ワインの世界に片足を突っ込んでいる方であれば、「テロワール」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
「山梨県勝沼町の鳥居平のテロワールは…」など、日本ワインを語る上でもテロワールという言葉を耳にすることが増えました。
そのため、ある程度「テロワール」について知っておいた方が今後ワイン選びやワイナリー訪問の時に役立つはずです。
ここでは、テロワールについて、使い方の注意点などをまとめています。
ぜひ、参考にしてみてください。
テロワールについて
テロワールとは、ワインにおける「ブドウの栽培環境」などを語る際に使用されている用語です。(フランス語の「Terra」が語源とされています)
ちなみにワインだけではなく、タバコやチョコレート、コーヒーなどにも使用されているため、「テロワール」はワインの専売特許ではないことは覚えておきましょう。
さて、テロワールは定義があるようでないため、“これこそテロワール!”といった答えがありません。
そのため人によって捉え方、考え方が違うため利用には注意が必要です。
それについては後述するので、まずはテロワールの基本的な要素について解説していきましょう。
テロワールの基本要素
テロワールについて、「ブドウの栽培環境」とお伝えしました。
しかしこれでは漠然とし過ぎているので、もう少し分解していきましょう。
ブドウの栽培環境
- 土壌
- 立地
- 気候
- ブドウ(品種、台木、仕立て方など)
- 微生物の作用
こんなところでしょうか。
また、近年ではブドウの栽培環境だけでなく「人的介入」などもテロワールにふくめるべきだ、という向きもあります。(人的介入は違うという意見も、もちろんあります)
要するに、テロワールとはブドウが栽培されている場所の「土壌組成や気候条件、傾斜などの立地、栽培されているブドウの品種や仕立て方」、そして「ブドウを栽培する人間やワインを醸造する人間の技術や哲学」といった感じになるかもしれません。
では、実際にこの法則に当てはめた上でとあるワイナリーのテロワールについて考えてみましょう。
とあるワイナリーのテロワール
山梨県南アルプス市にある、とあるワイナリーのテロワールをみていきましょう。
- 原料ブドウが栽培されている場所
このワイナリーが使用するブドウは甲府盆地西部にカテゴライズされる場所に位置している畑で栽培されています。
御勅使(みだい)川が西から甲府盆地に流れ込む扇状地で、畑があるのはその右岸です。
- 土壌
南アルプスの山を背負っていることから、角張った礫を含む砂質土壌となっていることから水はけは抜群です。
- 気候
さらに夏が暑く冬は寒い気候条件で昼夜の温暖差が大きく、ブドウの生育期の降雨量も少ないため品質の高いブドウが栽培できるといわれています。
- 立地
自社畑は風通しの良い、傾斜が厳しい場所に開墾。
- ブドウ品種
水はけの良い土壌条件や降雨量の少なさに魅力を感じ、マスカット・ベーリーAを主体に栽培。ほか、買いブドウは有機栽培を実践する農家から購入します。
気候条件が良いため、農薬はほとんど使用しない栽培に挑戦しています。
- ワイン醸造
ブドウが持つ個性、テロワールを生かすためにできるだけ自然酵母を使用し乾燥酵母は完全無添加。亜硫酸もゼロかごくわずかだけの使用でワインを醸します。
- 人柄
明るい、楽天的な人間。ナチュールなども手掛けることから、自らも長年ヴィーガンを実践中。
ざっくりではありますが、このワイナリーのテロワールについてまとめてみました。
これを見るに、「ワイナリーの特徴について教えてください」といった質問を分解していった感じですね。
テイスターとしてのテロワール
テロワールという言葉を単純に分解していった場合、前述したようなかたちの解釈になります。
しかし、テロワールが人によって捉え方が違うとお伝えした通りこれだけではない、いろいろな意味合いや考え方があるようです。
そのひとつが、テロワールは栽培環境や人的介入のことというよりは、「ワインの味」を表現する上で利用されるというパターン。(ワインテイスターの視点)
“このワインからテロワールを理解できる”といったように、その産地の個性をあらわしたワインに対し“地味”を感じる場合に利用されます。
例えば、標高が高く冷涼な産地で石灰岩質の土壌で栽培されたブドウから造られたワインがあるとします。
“シャープ酸味を感じるだけでなく、骨格があり、ミネラルを思わせる風味も感じる”という場合、“テロワールが表現されている”と考えることができるでしょう。
ここでいうテロワールの場合、ブドウの栽培環境といった前提はあるものの、そこにフォーカスするというより、ワイン自体に「テロワール」を感じるか…という、“ワイン目線”の使われ方という意味となります。
少しややこしいのですが、こういったかたちでテロワールを使うことにより、畑や区画、村単位でのテロワールの違いを表現できますし、その土地の個性を最大限生かしているか否か、という判断基準にもなるということです。(マーケティングにも向いている)
一部のワインテイスターはよくこのテロワールをこういったかたちで利用しているので、今後じっくりとテイスティングコメントに耳を傾けてみるとよいでしょう。
テロワールへ違和感を持つ考え方
テロワールの考え方や捉え方についてここで徹底解説するのは困難ですが(そもそも正解がない)、基本的な考え方としてはご理解いただけたと思います。
ただし、冒頭でお伝えしたように「テロワール」の使い方には注意点があるので覚えておきましょう。
まず、テロワールという言葉に対してあまり良いイメージを抱いていない方(生産者もふくめ)がいるというところです。
ブドウの栽培環境によって個性に差異が生まれることは認めつつも、「テロワール」という言葉はフランスが生み出したていの良いマーケティング用語だ、と非難する方。(適当に使われているのが許せないなど)
天然酵母で醸さず、添加物もたっぷりと使った人的介入が多すぎるワインなので、その産地の特徴さえあればテロワールという言葉を使ってマーケティングできるのはおかしいという方。
逆に、テロワールを意識し過ぎて間違った人的介入の結果、欠陥ワインになっているのに、“テロワールを表現した結果”として販売されているのに違和感を覚える方。
要するに定義が曖昧なことから、適当に使われている言葉なのではないか?という意見です。
さらにとくに注意したいのがコチラです。
テロワールが定まっていない?
日本ワインの生産者や日本ワインを扱う販売店、セミナー講師など、各方面で“日本のテロワール”が発信されています。
日本も世界的ワイン産地のようにテロワールがあることを発信し続けることは、とても意義のあることです。
しかし、生産者の中にはテロワールという言葉にピンと来ていない人たちもいます。
ワイン産地として各所にどのようなブドウ品種が適しているのかまだわからない、そもそもテロワールがどんなことを包括しているのか曖昧でわかりにくい、とくに意識せずに目の前の栽培環境に合わせたブドウ造りをしているだけなど…。
そのため日本ワインの生産者に、“その産地のテロワールについてお聞かせください”といってもきょとんとされるか、“まだわからないから”といった答えが帰ってくることが少なくありません。
もちろんテロワールに徹底的にこだわる日本の生産者もいますが。
テロワール自体は知っておいて損はない用語ですが、乱用し過ぎるのも相手に混乱を与えてしまうのかもしれません。
ワインがおもしろくなる言葉でもある
結局、テロワールってどんな意味なんだろう…。
なんとなく、“もやもや”とした感じの結末となってしまいました。
答えが決まっていない、人によって捉え方が違うというところがそうさせているのかもしれませんが、逆に考えれば「あなたが考えるテロワール」を定義づけることもできるということです。
喧嘩をすすめるわけではありませんが、ワインが大好きな友人や知人と「テロワールとはなんぞや?」といった議題で討論してみましょう。(もちろんワインを飲みながら)
おそらく、朝方まで語り合えることでしょう。
馴染み深い言葉でありながら、奥深い言葉でもあるテロワール。
この機会、もう一度考え直してみてはいかがでしょうか。
参考