みなさまは「チーズスターター」をご存知でしょうか。
チーズを作る過程では、生乳に乳酸菌などの「スターター」を入れるところから始まります。
「チーズスターター」は、乳タンパク質の凝固を促進し、独特の風味を形成するチーズの製造に欠かせない大切なもの。
しかしながら、ほとんど輸入品に頼っているのが現状です。
いま、国産の生乳とスターターを使った日本オリジナルの魅力あるチーズのために、国産乳酸菌を使ったチーズスターター「Jチーズスターター」の普及が待たれています。
今回、公益財団法人 日本乳業技術協会主催で業界関係者向けに「Jチーズスターター」の基礎知識や意義などを知るイベントが東京ガーデンパレスにて開催されました。
「Jチーズスターター」とは?
まずは「チーズスターター」からお伝えします。
チーズスターターとは、ナチュラルチーズを作る時に原料乳に加える乳酸菌、カビ、酵母などの微生物のこと。
そして、それらの働きは、①チーズ製造中に乳酸を生成し凝固を促す、②たんぱく質などを分解し、特有の味と香りをつけることです。
チーズ製造には欠かせないものだということが、おわかりいただけるでしょう。
しかしながら、現在使われているチーズスターターの90%以上が輸入品なのです。
そこで期待されているのが「Jチーズスターター」。
日本は発酵食品の宝庫!漬物、味噌、醤油、日本酒などの全国各地で優れた発酵食品が作られています。そしてそこにはご当地ならではの乳酸菌が存在するものです。
それらから特にチーズスターターとして適したものが選抜され、Jチーズスターターが作られました。
Jチーズスタータートークセッション・試食会の様子
公益財団法人 乳業技術協会理事長の姫田尚氏は、現在はサブスターターだがメインスターターにも使えるようにしていきたい、チーズは今後の酪農を支える大事なものだと考えているため、大変重要なミッションであることを述べられました。
来賓の農林水産省の伊藤歩氏は、我が国のチーズの消費量は30年前と比較するとおよそ2倍になっていること、消費されるチーズのうち国産チーズの比率も高くなっており、工房の軒数も増加傾向、さらにWCA2024での入賞などクオリティも向上している現状を紹介した上で、「この取り組みにより、国産チーズの差別化、価値向上を期待しています。それによる、さらなる需要の拡大酪農の振興も願っています。」と挨拶されました。
「チーズ製造の基礎知識とJチーズスターターの意義」というテーマで、一般社団法人蔵王酪農センター理事・営業部長の宮沢秀夫氏による講演がありました。
「国産乳酸菌安全性が検証され、本格的に実用化されつつある現状は素晴らしい、将来的にはJチーズスターターを使うことで、海外産チーズにはない特徴を出せる”これぞ日本のチーズ”が登場することを期待しています。」と述べられました。
チーズ工房トークセッションでは、一般社団法人 チーズプロフェッショナル協会会長の坂上あき氏モデレータのもと、Jチーズスターターにてチーズ製造を試された6つの生産者が、使ってみた感想、メリット・デメリット、消費者の皆様に伝えたいことなどをお話しされました。
ニセコチーズ工房の近藤裕志氏は、「一年経ったくらいのところでミルクの風味が豊かに仕上がった。入れすぎると乳の風味が強く出過ぎるため、使用量を調整する必要がある。」と、海外のスターターと入れ替えて試作した感想を述べられた。
また、”原材料100%国産にするのは長年の夢”と語る白糠酪恵舎の井ノ口和良氏。
すでにレンネットは国産のものを使用しているとのこと。
「Jチーズスターターの使い方にも様々なバリエーションが考えられるため、色々試していきたい。とにかく、もっとも大事なことは”おいしくなること”。我々はそのために技術を高めていく必要があると思っている。」と我々消費者の期待もさらに高まる発言をされました。
Jチーズスターターを使用したチーズと従来品との比較試食会も
今回Jチーズスターターを試されたチーズ工房が来場し、対照品とともにチーズを並べての試食が行われました。
試食した業界関係者たちからは「劇的な違いではないが、やはりミルクのコクを感じ、より滑らかな食感にもなっている」「日本人が好む仕上がり」「酸がきれいな印象」などのコメントが出ていました。
さいごに
ポルトガルで開催された世界最大のチーズコンテストのひとつ「ワールドチーズアワード2024」を終えた今、チーズ生産者や業界関係者の中には、「日本のチーズ」とは、「日本らしいチーズ」とはなにか、を模索する日々を送られている方も多いようです。
Jチーズスターターは、その答えのひとつになり得る存在かもしれません。
さらには、日本のチーズの競争力強化や食料自給率向上の一助としても期待が寄せられるものでしょう。
国産乳酸菌で作る「Jチーズスターター」プロジェクト、今後もその進化から目が離せません。

磯部 美由紀
日本ワイン.jp 編集長
J.S.A認定 ワインエキスパート / C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
映画 フロマージュ・ジャポネ 制作実行委員会 事務局長
https://nihoncheese.jp
ワイン記事監修実績:すてきテラス
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕