ワインの“味”だけではなく、“製造工程”にも興味を持つ方が一部いるようです。
醸造家の話を聞いたりレベルの高いワイン雑誌を読んだり、著名な先生のセミナーに参加したり…積極的にワインの知識を得ようと努力することは素晴らしいことでしょう。
しかし、専門用語が多過ぎて、“結局よく分からなかった…”という結末を迎える方も少なくありません。
ワイン製造の知識を深めていくためには、まず“基礎的な用語”を知る必要があります。
今回、分かっているようでよく分からないワイン用語のひとつ、「マロラティック発酵」についてお伝えしていきましょう。
マロラクティック発酵について
マロラクティック発酵。
ワイン製造の話の中でよく聞く用語のひとつです。
雑誌などでは、「MFL」などと略されることが多いですが、こうなるとさらに意味不明。
MFLを経て、MLFは短め、今回のMLFは乳酸菌スターターを使用して…などと言われると、まったく話についていけなくなってしまいます。
マロラクティック発酵の作用などは後述するとして、まずはマロラクティック発酵とは何かについて知りましょう。
マロラクティック発酵とは?
マロラクティック発酵とは、ワインの酸味を和らげ、香味をまろやかにするためにおこなわれている製造工程です。
主に赤ワイン(一部の白ワインも)で採用されており、アルコール発酵の後におこなれています。
例えば、赤ワインは渋みが強いお酒ですが強い酸味と相性がよくありません。
赤ワインの性質上、アルコール発酵だけでは酸味が強く残ってしまうことから、味わいのバランスを整えるためにマロラティック発酵がおこなわれているのです。
さて、表面的な部分はお分かりいただけたと思いますが、なぜマロラティック発酵をおこなうとワインの酸味が和らぐのでしょうか?
マロラクティック発酵のシステム
アルコール発酵の主役は“酵母”ですが、マロラクティック発酵の主役は“乳酸菌”です。
ワインのもろみ中には、「L-リンゴ酸」と呼ばれる酸味に関連する成分がふくまれていますが、マロラティック発酵をおこなうとマロラティック酵素作用によってL-リンゴ酸が脱炭酸され、「L-乳酸菌」へと変換します。
少し難しいかもしれませんが…
マロラクティック発酵スタート
↓
もろみ中にふくまれるL-リンゴ酸イオンが乳酸菌の菌体内へ
↓
脱炭酸されてL-乳酸イオンが生成
↓
プロトンとともにL-乳酸が菌体外に排出
↓
結果、もろみ中のリンゴ酸が減少しまろやかになる!
が、マロラクティック発酵の流れです。
もちろん、さらに複雑な工程は経ているわけですが、マロラティック発酵の目的のひとつはこういった作用が期待されている…ということを覚えておきましょう。
マロラクティック発酵の作用について
マロラティック発酵のシステムについてお伝えしました。
次は、もう少しマロラクティック発酵の作用についてみていきましょう。
酸度を減少させる
まずは前述したように、「減酸作用」があります。
リンゴ酸はシャープな酸味を感じさせるため、ほどよく存在すればワインの品質を高めますが多過ぎると飲みにくいワインになってしまいます。
基本的には白ワインでマロラクティック発酵は行われませんが、ふくよかな味わいを狙らう目的や冷涼産地で酸度が高い場合は採用されているようです。
香味などへの影響
マロラクティック発酵を経た場合、L-リンゴ酸に変わってL-乳酸が増量します。
関連していると考えられるのは…
- ジアセチル…バター様・チーズ様の香り
- ダイアセチル…ヨーグルト様・バター様香り
ですので、マロラクティック発酵はワインにとってかなり好意的に考えられています。
ただし、あまり強く過ぎてしまった場合は不快な香り(オフフレーバー)となり得るため、酵母選びや品種に合わせた期間の設定が重要になるようです。
微生物的安定
例えば、シャンパーニュ地方などではベースワインに徹底してマロラクティック発酵をおこないます。(リンゴ酸を完全に除去するということ)
リンゴ酸は数多くの微生物の栄養源となってしまうため、長期的に瓶内で熟成させる瓶内二次発酵をさせる場合は、汚染微生物の発生リスクを軽減する必要があるからです。
このように、微生物的安定を求めてマロラティック発酵がおこなわれるケースもあります。
リスクについても少しだけ…
ただし、リンゴ酸はワインのpHに関与する酸であることから、マロラティック発酵によってpHが高まる危険性は見逃せません。
とくに日本で収穫されるブドウの多くは酸度が低いため、マロラティック発酵をいたずらにするとpHが高まり過ぎてしまい、高pHによる微生物汚染やワインの品質低下に繋がると考えられています。
ちなみにここでは触れませんが、マロラクティック発酵には自然起因に頼るものと乳酸菌スターターによる2パターンが存在します。
ナチュラルな造りをする生産者の多くは自然起因によるものを選びますが、マロラクティック発酵はものろみにある程度のpH値(やや高め)でないと起こらないだけにリスクがあります。(微生物汚染など)
生産者は自らが造るワインをマロラクティック発酵をする際、さまざまなことを考慮しながらおこなう必要がありそうです。
基本を知ると話がわかる
ワインのプロからいろいろな話を聞きたい場合、多少基本を知っておかないと何を言っているのかわからないことがあります。
マロラクティック発酵などについて詳しく話すことは少ないかもしれませんが、知っている前提で話が進んでしまうので、知ると知らないではワインの味わいの感じ方も大きく変わってくるでしょう。
面倒くさいかもしれませんが、ぜひワインについて知りたい方は触りだけでも用語などを覚えてみてください。
参考
国産赤ワイン製造における市販乳酸菌スターターを用いたマロラクティック発酵試験 恩田 匠