日本でしか造れないワイン。
この味を求め、さまざまな「日本ワイン」を試されている方も多いかもしれません。
そのようなワインと出会いたい方に個人的におすすめしたいのが、「日本のヴァン・ナチュール」です。
品質にバラつきがあるといわれるヴァン・ナチュールですが、素晴らしい生産者のワインであれば、“感動的”な体験ができます。
ここでは、ヴァン・ナチュールについてはもちろん、独断で選んだ『日本三大ヴァン・ナチュール』を紹介していきましょう。
ヴァン・ナチュールというカテゴリについて
まず、ヴァン・ナチュールというワインカテゴリについて解説します。(ヴァン・ナチュールは、ヴァン・ナチュレル、ナチュラルワイン、自然派ワインとも呼ばれますが、ここではヴァン・ナチュールで統一)
ワインには、オーガニックワインやビオディナミワインなどさまざまなカテゴリがありますが、とくに栽培・醸造の条件が厳しいとされているのがヴァン・ナチュールです。
合成農薬や化学肥料を使用せずにブドウ栽培をおこなうことはもちろん、醸造においても酵母添加や補糖・補酸、添加物の使用など人工的な行為を一切排除する、という考えのもとから造られているワインがそれに当たります。
ヴァン・ナチュールの定義
しかし、ヴァン・ナチュールにはひとつ問題がありました。
それが、ヴァン・ナチュールには統一された規定・認証などがなく、ある意味生産者任せになっている部分があるというところです。(グレーゾーン)
そもそもヴァン・ナチュールはワイン造りにおいてリスクの高い製造方法であり、過渡な酢酸エチル量、アセトアルデヒド量がもたらす不快臭、ブレット、還元臭などオフフレーバーが発生しているワインも少なくありません。
その一方でサスティナブルへの関心、健康志向の高まり(ファッションとしても?)などの影響でヴァン・ナチュールへ注目が集まり、ヴァン・ナチュールスタイルを目指す生産者が増加。
信念と経験、技術を兼ね備えた生産者だけではなく、“放置こそ自然”というスタイルの生産者も出てきてしまい、ヴァン・ナチュールは玉石混淆状態に陥っている状況でもあるようです。
しかし、2020年。
INAO(フランス原産地名呼称委員会)が、ついにヴァン・ナチュールにおける公式な定義を認可したことで話題となりました。
フランスの「自然派ワイン協会(AVN)」や「S.A.I.N.S」といった生産者団・協会の規定もありますが、INAOが公式定義を認可したことは重要な意味を持ちます。
この認可を受けたワインは、「ヴァン・メトード・ナチュール」という呼称で呼ばれ、亜硫酸使用量によって2種類の認証ロゴステッカーが貼れることになるようです。
ヴァン・ナチュールの条件の厳しさ
「ヴァン・メトード・ナチュール」として認可されるための条件の一部をみていきましょう。
- 亜硫酸添加量 赤・白共に30mg/L以下。(発酵前や発酵中の添加はもちろん不可)
- 添加酵母は不可 野生酵母のみの醸造
- 逆浸透膜、補糖、補酸など醸造における人的介入の禁止
- 原料はオーガニック栽培認証ブドウのみ(手摘みが条件)…etc
ちなみに、「自然派ワイン協会(AVN)」は白ワインの亜硫酸添加量が40mg/Lですのでそれよりも厳しいことになります。
ちなみに「S.A.I.N.S」は、全ての生産者が無添加で造っている生産者だけが加盟できる生産者団体だそうです。
EUの話になってしまい恐縮ですが、「オーガニックワイン」の亜硫酸の規定量は…
- 総亜硫酸で赤 100mg/L、白150mg/L
ですので、その差は歴然です。(もちろん、規定内であれば亜硫酸に害はありません)
さらに添加物に関しても、クエン酸や酒石酸塩素カリウム、タンニン(醸造用)などが使用可能であり、逆浸透膜や蒸発による果汁の濃縮などの技術も使用可能。(安全に製造するための方法なので悪いわけではない)
一方のヴァン・ナチュールは、添加物は亜硫酸のみで使用可能な技術はほぼありません。(EUの認可の場合、低温浸漬などは可能だそうですが)
これらを比較してどちらかが優れている…ということではなく、定められている定義においてもヴァン・ナチュールは、「自然」を意識して造られているワインである…ということがお分かりいただけると思います。
日本ワインにおけるヴァン・ナチュールの選び方
前述したように、各種ヴァン・ナチュールの団体やEUでもヴァン・ナチュールの定義が認可されているため、それらに認定されているワインはステッカーなどが貼られています。(あえて認可を受けない優れた生産者もいます)
つまり、高品質な海外産ヴァン・ナチュールを選べる土壌が整備され始めたと考えることができるでしょう。
しかし、日本のヴァン・ナチュールを選ぶ際にはそういうわけにはいきません。
国内に独立したヴァン・ナチュールの認証団体があるわけではないため、あくまで「生産者情報」から選ばなければならないのです。(今は生産者が、ヴァン・ナチュールを名乗るという状況にあるため…)
基本的にヴァン・ナチュールを専門に扱うショップや店舗で教えてもらうのが手っ取り早いですが、自分で探そうと思った際にはこういった部分に注意してみましょう。
- ブドウを栽培する土地への知識と愛情の深さ
- 醸造への深い知識と経験、技術力
- 天然酵母での発酵
- 澱引きなどをしていない
- 醸造に人的介入をせず、亜硫酸もできれば50mg以下
- 生産者哲学に共感できる
実際、自分が美味しいと思ったものを購入すればよいのですが、ヴァン・ナチュールは比較的高額であるため(生産量もごくわずか)、いたずらに試し飲みするようなワインではありません。
少し面倒かもしれませんが、ぜひこれらを参考にして日本の優れたヴァン・ナチュールを探してみてください。
個人的におすすめしたい、『日本三大ヴァン・ナチュール』
「自分で探せと言われても…」という方もいるでしょう。
前置きが長くなってしまいましたが、ここからは本題である日本のヴァン・ナチュールの中でもおすすめの3本を紹介していきましょう。
独断と偏見ではありますが、これらワインは『日本三大ヴァン・ナチュール』といっても過言ではないと考えています。
ぜひ、気になった方はお試しください。
ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン(La Grand Colline Japon)
岡山県の「ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン」。
代表の大岡弘武氏は、フランス ローヌ地方で本物のヴァン・ナチュールを生み出していた世界的にも有名な人物です。
あのギガル社のエルミタージュ地区栽培責任者やコルナスのティエリー・アルマンの栽培長を経て独立。
彼の造るワインはあのコペン・ハーゲンのレストラン「noma(ノーマ)」で採用されたほどです。
そんな大岡氏は2016年に日本に帰国。
岡山県で「ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン」を創業します。
自社畑は無農薬有機栽培に適した日本固有品種を栽培するだけでなく、岡山県の産地形成への貢献目的から近隣の契約農家からマスカット種のブドウを買い取り醸造しているとのことです。
世界に認められたヴァン・ナチュールを生み出した大岡氏が生み出す、信頼のヴァン・ナチュールをぜひお試しください。
ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン 小公子2019年
「ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン」おすすめのヴァン・ナチュールが、〈小公子 2019年〉。
小公子85%とふじのゆめ15%(山梨県牧丘産、岡山県倉敷産)を天然酵母、無濾過、亜硫酸無添加で醸した正真正銘のヴァン・ナチュールです。
ブドウの生命力を感じさせる深いガーネット色の外観。
柔らかな口当たりにジューシーな果実の風味、ナチュラルな造りのワイン特有のはじけるような印象も魅力的です。
スムースなタンニンと引き締まった酸。
さりげなくなめし革を思わせる風味がワインをさらに複雑に構成しています。
ワインを口にふくむたびにブドウ畑が想像できる、ピュアな1本といえるでしょう。
ドメーヌヒデ(Domaine Hide)
山梨県南アルプス市でマスカットベーリーAを中心に赤ワインの醸造にこだわっているマイクロワイナリー「ドメーヌヒデ」。
空港での空港長、ダイビング専門学校を設立、臨床心理士など異色の経歴を持つ渋谷英雄氏によって設立されたワイナリーです。
ブドウ栽培に適した環境である南アルプス市のテロワールを最大限に生かした、ピュアさと複雑性、奥行きのある個性溢れるワインは世界からも認められています。
現状に甘んじることなく、常にチャレンジを続ける渋谷氏。
自らヴィーガン生活を取り入れているなど、その徹底した姿勢はワインファンからも注目されています。
「ドメーヌヒデ」のヴァン・ナチュールには多種多様なスタイルが存在し、選ぶ楽しさもあるところが大きな特徴。
来年はどんなワインが生まれるのか…。
常に追い続けていたい注目のヴァン・ナチュール生産者です。
ドメーヌヒデ Vegan 2019
「ドメーヌヒデ」からは、「Vegan 2019」。
生産数わずか709本という貴重な赤ワインです。
ブドウ品種はもちろんマスカット・ベーリーA(栽培期間中農薬・肥料は一切不要)で、天然酵母、添加物や発酵助剤などは一切不使用。
ちなみにワイン名の通り、栽培家と醸造家の渋谷氏共にヴィーガンというところもポイントです。
混濁した淡い紫色の外観。
カシスや赤スグリを思わせるフレッシュな香り、はじける心地よい口当たりなど上質なヴァン・ナチュールの要素を兼ね備えた味わいです。
酸味とタンニンはスムースながら、ほどよい緊張感がありワイン全体が引き締まっている印象。
体と心に染み渡っていくような、ピュアな味わいに心揺さぶられる1本です。
ボー・ペイサージュ(Beau Paysage)
山梨県北杜市津金に位置するワイナリー、「ボー・ペイサージュ」。
岡本英史氏によって1999年に設立された、フランス語で「美しい景色」を意味するワイナリーです。
標高800メートルの場所に自社畑を持ち、畑には主に国際品種が植えられています。
海外をマネたワイン造りではなく、「黒ボク土壌」といった日本で比較的多い土壌を生かしたブドウ栽培をおこなう入手困難なワインを生み出すことで有名なナチュール生産者です。
その土地がもたらすブドウの味わいを重要視しており、醸造も人的介入はほとんどありません。
つまり、発酵は野生酵母で補糖はおこなわず、亜硫酸も無添加。
ヴァン・ナチュールに正しい・間違いはありませんが、「ボー・ペイサージュ」のワインが日本のヴァン・ナチュールのあり方を指し示してくれているような気がしてなりません。
ボー・ペイサージュ ツガネ・ラ・モンターニュ・トランス 2018
「ボー・ペイサージュ」は、「ツガネ・ラ・モンターニュ・トランス 2018」。
メルローを使用したヴァン・ナチュールで、前述したように人的介入はほとんどありません。
外観は、ほどよく枯れたニュアンスを感じさせる淡い朱色。
フレッシュなフルーツや柑橘のようなニュアンス、奥にスパイシーな香りを感じさせる複雑な香りに心が掴まれます。
口当たりのスムースさや酵母由来のガス感などヴァン・ナチュールらしい特徴を感じますが、とにかく驚くべきが“うまみ”の強さ。
体中にワインのうまさが染み渡るような素晴らしい風味は、一般的な日本産メルローとは一線を画します。
酸やタンニンもスムースで飲みやすく、飲んだ後も口内にピュアさが残り続けます。
山梨県で国際品種を使い、ここまでピュアな味わいに仕上げるとは驚き。
入手困難ワインというレッテルも頷けます。
ヴァン・ナチュールの世界へ飛び込もう
繰り返しになりますがヴァン・ナチュールには、正解がありません。
人によって、「ヴァン・ナチュールの善し悪しを判断するとしたら、“飲んだ人が好きか嫌いか”だ」という意見もありますし、「ファンキー過ぎて評価できない」、「ある程度のクセがあるところがイイ」という意見などさまざまです。
欠陥臭といわれる部分も、全体のバランスから見ると好ましい個性だったりしますし、ピュアな味わいながら生命力を感じるような力強さを感じる不思議なものにも出会うことがあります。
ただひとつ言えるのは、本物のヴァン・ナチュールからは、「その土地の味わいを感じることができる」というところです
ヴァン・ナチュール以外がテロワールを再現できていないとは言いませんが、それでも土地の味を知る上でヴァン・ナチュールの存在は無視できないでしょう。
「よく分からないけれど、こういったワインを一度飲んでみたい」と思われた方は、まずはここで紹介した『日本三大ヴァン・ナチュール』からはじめてみてください。
一度ハマると抜け出せない世界です。
これを機会に、ぜひヴァン・ナチュールの世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
参考