2020年7月、山形県東根市に誕生した果樹園「一家農園」。
そこで育てたブドウから造られるIKKA WINESのワインがとても特徴的であり、美味しく、そして彼らの取り組みが大変興味深かったため、栽培家の伊藤誠氏にお話しを伺いました。

一家農園について

山形県東根市で2.6hの畑からスタートした果樹園。
現在は畑は約4haまで拡がり、主にデラウエア中心に4,000本程度のブドウを栽培しており、来年は量も品種も増えて5,000本近くの栽培量になる見込み。

ここでは彼らが『生態適合農業』 (Japan Eco Friendry Agriculture )と呼ぶ自然栽培が行われています。
微生物も虫も鳥や小動物たちなどの あらゆる多様な生き物が共生する環境にするため、 土壌を耕さず、農薬や肥料にも頼ることなく、ブドウを育てています。

「生き物を大切にする文化をつくる」伊藤誠氏インタビュー

ーー現在、生態適合農業に取り組む伊藤さんですが、それまではどのような活動をされていたのでしょうか。

30歳ごろまでは会社員をしていました。
そこで動物病院の広告に絡む仕事をした延長で、野生動物保護のNPO法人のボランティアに参加し、怪我をしたハクビシンなどを保護して野生に返す活動をしていました。
ただ、その活動の中では農家からの批判を受けることもありました。
農家にとっては、ハクビシンは畑を荒らす害獣であり、嫌われものだったのですよね。
私たちの食糧を作る農業はとても大事です。しかし、一方で動物病院で病気の動物を治療したり、野生動物保護の活動では、ハクビシンの命を救っている・・・なんとか共存できないものだろうか・・・それが現在の自然栽培を考えるきっかけでした。

それ以降は、「生き物を大切にする文化を育てる」ということを人生の目標に掲げてきました。

ーーその後、具体的にはどのような行動を起こされたのでしょうか。

まず弘前や山形で数年間、農業の研修を受けました。
それまで不可能と言われていたりんごの無農薬栽培に取り組むドキュメンタリー映画「奇跡のりんご」を観て感銘を受け、その主人公である自然栽培の第一人者の木村秋則氏にあらゆる手段を使いどうにか連絡をとり、研修会や自然栽培指導員養成研修に参加しました。

さらには、全国の自然栽培の農家からの作物を販売しする「自然栽培の仲間たち」で、店舗責任者として約5年間、造り手と自然栽培による様々な作物をたべたい!思う人たちをつなぐ仕事をしていました。

 

ーーすごい熱意と行動力ですね。そこからワインを造ることにはどのように繋がってきたのでしょうか。

「生き物を大切にする」ということを一人でやっていても世界は大きくは変わらない。
どうにかその考え自体をもっと世の中に広げていきたいと思っておりました。
そうした中で、自然栽培を素材にした加工品で色々なものができることもわかってきました。
そのひとつにワインがあり、ヴァンナチュールに注目したわけです。

ワインは歴史も古く、世界中で愛飲されています。
そのためひとつの作物として深く広く研究もおこなれていることから、取り組みやすいのではと思いました。
また、有機栽培はあっても徹底した自然栽培のところはまだそう多くない。そういったところからは、我々がやる意義があると考えました。

ーーワインとなると、栽培のあとに醸造という過程がありますが、それはどのようなスタイルで行われていますか。

醸造においても「何も足さない、多くを引きすぎない」ということを心がけています。
具体的な製法でいえば、酸化防止剤不使用、無清澄、無濾過、 酵母無添加、非加熱で 醸造しています。
それには、ブドウそのものの質がとても重要ですので、もちろん自分達でこだわった自然栽培農法による自社ブドウのみを使用しています。
「ワイン造り」を「環境づくり」から手がけているということです。

場所については、現在は同じく山形県にあるイエローマジックワイナリーの岩谷澄人氏を師としアドバイスをいただきながら、設備をお借りして醸造しています。

ーーIKKA WINESのワインの特徴を教えてください。

現在取り扱い品種はデラウエアのみ。
白ワインや醸したオレンジワインなど、醸造スタイルにバリエーションを持たせています。
リンゴ酸や酒石酸の多いものをスティルで仕込み、ヨーグルトテイストの乳酸発酵するワインが特徴的で、こちらを引き続き多く造っていきたいと考えています。

ーーワインを通して伊藤さんの目指すことは

現在はデラウエアのみですが、少しずつ種類を増やしていく予定です。
ナイアガラやスチューベン、マスカットベーリーAやヤマソーヴィニヨンなど。
また、シャルドネやピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨンブランなどの欧州品種も準備があります。
生育状況をみながら、何がこの環境に合っているのかを無理なくみていきたいと思います。

とはいえ、基本的にはワインは多く造ってたくさん売るというよりは、その熟度を上げていきたいですね。
そして、私たちのワインを飲んで「美味しい!」と思っていただいたら、その理由がこの「生き物と共生し、自然と調和する生態適合農業」であることを知ってもらいたい。
さらには、飲めば飲むほどに自然を豊かにするというしくみが成立していけばよいと思います。

ーーそういったことに関心を持った方はもちろんですが、これまで関心のなかった人たちもIKKA WINESのワインを通して、伊藤さんの「生き物を大切にする文化」が広がっていくというのは素敵なことですね。