャーナリストの水上彩氏による「日本ワインの現状とワインツーリズムの可能性」のセミナー。
日本ワインの“現在地”を俯瞰しつつ、4県の位置づけとツーリズムの重要性を、地質学的視点も交えて語られました。
国内のワイナリー数は約500軒以上となり、この10年で約倍増したこと、産地も北海道から沖縄まで全国に広がっていること、さらに2018年には「日本ワイン」表示が国産ブドウ100%を使い国内で醸造されたワインに限定され、ブランドの信頼性が大きく向上したことなどマーケットの成長について語られる一方、消費市場全体でのシェアの低さや経営面の課題なども指摘され、「“つくって売るだけ”では厳しい時代になりつつあり、体験や付加価値を組み合わせるツーリズムの視点が不可欠」との提案がなされました。

4県連携の鍵は「フォッサマグナ」?!
今回の4県が縦に連なる背景として、水上氏は日本列島の成り立ちに関わる巨大地質構造「フォッサマグナ」を紹介しました。
糸魚川静岡構造線に沿って4県が並ぶこと、それによる各産地の地質の多様性についての説明されました。
そのうえで、提示された各県のツーリズム可能性は至極具体的で、実際に旅をイメージさせるようなものでした。
海と山の多様性、食文化・発酵文化との連携や、カーブドッチに代表される「滞在時間のデザイン」を楽しめる新潟県。長野県については絶景と体験(収穫等)、古民家滞在など「暮らすように滞在する」提案。勝沼を中心とした密集産地の回遊性、歴史・伝統と革新の両立の魅力を感じる山梨県。富士山・温泉・火山性土壌を軸にした「火山×ワイン」ストーリーがユニークな静岡県。
水上氏は最後に、「ワインは単体ではなく、食・文化・自然・人を結びつける“ハブ”。点が線になり、面になっていくことがツーリズムの鍵なのでは」と締めくくりました。

現場から語られる各産地
トークセッションでは、各県を代表するパネリストによって各県の特徴と連携の可能性が議論されました。
ファシリテーターは株式会社食レコ 代表取締役の瀬川あずさ氏。
新潟:10ワイナリーが結集、協会発足で発信強化へ
新潟県ワイナリー協会 会長・岩の原葡萄園代表取締役の高岡成介氏は「日本酒の県という印象が強いが、新潟にも多様で魅力的なワインがある」と語り、海岸の砂地が生む白、豪雪地帯の内陸が育む赤、川上善兵衛が生んだマスカット・ベーリーAなど、気候と土壌の多様性を強みとして紹介しました。
また「ワイナリー単体だけでなく、食文化や地域資源と連携して発信することが重要」「新潟の豊かさはまだ十分に伝えきれていない」と課題についても述べられました。
2027年はマスカット・ベーリーA誕生から100年記念。それに向けても盛り上っていくことでしょう。
長野:ワインバレー構想2.0へ。移動と“伝え手”が鍵
銀座NAGANOイベントマネージャーの齋藤富士子氏は、信州ワインバレー構想の進化を発表。それによると2013年に25場だったワイナリーは、2025年11月時点で93場に増加。さらに「ワインをテーマとした観光地域づくり」を掲げ、鉄道やタクシーなど二次交通の整備、イベント回遊、地域の魅力を伝えるインタープリター育成などを進めているという。
「ワインに旅させるな」という言葉から、現地の風景と共に味わうということを伝え続けたいと語られました。
山梨:原点回帰は“畑”、多層的なテロワールへ
Wine Cellar HASEBE 長谷部酒店・日本ソムリエ協会 常務理事の長谷部賢氏は、甲州ワインの欧州でのプロモーションの動きに触れつつ、地域テロワールへフェーズが移っていることも説明。「甲州」といっても、どの畑、どの土地の味わいなのか、地域に根差したワインが一段と注目されてるそうです。
また、ワインツーリズム山梨(2016年〜)の取り組みも紹介しつつ、課題としては二次交通不足(夜間のタクシーや代行の少なさ等)を挙げた上で、4県連携を「面」として捉え直すことも提案された。
静岡:富士山×食×多酒類。体験設計で広がる余地
富士山ワイナリー醸造責任者を務めるエイミー・シンガー氏は、静岡は広域でワイナリー数がまだ少なく、回遊の仕組みづくりが今後の課題だと言います。一方で富士山麓の標高や火山性土壌といった特徴、温泉や食材、お茶文化など多くの観光資源を背景に「ワイン単体ではなく、旅の中でワインの雰囲気を楽しめる形」を模索しているそうです。
フォッサマグナの“運命共同体”として4県の取り組みを同時に聞けたことが、なにより今回のポイントでしょう。
情報共有と連携により、ワイン×観光の広がりが期待できます。

各産地のワインと食材の魅力
4県を代表するワインと食材が試飲試食で用意されました。
提供ワインはこちら。
<山梨県>
勝沼醸造/アルガブランカイセハラ2024
中央葡萄酒/グレイス甲州 鳥居平畑2024
本坊酒造/シャトーマルスプライベートリザーブ穂坂マスカット・ベーリーA
<静岡県>
富士山ワイナリー/シゼン アカフジ リザーブ2023
富士山ワイナリー/ドメーヌ シゼン 甲州2024
富士山ワイナリー/サクヤ スパークリング ロゼ
<長野県>
シャトー・メルシャン椀子ワイナリー/シャトー・メルシャン椀子メルロー2019
ヴィニョブル安曇野ドメーヌヒロキ/ソーヴィニヨン・ブラン 2023 メルキュール
有旅ワイナリー/Ryugan八十五 2024
<新潟県>
岩の原葡萄園/深雪花 赤
岩の原葡萄園/有機栽培ぶどう使用 マスカット・ベーリーA 2023
カーブドッチ/2024 サブル白
同産地はもちろんのこと、産地を跨いだ様々な組み合わせにもトライすることができ、会場では驚きや発見の声があがるなど、ワインと食の奥深さをあらためて感じさせるひとときとなったようです。

磯部 美由紀
日本ワイン.jp 編集長
J.S.A認定 ワインエキスパート / C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
映画 フロマージュ・ジャポネ 制作実行委員会 事務局長
https://nihoncheese.jp
ワイン記事監修実績:すてきテラス
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕
