ソムリエをはじめとしたプロのワイン・テイスターたち。
「自分もプロみたいなテイスティングコメントしてみたいなぁ〜」と思われている方も多いかもしれません。
さて、そもそもワイン・テイスターの方々はワインの香りを取ったり液体を口に含んでいる時、どんなことを考えているのでしょうか。
ここでは、以前ローマで行われたユニークな研究をベースに、“ワイン・テイスターたちがテイスティング中にどんなことを考えているのか”わかりやすく解説していきます。
謎の実験
2002年、ローマのアレッサンドロ・カストリオータ・スカンデルベルク博士率いる研究チームがユニークな実験をおこなったことで話題となりました。
それが、“プロレベルのワイン・テイスターと素人と比べて、ワインの味わい方にどのような差があるのか”という実験です。
同実験の被験者はプロソムリエ7人に素人(ワインテイスティングの技能を持っていない)7人。
ワインを飲んでいる時の脳の反応をそれぞれモニターしたのだそうです。
まず、被験者にはワイン3種類と比較対象のためのブドウ糖溶液の計4種類の液体がチューブで順番に与えられ、ワインの種類の特定をさせた後に評価させます。
さらに、口の中に溶液があるときと飲み込んだ後でどちらが味を強く感じられたか教えてほしい、とも指示されたようです。
何が起こったか?
まず、溶液が口に含まれている段階。
この段階では、プロソムリエも素人も味覚中枢に関連する部位が活性化したそう。
ただし、プロソムリエの方だけ「扁桃体」と「海馬」の領域が活性化したことがわかりました。
後味を感じている段階になると素人も同領域が活性化するものの右脳のみ。プロソムリエは左右両方の脳がっしっかりと活性化していたことが確認されました。
さらに興味深いのがプロソムリエたちのみ、左脳の「背外側前頭前野」が活性化したという結果となったことです。
これら領域が活性化したということは、どういうことなのか…。
次のセグメントでもう少し詳しく解説していきましょう。
ソムリエは楽しみながら分析戦略をおこなっていた
まず、味覚中枢に関連する部位は風味の情報処理に関連する領域ですので、ここはどんな人でも活性化して当然の部位といえます。
問題は、プロソムリエのみ活性化した「扁桃体」と「海馬」、「背外側前頭前野」です。
扁桃体は恐怖や不安などに関連する情動反応に関連している領域として有名ですが、じつは動機づけ行動にも大きく関与しています。
さらに、海馬は記憶に深く関与する領域。
この実験をしたスカンデルベルク博士によると…
「早い段階でこの領域が活性化したソムリエたちは、ワインの識別に意欲的であったことをうかがわせる」とのこと。
ワインテイスティングをすることで報酬(嬉しいとかワインを楽しめるとかそういった意味での…?)を期待し、蓄積されている記憶から答えを導きだそうとした、ということかもしれません。
また、「背外側前頭前野」。
あまり耳慣れない領域かもしれませんが、この部位は記憶や学習、推測、推理、注意、判断などに関与する領域。
つまり、プロソムリエたちはワインを口に含んだ後、ワインを当てるための分析戦略を即座に行っていたことがわかったのです。
さらにこの戦略は、“風味と言語を結びつける言語関連のものかもしれない”という意見も。
ワインを口に含むだけなのにもかかわらず、即座にプロのソムリエたちは脳をフル活用していた…という結果になったのがこの実験でわかったことだったのです。
素人とは結局何が違う?
今回の実験からわかったことを簡単にまとめると…
プロのワイン・テイスターはワインを飲んだ時に、“これはどんなワインか!?”ということを探すことに喜びを感じ記憶を引っ張りだす。
その後、どういった言葉で伝えるべきか風味と言語を結びつける作業を無意識のうちにしている…ということなのです。(と、いう可能性がある)
素人の場合、ワインを飲んだ時に“これってワインだよね。甘いかな、渋いかな?”などそういった部分のみを確認し、最終的に“これ飲んだことあるっけな…”といった記憶を探し出すところで終わっていた…という見方ができます。(と、いう可能性がある)
冒頭、「自分もプロみたいなテイスティングコメントしてみたいなぁ〜」という架空の誰かの台詞を出しましたが、プロ並みのテイスティング・コメントを引っぱりだすためには…
- とにかくワインを飲んで記憶にとどめる
- 飲んだワインについて調べる
- ワインの知識を増やす
- 風味を伝える言語を鍛える
ということになりそうです。
何となく教科書でワインコメントの表現や性質を学ぶのもいいですが、体で感じないとプロなみのテイスティングコメントは出てこないのかもしれませんね。
ワインテイスティングを楽しもう!
ソムリエというくらいですので、ワインのプロたちは数多くのワインをテイスティングしています。そして、脳をフル活用しながらそのワインについてアウトプットしていく作業もおろそかにしていません。
一説によるとソムリエは認知症になりにくともいわれており、もしかしたらワインテイスティングは“脳活”にも役立つ可能性もありそうです。
無理にプロフェッショナルを目指す必要はありませんが、漠然とではなく、真剣に楽しみながらワインテイスティングをしてみましょう。
いつもより少し頭がスッキリしだすかもしれませんね。
参考
新しいワインの科学 ジェイミー グッド (著), 梶山あゆみ (翻訳)