富士五湖のなかでも山深く奥まっていることに由来し、世界でも稀有なこの場所だからこそ手に入る食材の味わいを「奥・山梨料理」と定義し、四季折々様々な山梨県産食材をシェフこだわりの調理で提供するレストランとして、早くも食通たちの話題をさらっている今話題のレストラン、Restaurant SAI 燊。
ある秋の夜に提供された「笛吹オリーブオイル前田屋」オリーブオイルを使ったペアリングコースご紹介の後編です。
ここからはお待ちかねのメイン。
最後に生産者前田啓介氏と料理人豊島雅也氏の対談も。
奥・山梨料理×日本ワイン ある日のテーブル<後編>
七品目
小林牧場の甲州ワインビーフ。
甲斐市北部の澄んだ空気と良質な水、そしてポリフェノールたっぷりのぶどうの搾り粕の飼料を食べて育った甲州ワインビーフは、酸化が進みにくく肉の臭みが少ないのが特徴とのこと。
その赤身肉を薪火でじっくりと焼き上げました。
お肉と一緒に楽しむ野菜は、春菊とクレソン。やはり水が綺麗な山梨県のクレソンは苦みがキリッとお味も濃く美味しいです。
これにノヴェッロとパルメジャーノレッジャーノだけのシンプルさがお肉の合間のお口直しにもちょうど良い。
メインには二種類のワインが提供されました。
丸藤葡萄酒工業/ルバイヤート クレレ 2022
山梨県勝沼町内の自社畑から収穫したカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローによる赤ワインは、その名の通り鮮やかな色調。 しっかりと果実味を感じます。ほのかに樽香やスパイシーでもあるので、薪火で香り豊かに焼かれた赤身肉にぴったりです。
ドメーヌ茅ヶ岳/Adagio di 上ノ山 2019
熟度の高いマスカット・ベーリーAをストレートに感じることができる贅沢な赤。
メインに相応しい飲み応えのある一本、とても満足感が残るペアリングでした。
八品目
メインでどんなに満腹であっても、〆がこんなに素晴らしい場合、いとも簡単に平らげられることを知る。
甘く炊いた香茸の巻物と、アミタケ、ハナイグチ、ナガタケ、ナガタケモドキ、ムラサキタケ、キシメジ、ショウゲンジ全部で七種類のきのこが入ったきのこ汁。ベースは鹿と猪で出汁をとったコンソメスープ。
石づきも全て廃棄することなくじっくりとスープにするため、旨みがすごい。心からほっとする一杯です。
茸はすべて豊島シェフ自らが山に入って採ってきたもの。きのこ採りはライフワークのひとつでほぼ毎朝山に入るそう。それらを分けていただくのは、まさにその地の味をダイレクトに提供してもらう行為そのもの。
「この一杯で寿命が一年伸びた気がします」と前田氏。そう、しみじみ美味しいのです。
九品目
「前田さんに叱られるかもしれません」と言いながら提供されたのは、八ヶ岳ヨーグルトに前田屋のノヴェッロかけ。
前田氏によると、オレイン酸の凝固温度は7度。なので冷蔵庫には入れず必ず常温で扱うようお伝えしてるとのこと。
それでも、「オリーブの青い香りを、八ヶ岳の牧草を食べた牛乳と合わせ、青々とした草原を表現したい!」ということで思い切って試されたもの。
ヨーグルトの酸とオリーブの苦味や青さ、どちらの良さも際立つ組み合わせ。
これには当の前田氏も納得の美味しさだったようです。
十品目
最後は、西湖周辺の野草の茶葉を、南部鉄器で丁寧に入れていただいたお茶を飲みました。
最後まで、すべてが山梨県産。
ペアリングドリンクについて
この夜のアルコールは、ビール含めすべて山梨県産。
良質なワインをソムリエ永原氏がセレクトしてくださいました。
このワインペアリングが素晴らしかったことは上述のとおりですが、Restaurant SAI 燊では、ノンアルコールペアリングもユニーク。
もし、近くのお席にノンアルコールを楽しむ方がいらしたら、きっと二度目の訪問時にはぜひノンアルコールペアリングも試してみたくなるだろう。
生産者 前田啓介×料理人 豊島雅也が考える”奥・山梨料理”
本日の素晴らしい体験を振り返り、日本ワイン.jpナビゲーター磯部が、笛吹オリーブオイル前田屋前田啓介氏とRestaurant SAI 燊豊島雅也シェフにインタビュー。
磯部:本日は素晴らしいお料理の数々でした。お二人ともありがとうございました。
今回の体験で、私はオリーブオイルの印象がガラリと変わりました。
オイルって、当然「油」なので、オイリーだったりギトギトしたり、ヌルヌルしたり。時にはこってりと重さを感じたりしますが、今日味わったオイルは変な表現ですが、「油」という感じが全くしませんでした。
前田:そうなんです。実はオイルは酸化率が上昇するとギトギト感が発生してくるのです。
味わっていただいたオイルは、酸化率0.8%以下のエクストラバージンオリーブオイルだったり、作りたての上澄みのノヴェッロですから、オイルというよりもはや「オリーブジュース」ですね。
豊島:この特別なオイルをどうしても使いたかったのです。
自分で獲ったジビエや、収穫した食材を料理として表現するにあたり、やはりこれだけ上質な同産地のオイルは必須。本当に嬉しいです。
磯部:前田さん、生産者として今夜のお食事はいかがでしたか。
前田:本当に美味しかったですね。
音楽で例えると、オリーブオイルはひとつの楽器でしょう。それ単体で鳴らせる音もあるけれど、他にもいろんな楽器があり、指揮者がいることで幾重にもなる素晴らしいハーモニーを奏でることができる。
今日は豊島シェフの指揮のもと、そんな体験を目の当たりにしました。
磯部:豊島シェフは、優れた指揮者であるのと同時に、自ら楽器(食材)を集めに行かれるそうですね。
豊島:やはり自分で畑にいかないと生産者の思いをしっかり受け取れないと思うのです。
固定概念を外し、自分で直接体験して、初めて納得してどんな音楽に仕上げるべきかイメージを整えます。
磯部:そういうことで、明日も朝から山に入られるのですね。
豊島:はい、きのこが私を待っているので。
明日はどんな音楽を奏でるのだろうか。
ワインを愛する感性をもつ多くの人たちに、ぜひ体験してみていただきたい。
※ご予約やメニューについての詳細は、レストランに直接お問い合わせください。
【前編はこちら】
【Restaurant SAI 燊HP】
【笛吹オリーブオイル前田屋HP】
【笛吹オリーブオイル前田屋 前田啓介氏インタビュー記事】
前田氏のオリーブ畑からお届け!搾油所も見せていただきました。
ワイン・チーズライター 磯部 美由紀
日本ワイン.jp チーフエディター
J.S.A認定 ワインエキスパート
C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
ワイン記事監修実績:
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕
すてきテラス