近年、ノンアルコール飲料市場が伸長を続けています。
数年前までノンアルコール飲料というと、“お酒が飲みたいけれど飲めない”時の代替品として飲まれる、いわばネガティブなイメージで選択される飲料だと思われていました。
しかし、近年はより良く生きようとする生活態度を意味する「ウェルネス」志向、お酒をあえて飲まない「ソバーキュリアス」といった方の増加により、“ノンアルコール飲料を積極的に楽しむ”といった方が増えています。
ノンアルコールというとビールをイメージする方もいるかもしれませんが、今やRTDからカクテル、日本酒、焼酎、ワインなどアルコール飲料に該当するほとんどの飲料に、“ノンアルコール”が存在している時代です。
本記事では、今後日本でも市場が活性化するであろう、ノンアルコールワインの基礎知識について解説します。
ノンアルコールワインとはどんな飲料なのか、基本だけでも理解しておきましょう。
ノンアルコールワインの市場
ノンアルコール市場は、今世界規模で伸長していると言われています。
サントリーが発表した日本におけるノンアルコール飲料市場を見ると、2023年のノンアルコール飲料市場は、4,133万ケース(対前年101%)、2024年の市場規模は、4,191万ケース(対前年101%)を見込むといった市場拡大予想が示唆されていました。
世界的にもノンアルコール飲料市場は伸長していますが、それに伴いノンアルコールワイン市場も活況を示しているようです。
サンフランシスコに本社を構える市場調査会社、Grand View Researchによると2030年までに世界的規模におけるノンアルコールワイン市場は37億8,000万米ドルになると予想され、2024年から2030年までのCAGR(年平均成長率)は7.9%で成長すると示されています。
ちなみに2023年の市場シェアはスパークリングワインが60%を超えていたということで、ビールやRTDのように泡とアルコール風テイストがノンアル好きに好まれているようです。
欧米ほどノンアルコールワインが浸透していない日本国内ですが、近年ノンアルコールワインが多く売られるようになっただけでなく、ノンアルコール専門ショップや日本ワインをつくるワイナリーでもノンアルコールワインが売られるようになりました。
“ノンアルワインなんて飲めない”といった層はまだまだ多いかもしれませんが、今後の市場拡大を考えるとノンアルワインは、“アルコール入りワイン好き”の方たちも無視できない存在になりそうです。
ノンアルコールワインはどのようにつくられている?
ノンアルコールワインと聞くと、“ワイン風清涼飲料水”とイメージする方もいます。
ノンアルコールワインは読んで字の如く、アルコールの含まれていないワインです。
製品の中には水にワイン風味を与える添加物を使い、“それらしく”つくっているものもあるでしょうが、高品質ノンアルコールワインを求める層はそれら、“ノンアルコールワイン風清涼飲料水”を好みません。
ノンアルコールワインの製造方法はいくつかありますが、その代表的な製法を下記で解説していきましょう。
通常のワインと同じようにつくられている
ノンアルコールワインの多くは、通常のワインと同じようにつくられています。
同じようにというと語弊がありますが、厳密には一度普通のワインをつくった後、“アルコールのみ”を除去するといった製法で仕上げられているのです。
ワインの魅力は多種多様な香りと風味、口当たり、余韻、複雑性であり、それらがワインファンの五感や感情を刺激します。
それらを感じないワインはブドウ風味のアルコール入りのジュースであり、高い評価を得ることはできません。
ノンアルコールワインも同様に、できる限りワインの持つ魅力を残し、アルコールだけを除去するといった製法でつくられており、中には一般的なワインの数倍の価格帯のノンアルコールワインも存在するほどです。
しかし、一度つくられたワインからアルコールだけを抜くなどという、“荒技”ができるのでしょうか。
それを実現するのが、「スピニング・コーン・カラム」と「逆浸透法」です。
スピニング・コーン・カラムについて
スピニング・コーン・カラムとは、液体から香気成分を回収・保存するシステムのことです。
アメリカのコーンテック社が商品化したシステムで、今やアルコール飲料のみならず数多くの製品に活用されています。
スピニング・コーン・カラムは円柱が中心となった装置で、真空状態の円柱内に数多くの円錐が積み重なり、そこにワインを注ぐと円錐が回転する遠心力によって薄膜状になりながら落下、下記からの蒸気注入によって香気成分が蒸気とともに上に運ばれていくシステムです。(香気成分は一旦回収)
この時点ではまだアルコールは残っている状態ですが、円柱を通ってきたワイン液をさらに温度を高めて装置に通すとアルコールのみが蒸発するため、アルコールと香気成分のない色がついた液体だけを回収できます。
そこに、回収していた香気成分を組み合わせればノンアルコールワインの完成となります。
ただし、スピニング・コーン・カラムは装置が非常に高額であることから、大規模なワイナリーでないと導入は難しいとされています。
逆浸透法について
ワインからアルコールを除去する方法として多く利用されているのが、逆浸透法です。
逆浸透法は筒状になった管内の非常に繊細なクロスフロー濾過フィルターにワインを流すことで、アルコールを除去でいるといった仕組みになります。
クロスフロー濾過フィルターはアルコールと水(と、酢酸)だけを通すため、透過液を蒸溜、またはメムスターと呼ばれる別の膜に通すことでアルコールのみの除去が可能です。
アルコールが除去された透過液をもとに戻すことで、ノンアルコールワインができあがあります。
ノンアルコールワインは質が高い?
ノンアルコールワインを製造するための技術として上記2つを取り上げましたが、ノンアルコールワインがトレンドだからといった理由で取り入られている最新テクニックではありません。
ワイン生産国の中には温暖かつ乾燥したワイン用ブドウ栽培に適した産地がありますが、一方でアルコール度数が高くなりすぎるといった問題が起きています。
ワイン生産国によって禁止されている場所もありますが、多くの場合はアルコールをいくらか除去することが認められており、バランスの取れたワインにするためにアルコール除去の技術が用いられている歴史があるのです。
これら技術がすでに確立されているワイナリーであれば、ワインの香りや風味、ポリフェノール量など、ワインらしい魅力を残しながらノンアルコールワインを製造することは難しくないかもしれません。
日本酒、焼酎、ほかリキュールでもノンアルコールを見かけますが、“美味しい”といった声はそこまで聞こえてこないのが実情でしょう。
一方、ノンアルコールワインは専門ショップが出てくるほどに人気があり、中には猛烈なワインラヴァーだった方がノンアルコールワインに傾倒しているといった話もあるほどです。
たしかにアルコールは高揚感だけでなく、ワインに含まれる多種多様な成分と反応して新たな風味を生み出したり長期保存に役立ったり、独特の甘みを感じさせたり、重要な要素になっています。
本物のワインと同様の高揚感を感じることはないものの、ほかのノンアルコールと比較すると質は高い可能性があるでしょう。
ノンアルコールワインの今後
ノンアルコールワインは、今後も市場を伸ばしていくことは間違いないと言われています。
今、ワインボトルではなく、“ワイン缶”が人気を博していますが、ノンアルコールワインのパッケージとしてもシェアを拡大している状況です。
さらに、世界規模でシャルドネやメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなど、通常のワインのように品種別の特徴を前面に押し出す企業も増えてきており、“ワインが飲めないから、仕方がなくそれらしい雰囲気を味わう”といったステージは終焉を迎えています。
上記で、スパークリングのノンアルコールワインが人気とお伝えしましたが、今後はスティルの比率も上がると予想されているなど、全く新しいワインの世界が広がっている状況です。
日本ワインを製造するワイナリーも、一部高品質なノンアルコールワインを手掛けていますが、世界から良質なノンアルコールワインが登場することで競争が生まれ、国産の上質なノンアルコールワインが多く登場するかもしれません。(ノンアルコールに特化したワインコンクールも開催されるかも)
今はまだノンアルコールワインを飲むといった選択肢がない方も、一度高品質なノンアルコールワインの世界に触れてみてはいかがでしょうか。
まとめ
ノンアルコールワインは、飲酒運転防止やワイン好きの妊婦の方、アルコールの摂取量を減らしたい方にとって画期的な飲料です。
品種別、複雑な味わい、本格的なワインのような高揚感を楽しめる高品質なものも多く出回り出しました。
今後、熟成ノンアルコールワインなども登場するかもしれません。
一方、国によって“お酒”に区分されるための最低アルコール度数に違うため注意しましょう。
例えば、日本はアルコール度数1%未満、イギリスはアルコール度数0.5%未満など、じつは完全にノンアルコールではないものもあります。
アルコールを摂取しても問題ない状況でノンアルコールワインといったカテゴリをチョイスする場合は問題ありませんが、購入前に必ずアルコールの有無を確認してから購入しましょう。
参考
https://www.suntory.co.jp/news/article/14622.html
https://japan.cnet.com/release/30980333/
https://www.smithsonianmag.com/innovation/the-science-behind-nonalcoholic-wine-180980805/