国産チーズスターター「Jチーズスターター」を用いたナチュラルチーズ試食会が開催されました。
国産乳酸菌「Jチーズスターター」とは?
チーズを作る過程では、生乳に乳酸菌などの「スターター」を入れるところから始まります。
「チーズスターター」は、乳タンパク質の凝固を促進し、独特の風味を形成するチーズの製造に欠かせない大切なもの。
しかしながら、ほとんど輸入品に頼っているのが現状です。
いま、国産の生乳とスターターを使った日本オリジナルの魅力あるチーズのために、国産乳酸菌を使ったチーズスターター「Jチーズスターター」の普及が待たれています。

業界内外広くPR〜今回の試食会の概要〜
国産ナチュラルチーズのさらなる発展を目指す試食会が開催され、会場には関係省庁、事業関係者、チーズ工房、そして消費者総勢200名以上が集い、国産乳酸菌を使ったチーズスターターの可能性を、実際のチーズの試食を通して体感する機会となりました。
前回までと大きく違う点としては、チーズ業界に近い愛好家だけでなく、純粋に「チーズが好き!」という興味を持った一般の方も抽選で多く参加され、より幅広い層が集まった点でしょう。
主催者からは、これまでナチュラルチーズ製造に使われるスターター(乳酸菌)は、その多くを海外からの輸入品に頼ってきた。しかし今、国産の生乳に加え、国産の乳酸菌を使った“純国産”のナチュラルチーズづくりを実現しようという取り組みが進められているという趣旨の説明と挨拶が冒頭に行われました。
TPPによりチーズの関税が引き下げられていくなか、より付加価値の高い国産ナチュラルチーズの振興は、日本の酪農にとって重要な課題の一つとなっているという酪農を取り巻く環境の変化などの背景についても触れられました。
近年は品質面でも大きく進歩し、海外産にも引けを取らないレベルに達してきている国産チーズですが、今回のプロジェクトでは、その流れをさらに一歩進め、乳酸菌まで国産化することで、より日本らしい、より価値あるチーズを生み出そうとしていることが伝えられました。
実際に開発・活用が進められている国産チーズスターターについては、輸入スターターを用いたものに比べ、旨味が豊かだという評価があるほか、熟成が早く進むことで製造回転率が上がり、価格面でも消費者に還元できる可能性があるなど、手応えが出始めているそうです。
この日は3種類のスターターが紹介され、工房ごとの工夫や表現の違いを楽しみながら食べ比べが行われました。

(公財)日本乳業技術協会 理事長 姫田 尚氏
国産ナチュラルチーズ高付加価値化推進事業について
今回の試食会は、公益財団法人日本乳業技術協会が、地方競馬全国協会の助成を受けて進める「国産ナチュラルチーズ高付加価値化推進事業」の一環として開催されたものです。
日本乳業技術協会は1950年設立、日本で唯一の乳・乳製品の登録検査機関として、成分分析や微生物検査、検査技術の研修などを通じ、乳製品の品質向上と酪農乳業の振興を支えています。
この事業が目指しているのは、これまで多くを海外製に頼ってきたチーズスターターの一部を国産化し、日本ならではのナチュラルチーズづくりにつなげることです。確かにほぼ海外産に頼る現状だと、そもそも海外産チーズとの差別化が難しいほか、国際物流に左右される供給面の不安も残ります。
その課題に対し、本事業では、北海道や栃木県で採取された菌株から選抜・開発された4種類の「Jチーズ乳酸菌」を活用。これらは主に補助スターターとして用いられ、旨味や香りの増強、熟成期間の短縮によるコスト低減などが期待されています。
今回はそのうち、OUT0010、33-5、OY-57の3種類を中心に、全国のチーズ工房が試作したチーズを実際に食べ比べる機会が設けられました。
工房には試作用スターターの提供に加え、生乳代や消耗品費、分析費用、専門家による助言なども支援されており、単なる研究開発にとどまらず、実際のものづくりの現場と結びついた取り組みとなっています。
将来的には、Jチーズスターターを用いたチーズの評価が高まり、工房からの需要が増えることで、国内メーカーによる商業ベースでの製造参入と安定供給体制の確立へとつなげていく構想です。国産の生乳に、国産の乳酸菌、さらには将来的には国産のレンネットまでを組み合わせた“純国産チーズ”の実現も期待できるのではないでしょうか。

試作するチーズ生産者の声
パネルディスカッションでは、坂上あき氏(一般社団法人チーズプロフェッショナル協会会長 )がモデレーターを務め、Jチーズ乳酸菌を用いて試作に取り組んだ全国10工房の生産者が登壇し、それぞれの率直な感想を語りました。
印象的だったのは、菌の特性が一律に現れるのではなく、チーズの種類や既存スターターとの相性、熟成期間によって変化の出方が大きく異なるという点です。
【OUT0010を使用した生産者の声】
OUT0010については、「熟成が早まる」という声が多く聞かれました。カマンベールタイプで試作した工房からは、熟成の進みが早く、コクが増し、食感も滑らかになったとの声が上がった一方、水分コントロールの難しさを挙げる声もありました。
また、すでに商用利用している工房からは、使用したチーズがコンテストで高い評価を得たとの報告もあり、OUT0010のポテンシャルの高さが示されました。
ソフトタイプや山羊乳チーズでは、香りや食感、味わいの変化がより顕著に感じられた例もあり、ある工房では、従来の華やかな香りに対し、OUT0010添加品では銀杏や漬物を思わせるような和のニュアンスが現れ、日本的な個性へつながる可能性も感じました。
【33-5を使用した生産者の声】
33-5は、ナッツのような熟成香やコクの増強が特徴とされる菌株だそう。実際、セミハードやチェダー系の試作では、通常より若い熟成段階でもコクやナッティな風味が感じられたという声がありました。長期熟成を待たずに表情が出る点に、大きな可能性を感じている生産者もいます。
一方で、添加量や組み合わせには繊細な調整が必要で、苦味や食感の硬さが出るケースも報告されました。既存スターターとのバランス次第で、魅力が大きく引き出される場合もあれば、思ったほど差が出ない場合もある。つまり、使いこなしによって結果が大きく変わる菌であることが、生産者たちの実感として共有されていました。
【OY-57を使用した生産者の声】
OY-57については、食感のなめらかさや甘みの増加を評価する声がありました。チェダー系では、添加した方がクリーミーでまろやかな口当たりになり、甘みも際立ったという報告も。また、フレッシュタイプのチーズでは、凝固の進み方に苦労しながらも、最終的にはなめらかでコクのある仕上がりになったと語られました。

研究者と現場がともに育てるチーズ
開発に携わる研究者から、チーズに使える乳酸菌を選抜するまでには、安全性や品質面で多くの試行錯誤があったことも語られました。
実際に美味しく仕上がらない試作も数多くあった中で、ようやく現場で試してもらえる菌株へと絞り込まれてきたそうです。
Jチーズ乳酸菌は、チーズごとに最適な使い方を探るべき新たな可能性の種であるということでしょう。
生産者が試し、研究者が分析し、消費者が味わう。その繰り返しのなかで、日本ならではのチーズの輪郭が少しずつ立ち上がってきているのです。
(左より)帯広畜産大学生食料科学研究部門 准教授 中村 正 氏・チーズプロフェッショナル協会 会長 坂上 あき 氏

磯部 美由紀
日本ワイン.jp 編集長
J.S.A認定 ワインエキスパート / C.P.A認定 チーズプロフェッショナル
映画 フロマージュ・ジャポネ 制作実行委員会 事務局長
https://nihoncheese.jp
ワイン記事監修実績:すてきテラス
Picky’s こだわり楽しむ、もの選び〔ピッキーズ〕




