「果物の女王様」とも称されている高級ブドウ、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」。

そのほとんどが生食用として消費されているものの、一部のワイナリーではワインの原料ブドウとして使用されています。

同品種はシャルドネやソーヴィニヨン・ブランといったワイン用ブドウとは性質が違うとはいえ、ワインに利用するのは大変贅沢なことです。

マスカット・オブ・アレキサンドリアにはどういった特徴と魅力があるのか、ここで解説していきたいと思います。

ブドウとしてのマスカット・オブ・アレキサンドリア

まず、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」とは、どういったブドウ品種なのか学んでいきましょう。

オリエンタリス群アンタシアティーカ亜系

マスカット・オブ・アレキサンドリアは、ヨーロッパブドウのひとつと分類されています。

“シャルドネやピノ・ノワールとは全く違うブドウだと思うけど…”と思われた方もいるでしょう。

そもそもヨーロッパブドウには…

  • ポンティカ群
  • オキシデンタリス群
  • オリエンタリス群

という三つのグループがあり、シャルドネやピノ・ノワールのようなワイン用ブドウは「オキシデンタリス群」、マスカット・オブ・アレキサンドリアは「オリエンタリス群」に属します。(「ポンティカ群」は東ヨーロッパのワイン用ブドウなどの群)

オリエンタリス群は、カスピ海、黒海沿岸地域から中近東へ進んだ品種群と考えられており、さらこの群には醸造用品種もふくむ「カスピカ亜系」、そしてイスラム教による禁酒法の影響でカスピカ亜系の中から大粒化,多肉化の生食用ブドウとして選抜された「アンタシアティーカ亜系」の二つのサブグループが存在しています。

“大粒化,多肉化の生食用ブドウ”といったキーワードからわかるように、マスカット・オブ・アレキサンドリアはオリエンタリス群の「アンタシアティーカ亜系」。

生食用であることからアメリカブドウだと思われている方も多いようですが、マスカット・オブ・アレキサンドリアは古くから栽培されているヨーロッパブドウのひとつでもあったのです。(ちなみにエジプトのアレキサンドリア港から世界に広まったことが名前の由来だとか…)

アメリカブドウとの違い

同じ生食用でもアメリカブドウの「デラウェア」、「キャンベルアーリー」、「コンコード」といったアメリカブドウとマスカット・オブ・アレキサンドリアではその特徴が違います。

アメリカブドウは、果皮と果肉が簡単にはがせる構造(スリップスキン)が特徴ですが、マスカット・オブ・アレキサンドリアは果皮と果肉が密着しているため皮ごと食べることが可能。(シャルドネなども同様に…)

さらにアメリカブドウに比べて、大粒で多肉、硬い肉質にかみ切りやすい特徴があるため日本でも爆発的人気を誇っていると考えられます。

マスカット・オブ・アレキサンドリアと岡山県

日本でもマスカット・オブ・アレキサンドリアが栽培されている…というものの、その9割は岡山県で栽培されています。(一部は香川県だそう)

なぜ、岡山県ばかりで同品種が栽培されているのでしょうか。

マスカット・オブ・アレキサンドリアが日本に入ってきたのは、1880年頃。

兵庫県印南新村に開設された播州葡萄園に植樹されたといいます。

その後、1886年に岡山県津高群の山内善男氏と大森熊太郎氏が播州葡萄園から苗木と栽培技術を持ち帰り、同品種の温室栽培を全国に先駆け開始。

品種改良・技術開発などの結果、温室栽培が大成功し、岡山県を中心に産地化したと考えられているようです。

ただし、近年ではシャインマスカットの栽培の方が容易である上に需要も高いことから、シャインマスカットに品種替えをする農家が増加中なのだとか。

これも時代の流れなのでしょうか…。

ワインとしてのマスカット・オブ・アレキサンドリア

ここからは、ワインとしてのマスカット・オブ・アレキサンドリアについて解説していきます。

栽培と醸造

マスカット・オブ・アレキサンドリアは、生食用もワイン用も基本的に温室栽培で育てられます。

ただし、ワイン用は糖度を高めるため生食用よりも収穫期が遅くなる傾向にあるそうです。

また、醸造は香りと繊細な甘さを生かすため、酸素などの影響を徹底的に避ける手法でおこなわれます。

複雑な香りや味わい、初心者には難しい味わいを目指すというよりは、マスカット・オブ・アレキサンドリアでワインを製造する場合、その品種個性を全面に押し出したピュアなワインが造られている傾向にあるようです。

香りが特徴的

マスカット・オブ・アレキサンドリア最大の特徴は、その香りです。

マスカット香に関与しているテルペン香が存在しているため、華やかで甘い香りをしっかりとキャッチすることができます。

前述したようにマスカット・オブ・アレキサンドリアは香りを重視した醸造がおこなわれるため、この香りがどれだけワインに閉じ込められているかが重要です。

これら香りは揮発しやすいため、ワインを抜栓したらできるだけ早く飲みきった方がよいでしょう。

ご褒美ワインとして使いたい

マスカット・オブ・アレキサンドリアから造られるワインは、ブドウ由来の甘味を感じる上にアルコール度数が低いため初心者でも飲みやすいところが特徴です。

さらに前述したマスカット・オブ・アレキサンドリアが持つテルペン香には、リラックス効果があることが研究でわかっており、癒された時の一杯としては最適といわれています。

日曜日の午後や週末の夜、マスカット・オブ・アレキサンドリアを使ったスイーツと合わせてみたり、甘過ぎないレモン系スイーツと合わせると最高の癒し時間を楽しむことができそうです。

品質を厳しく調査したり飲み比べてしたり、ガッツリ系料理と合わせるといった使い方ではなく、ちょっとしたご褒美時間のおともに使いたいブドウ品種なのではないでしょうか。

日本ワインでも楽しめるマスカット・オブ・アレキサンドリア

マスカット・オブ・アレキサンドリアのワインは輸入ワインに多いものの、「ふなおワイナリー」やサッポロビールの「グランポレール」といった日本のワイナリーでも製造されています。

偉大なピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネといったワインとは違った、贅沢な時間を味わうことができるブドウ品種、マスカット・オブ・アレキサンドリア。

ぜひ、楽しんでみてはいかがでしょうか。

参考

日本における生食用ブドウの栽培動向とその遺伝的背景

マスカット・オブ・アレキサンドリア