近年、日本ワインの中にも、「瓶内二次発酵法」で造られるスパークリングワインを見かけることが多くなりました。

シャンパーニュの製法としても知られている瓶内二次発酵法は、とても手間がかかる製法です。

そのため、生産者はできるだけそのストーリーを消費者に伝えるために、“それ”における各工程について、こと細かに解説する可能性があるでしょう。

例えば、「ルミアージュ」。

これについて解説された時、「すごそうな工程だな。でも、それってどういうことでしょうか…」となるとそのスパークリングワインが心から楽しめなくなるかもしれません。

ここではひとつ、その「ルミアージュ」について恩田匠氏の『シャンパーニュ地方におけるシャンパーニュづくり(後編・その2)』を参考に解説します。

マニアックではありますが、ぜひ覚えておきましょう。

 

ルミアージュとは?

 

 

ルミアージュ。

ワインに精通されている方であれば理解できると思いますが、なかなか一般的な用語ではないでしょう。

ルミアージュとは、日本語で「動瓶」と訳されているワイン用語です。

瓶内二次発酵法で製造されるスパークリングワインはその工程の都合上、瓶内に増殖したオリが残ります。

オリは飲んでも一切問題はないものの、放置しておくと泡の生成などが不安定になったり濁りがひどくなるなど、安定したスパークリングワイン造りができません。

そこで、ルミアージュという技法が生み出されたと考えられています。

詳しくは後述しますが、ルミアージュは、ピュピトルと呼ばれる木製の装置にワインボトルを差し込み、定期的にぐるぐる瓶を回すことで瓶口にオリを集める工程。(ちなみに、前述したピュピトルという木製の装置ですが、瓶口にオリが溜まりやすいように斜めに設置されています。)

瓶内二次発酵法にはデゴルジュマン(オリ抜き)という工程がありますが、それをしやすくするためにルミアージュがおこなわれるわけです。

ちなみにルミアージュを発明したのは、あのヴーヴ・クリコ・ポンサルダンと、そのもとで働いていた醸造責任者なのだそう。(シャンパーニュラヴァーには有名な話)

現在ではルミアージュが自動化されている傾向にありますが、小規模生産者や小さな日本のワイナリーなどは今も手作業でルミアージュをおこなっています。

 

ルミアージュの流れ

 

 

ここでは、自動ではない手作業によるルミアージュの流れについてまとめていきましょう。

  1. 瓶を振り、瓶の内部のオリを液中に分散させる
  2. 瓶底に回転位置を明確するための、“しるし”をつける
  3. ピュピトルの穴部分に瓶口から挿入(水平面から20°角度)
  4. 一週間放置
  5. 左右に瓶をずらし、瓶口に衝撃を与えぬようにオリを液中に分散
  6. 数十回に渡るルミアージュ・サイクルを経て終了

こう記載すると複雑な印象ですが、要するに瓶内のオリを瓶口にゆっくりと集めるために数日ぐるぐると瓶を回し続ける…という単純作業がルミアージュです。

とはいえ、ほんとうに品質の高いスパークリングワインを造るとなると手の抜けない重要な作業であり、本場シャンパーニュではルミアージュ・サイクルを徹底して守ることが重要になってくるのだそうです。

日本ワインの生産者でそこまで厳しくルミアージュ・サイクルを守っているところがあるかは不明ですが、ひとまずルミアージュ・サイクルについて説明してみます。

 

 

ルミアージュ・サイクル

 

 

恩田氏はによるとシャンパーニュでは、ピュピトルにボトルを挿入してから一週間後、ルミアージュ・サイクルが実施されていると報告されています。

それによると、ピュピトルに挿入された瓶はサイクルに応じて1段目から6段目に移動される計45のサイクルで構成されているようです。

  • 1段目:瓶を一日に二回、瓶に振動を与えながら回転させる。(1から12サイクル)
  • 2段目:瓶の角度を一段階直立させ、ルミアージュを継続。(13から18サイクル)
  • 3段目:瓶の角度をさらに一段階直立。ルミアージュを継続。(19から24サイクル)
  • 4段目:瓶の角度をさらに一段階直立。ルミアージュを継続。(25から32サイクル)
  • 5段目:瓶を最後の角度まで直立させてルミアージュを継続。(33から44サイクル)
  • 6段目:ルミアージュの終了(45サイクル)

要するに、1段目には20°、2段目には30°…など角度をあげていき、最終的に瓶口にオリが溜まっている状態にするというサイクルが、ルミアージュ・サイクルというわけです。

中には自動化されたものと手作業による品質差異は無いという生産者もいるようですが、やはり伝統を守るために継続する生産者もいるとのこと。

日本の生産者も大手であれば自動化可能かもしれませんが、小規模でなおかつ伝統的な製法を大切にする生産者であれば、全く同じではないものの手作業でのルミアージュ・サイクルをおこなっているのではないでしょうか。

 

ルミアージュ小ネタ

 

 

基本的に教科書などでも端折られることの多いルミアージュですが、かなかこだわりの作業であることがお分かりいただけたと思います。

ちなみにルミアージュ作業をする際、保護メガネや手袋をすることが基本とされているようです。

その昔、瓶や王冠の品質が十分では無かったことからルミアージュ中に瓶が爆発して事故に繋がることがあったのだそう。(発酵が終了しているとはいえ、生きた酵母が発酵を続けていれば爆破の可能性アリ)

また、恩田氏の報告によると昔はルミアージュだけをするための専門職人がいたそうで、1日で約5万本の瓶を回していたというのですから驚きです。

さらに、専門の人は自宅に戻ってもふと瓶を回す仕草をしてしまう…という職業病的な小ネタも現地の方から聞いたと報告されていました…。

現代であればパチンコ好きの人と間違われそうですが、それだけ重要な作業だったという証拠でしょう。

少しでも知っていると楽しい

 

 

ルミアージュなど、瓶内二次発酵法用語について知らなくてもスパークリングワインは十分美味しく飲めます。

とはいえ、近年日本ワインの品質が向上している中で、瓶内二次発酵法が採用されたスパークリングワインを造る生産者が増えていくことは間違いありません。

プロクオリティの分野まで勉強する必要はありませんが、“瓶内二次発酵法の基本的な知識”を仕入れておいて損はないでしょう。

ルミアージュを皮切りに、ぜひ瓶内二次発酵法の各用語について調べてみてはいかがでしょうか。

 

参照

シャンパーニュ地方におけるシャンパーニュづくり(後編2)