近年、高アルコールではなく、“低アルコール”のワインが人気です。
パワフルかつ果実味の強い高アルコールワインがもてはやされた時代もありましたが、世界的にも繊細で緻密、エレガントなワイン造りが潮流となってきています。
さて、そもそもワインにおけるアルコール度数はワインの味わいに変化をもたらすのでしょうか。
ここでは、アルコール度数とワインの関係性について考えてみたいと思います。
客観的な印象
発酵の工程で酵母によって生成されるアルコール。
一般的にワインは10〜15%ほどのアルコール度数となり、14%を超えると高アルコールのワインとして扱われる傾向にあります。(フォーティファイドワインではく…)
飲み手が感じるアルコールの高い低いの客観的基準は、“キツい”か“飲みやすいか”といった具合であり、また酔っぱらいやすいか否か程度のものでしょう。
しかし、ワインにはさまざまな風味化合物などがふくまれているため、アルコールの高い低いがかなりその味わいに影響を与えるといわれています。
一体、アルコールはワインにどのような影響を与えるのでしょうか。
アルコール度数による感じ方の違い
アルコール度数による感じ方の実験は、逆浸透膜と呼ばれる操作が駆使されます。
この方法を使えば同じワインであっても、15%、14.5%、13%といったかたちでアルコール度数のみを変化させることが可能です。
こういったアルコール度数だけが違うワインを試飲させたとある実験によると、アルコール度数が高ければ高いほど、“渋み”と“苦味”が増すことが判明。
さらに、高アルコールワインは“熱い”と表現されることが多いようです。
実際に液体温度は同じであっても、水とウイスキーでは熱さが違うような印象を受けますが、ワインもそれと同様の現象が起きているのかもしれません。
アルコールと香り化合物の関係性
冒頭でお伝えしたように、以前一部のワイン評論家の好みに迎合する形で高アルコールワインが市場を席巻していた時代がありました。(気候変動、新しいワイン産地の影響なども関連)
市場に出回るワイン全体のアルコール度数が上昇する中、とある研究者はアルコールが赤ワインの知覚に及ぼす影響を研究。
すると、前述したように苦味や渋みを増やす一方、酸味の減少、そして甘さの感じ方を変化させていることがわかりました。
香りの少ないワインになる?
アルコールには、香り化合物の溶解度を変化させる働きがあることがわかっており、アルコールによって香り化合物が溶液から放出されにくくなるといいます。(つまり、香りの少ないワインになる)
2000年におこなわれたとある分析によると、アルコール濃度が11%から14%に上がると、ワインにとって重要な揮発性成分の回収率が低くなったそう。
その結果からも、アルコール度数が高まると低いものに比べて香りが少ないワインになるわけです。
また、そのほかの研究では、ワインにふくまれる濃度と同様になるように調整された9種類のエステルをふくんでいる溶液にエタノールを添加。
アルコール濃度が高くなるにつれ果実味が減少し、最終的に14.5%になると完全に果実味は失われてしまったとのことです。
高アルコールでボリューミーなワインの秘密
これらの事実を踏まえると、“ワインの香りを大切にするなら、いたずらにアルコール度数を高めてはならない”という結論が導きだせます。
しかし、今もなお高アルコールで果実味爆弾のようなリッチでボリューミーなワインは少なくありません。
じつはアルコール濃度が高まることで“コショウ”や“木材”、“薬品”を思わせる匂いが増加し、粘り気や焼けたような作用を高めることが知られています。
そして高いアルコール度数の赤ワインはしっかりと新樽で仕込まれたものが多く、これがよりリッチな印象を与える理由になっている可能性はあるでしょう。
ただ、そのほかに何らかのコントロールによって果実味を強く感じるように造られている(いた)可能性もあります。
ワインは複雑なので研究室でおこなわれた実験がそっくりそのままリアルに繋がることは少ないかもしれませんが、14.5%で果実味が失われている…ということを考えると不思議な気持ちにならざるを得ません。
もちろん、高いアルコール度数を凌駕する果実味の強いブドウが収穫できたと考えたいですし、“きっと、そのはずだ”と思った方がワインを無心で楽しむためにはよいかもしれませんね。
今後低アルワインブームが来るか!?
近頃、香りなどを大切にするために高過ぎないアルコール度数のワインが潮流になっていますが、やはり健康効果を考えた上での低アル人気といった側面もあるでしょう。
ノンアルコールワインが増えてきている上に、アルコール度数が10%以下のポルトガル ヴィーニョ・ヴェルデも人気が高まっています。(一部アルコール度数の高いものもある)
もともと日本ワインはアルコール度数が高くない傾向にあり、ここ10年ほどで逆にそれを武器とした良質なワインが多く製造されるようになりました。
今後、低アルワインブームが到来するかもしれませんね。
参考
The Science of Wine Taste ジェイミー・グッド (著), 伊藤伸子 (翻訳)