ワインは保存に気を使うべきお酒のひとつとされています。
その証拠に、抜栓後のワインを保存するためのストッパーの数たるや、ほか酒類の比ではありません。
なぜ、ここまでワインは繊細なのか…。
その理由のひとつが、「酸化」にあります。
ここでは、ワインの酸化についてロナルド・ジャクソン博士のレポート「WHYNOT とワインの酸化」を参考に解説。
上手にワインを保存する際の参考にしてみてください。
ワインの酸化について
ワインは空気中の酸素に触れることにより、さまざまな化学反応を起こしやすいお酒です。
例えば、じっくりと樽で熟成させるワインや特殊なワインでない限り、ワイン醸造家は徹底的にワインを酸素から守ることに心血を注ぎます。(フレッシュ&フルーティーな白ワインは特に!)
醸造段階のワインはもちろんのこと、市販されているワインであっても一度抜栓すれば必ず酸素の影響を受けることになるでしょう。
ここではまず、ワインの酸化による影響についてまとめてみました。
- ワインが酸化すると起こること
- 香りの喪失
- わいにどんな変化が起こる?
それぞれ解説していきましょう。
ワインが酸化することで起こること
ワインを抜栓した際、ボトル内部に流れ込む空気はおよそ14ml。(うち、酸素は約3ml)
この時、酸素とワインにふくまれるさまざまなフェノール化合物が反応し、さまざまな化学反応が起こるとされています。
これら、酸化によってワインがどうなっていくのか順を追ってみていきましょう。
ワインが酸素と接触
↓
酸素がフェノール化合物と反応
↓
酸化したフェノールが過酸化水素を生成
↓
過酸化水素がワインの有機成分と反応
↓
アセトアルデヒドと水が生成される
↓
ワインの褐色化とフルーティーさの喪失
↓
シェリー酒風味に…
これを見る限り酸素自体がワインに直接に何らかの影響を及ぼしているわけではなく、“酸化による各種反応の結果”といったニュアンスと理解できるでしょう。
透明な白ワインを抜栓後、放置していたら褐色化し、なんともいえない味わいになってしまった…という体験をした方は多いはず。
この流れを、まずワインと酸化の関係性の基本として覚えておきましょう。
香りの喪失
前述したワインの酸化を見ると、アセトアルデヒドがワインを劣化させている要因であると理解できます。
しかし、アセトアルデヒドはワインにふくまれる亜硫酸やフェノール化合物と反応しやすく、無臭の合成物となるため多少の酸化ではそこまで劣化しないはずです。(つまり酸化に赤ワインの方が強い。ヴァンナチュールの白ワインの取り扱いが難しい理由のひとつがココ)
一方、近年の研究によると酸素による酢酸エステルやテルピネオールと呼ばれる、ワインの香りに強い影響を与える成分の分解が問題視されているそう。
つまりそのフルーティーさがウリである一部の若い白ワインは、酸化によってその香りが急激に失われてしまう…ということになります。
さらに、赤ワインでも香りに関与する成分の分解により、白ワインほどではないものの香りが喪失されていることもわかりました。
味わいにどんな変化が起こる?
ワインの酸化によって、ワインの味わいにどのような変化が起こるのでしょうか。
まず、アセトアルデヒドが関連したシェリー様の香りや褐色化による影響があった場合、ワイン本来の味わいからはほど遠い風味になってしまうと考えられます。
仮にこれをフェノール化合物や亜硫酸などで防げたとしても、ワインの持つフルーティーさの喪失は防ぐことができません。
若いワインであれば果実の香りや花のような香りがなくなり、熟成を経たワインはその熟成した香りが劣化臭として形で表れるとされています。
仮に、この二つのダブルパンチを受けた場合、もはやそのワインはボトリングされていたワインとは別物のお酒になっている…と考えることもできるわけです。
ワインの酸化を防ぐには?
抜栓されたワインは、相当特殊なワインストッパーを利用しない限り酸化の影響から逃れることはできません。
前述したように、抜栓後にワインに空気(それにふくまれる酸素も)が流れ込みます。
その後、コルクなどで再度栓をすると、ある程度空気はボトル外へ押し出されるものの、乱流が起こりヘッドスペースに酸素が残ってしまうため、ワインの酸化反応は進んでしまうのです。
では、どうすればいいのか。
まず、ワインへの酸素吸収量をできるだけ抑制するという方法があります。
ワインの温度、そしてpH値が低ければ低いほど酸素吸収量は抑制されるとされているため、できるだけ温度が低い場所で抜栓しましょう。(pH値が低いか否かはワインによる…)
また、当然ですが抜栓したらすぐにコルクまたはワインストッパーで再び栓をしましょう。
時間がかかれば、当然それだけワインと酸素が接触する度合いが増えてしまうためです。
しかし、一度抜栓したワインは必ず酸化します。
絶対に防ぎたい場合、酸化させないことに特化した特殊なワインストッパーや器具を使うしかないでしょう。
ただし、窒素ガス注入タイプであれば、真空タイプや不活性ガススプレーボトルタイプよりは効果が期待できるとのこと。
窒素ガス注入タイプは初心者にとって使用が難しいですが、大切なワインを美味しく飲みたいという場合にはチャレンジしてみてもよいでしょう。
ワインと上手に付き合おう
ワインは生き物と呼ばれることがありますが、酸化における反応を知ればその理由が理解できるはずです。
ネガティブなイメージだったかもしれませんが、当然抜栓した途端ワインが飲めなくなるようなことはなく、長時間・長期間空気と接触させた場合、特徴が失われるといった意味でお伝えしています。
熟成させた赤ワインや還元的な白ワインの場合、若干の酸化がよい方向に向く場合もあるでしょう。
ワインとは上手に付き合う。
これを、あらためて考えてみてください。
参考
WHYNOT とワインの酸化
http://ftechjapan.jp/about/pdf/dr_ron.pdf