ワイン好きの方はワインそのものだけでなく、原料となるブドウについても興味があるようです。
「良いワインは良いブドウから…」という言葉があるように、質の高いブドウを栽培・収穫することが品質の高いワインを造る上で重要になります。
さて、そもそもブドウはどのように成長していくのかご存知でしょうか。
ブドウの成長ステップを知ることは、ブドウについて深く考える上で、またワイナリーに遊びに行く時期などの参考になるはずです。
今回ブドウの成長ステップをシンプルにまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
ブドウの成長ステップを知ろう
ブドウ(属)とは、ブドウ科のつる性落葉低木。
毎年、ある程度決まったステップで成長を繰り返しています。
ワイン用ブドウを栽培する農家の人たちは収穫期だけでなく、その時々の果実やブドウ樹の状態に気を使っているようです。
そのため、生産者にワインのことを聞くと今年は萌芽の時期がうんちゃら、開花の頃にうんちゃら、ヴェレゾンの時期がうんちゃら…といった感じで、そのヴィンテージにおけるブドウの状態の話になることも少なくありません。
ワインを深く知るためにはワインそのものに注目することは間違いないのですが、やはり原料となるブドウについても詳しく知っておく必要があるのです。
まずは、ブドウにおける基本中の基本。
ブドウの成長ステップについて知っておきましょう。
樹液吸い上げ期
ブドウ樹に早春の頃起こるのが、樹液の吸い上げという現象です。
ブドウ樹自体は休眠中なのですが、この時期に剪定すると樹液が流れてきます。
この現象はブドウ樹が生きていることの証であり、切断部分から樹液が流れているところを見て農家も、“今年も始まりだ”と感じるのではないでしょうか。
ちなみに、樹液の吸い上げは萌芽期の約1ヶ月前に始まり、新梢の成長と共に停止するといわれています。
萌芽期
植物が芽を出す時期、萌芽期。
萌芽は、ブドウ栽培における本格的なシーズンの訪れを告げる瞬間であり、農家の方もこの時期を心待ちにしていると考えられます。
一般的には春霜の後で最初の葉が出てはじまるといわれていますが、2日から3日の間に一斉萌芽することが理想的なのだそう。
温暖な日々が萌芽期に続くことが期待されているのですが、寒い天候が続いてしまうと長くて発芽は10日ほどかかってしまうといわれています。
「今年の萌芽期は、天候に恵まれた」という言葉をたまに耳にしますが、農家としてはとてもありがたい気候条件だったということでしょう。
初期の新梢成長期
萌芽期が終わった後、天候が良く温暖な日々が続くと初期の新梢の成長がはじまります。
初期の新梢は急成長して葉が広がり、房状の花穂(かすい)が付きます。
初期の新梢はとてもやわらかいことで知られており、雑に扱ったり、強風などいよって折れてしまう可能性があるので管理には注意が必要です。
開花期
ブドウの成長ステップの中でも重要視されているのが、開花期。
開花とはその名の通り植物の花が咲く時期で、ブドウの場合は萌芽からおよそ50日前後で開花となるといわれています。
この時期に十分な日照量+乾燥状態であれば一週間以内に開花が終了しますが、気温が低く日照量が少ない場合は2週間以上かかる可能性があるそう。
ひとつの圃場に植わっているブドウ樹の開花期がバラバラになってしまうと、収穫期がズレてしまいワインの品質に影響を与えると考えられているため、この時期の天候は重要です。
さらに開花時期の一ヶ月、ブドウはとても病害に弱い状態なので雨の多い日本などはとくに注意を払わなければなりません。
果房の形成期
開花中に受粉した花には小さな果房が出現します。
開花から50日ほどでこの果房はブドウらしく成長していくのですが、同時に新梢も成長。
葉をどんどん広げていってしまうため放置しておくと房に陽が当たりにくくなり、ブドウの品質に影響が出てきてしまうのです。
そのため、農家はこの時期に樹冠管理(キャノピーマネジメント)をおこないます。
ブドウの樹冠管理はこれから大きくなるブドウの果実の品質を大きく左右する作業であるため、“ここが腕の見せどころ…”という方も少なくないようです。
ヴェレゾン期
黒ブドウが緑色から黒みを増し、白ブドウは不透明な黄緑色に変わっていく時期が、ヴェレゾン期です。
北半球では7から8月頃にヴェレゾン期を迎えるといわれています。
ちなみに、ヴェレゾンとは色づきのことで、私たちが普段見ている成長したブドウらしい色づきになっていく時期がヴェレゾンと覚えておくとわかりやすいでしょう。
この時期になると新梢の成長はストップし、ブドウの栄養分は全て果実の熟成に使われるようになります。
果実は日々糖分が上昇していくほか香り成分も増加。(糖度が上がりきると、次に酸度が急激に下がっていく)
ヴェレゾンは農家にとって嬉しい時期のひとつですが、鳥や動物にとっても嬉しい時期なのだそう。
甘く香り高いブドウの果実を鳥や動物が食い荒らす…という話もよく耳にします。
この時期はブドウ管理だけでなく、鳥や動物対策にも力を入れなければいけない時でもあるわけです。
収穫期
開花から3ヶ月から、4ヶ月後。
ブドウ品種によって違いはありますが、ブドウは収穫期を迎えます。
糖度と酸度、フェノール値など、ワイン生産者の考える状態になったブドウが機械または手摘みという方法で収穫されます。
この収穫期を決定するファクターは農家によりますが、目指すワインの味わいなどから逆算していく場合、ブドウ本来の良さのピーク、あえて糖度を低く酸度を残すなど…いろいろあるようです。
今後ワイナリーを訪れた時など、どういった状態で収穫日を決定しているのか聞いてみるのもおもしろいでしょう。
木質化
収穫されたブドウはすぐさま醸造にまわされます。
そのため、ここから先のブドウ畑の風景は無視されがちですが、成長ステップは終わっていません。
収穫が終わった後のブドウは新梢の木質化、そして翌年に向けて炭水化物を溜め込むという期間になります。
これらをスムーズに進めるためには、ブドウ収穫後に葉が健全な状態で残っていることが重要だそう。
収穫したのに、なぜ葉を放置しているのか…と思われる方もいると思いますが、じつはこういった理由があるのです。
ちなみに木質化とは、植物の組織が堅くなることで木化と呼ばれる現象。
緑色をした新梢が堅く褐色に変化していく時期と考えると、わかりやすいでしょう。
休眠期
秋から冬にかけて寒くなると葉は落葉し、ブドウ樹は裸の状態になります。
ここからは、休眠期。
ブドウ樹は、翌年の早春に起こる樹液吸い上げ期までしばし休息の期間に入ります。
ただし、冬場農家は翌年のブドウ収穫量を逆算して剪定をしたり、ゴミ拾いをしたり、案外いろいろとやることがあります。
ドメーヌであれば、今後はワイン造りに追われる時期に…。
ブドウの栽培農家に感謝してワインを飲まなければなりませんね。
ブドウにも愛情を!
今回お伝えしたブドウの成長ステップは、ざっくりしたものであり、本来はさらに細かく分類が可能です。
また、それぞれの時期に必要な栽培テクニックがありますし、栽培地域の天候条件や土壌条件によってもいろいろな違いがあるでしょう。
ブドウ畑には、できあがったワインを飲むだけではわからないドラマがあるようです。
ぜひ、ワインと共にブドウにも愛情を注いでみましょう!
参考
ブドウ畑から始まる職人ワイン造ブドウ畑から始まる職人ワイン造りブドウ栽培から仕込みまで、小規模ワイン造りの全プロセスり/JimLaw【著】,亀和田俊一【訳】