先日、東京駅近くの創作レストラン「NINJYA TOKYO」において、長野のヴィラデストワイナリーと、その兄弟ワイナリーであるアルカンヴィーニュのアニバーサリーイベントが開催されました(主催:日本ワイン専門商社 株式会社クリュックス)。

会場には、ヴィラデストワイナリーとアルカンヴィーニュが提供する、東京ではまず購入できない貴重なワインを含む数種類のワインを試飲できるブースのほか、アルカンヴィーニュが運営する栽培醸造経営スクール「千曲川ワインアカデミー」の卒業生が栽培したぶどうで造られたワインを試飲できる5つのブースが設けられており、千曲川のテロワールを飲み比べできる貴重な機会となりました。

閉会ぎりぎりまでどのブースも大賑わいでしたが、大盛況のうちに幕を閉じた本イベントの様子をレポートします。

 

醸造責任者・小西超さんの挨拶でスタート

開始時刻の17時、ヴィラデストワイナリーの社長 / 栽培醸造責任者の小西 超さんからのご挨拶で、濃密な3時間の幕があきました。

「みなさんこんばんは。エッセイストで画家の玉村豊男は、2003年に長野県東御市にヴィラデストワイナリーを立ち上げました。当時、東御市には一軒のワイナリーもありませんでしたが、この20年の間に、ブドウを栽培してワインをつくる人が増えてきました。2015年には兄弟ワイナリーのアルカンヴィーニュもオープンし、そちらでは、ぶどう栽培やワインの醸造、ワイナリー経営について学べる千曲川ワインアカデミーも開校しております。今日はそのアカデミーの卒業生のなかから、自分でぶどうを栽培した後、アルカンヴィーニュに醸造を委託し、ワインを販売されている5名の方にも参加いただいています。30種類以上のワインが揃っていますので、みなさん、どうぞじっくりと、心ゆくまでお楽しみください!」(小山 超さん 冒頭挨拶より)

この挨拶を皮切りに、ワイングラスを持った日本ワインラバーたちは、思い思いにブースを回り始めました。

■出展ブース

・ヴィラデストワイナリー
・アルカンヴィーニュ
(以下、千曲川ワインアカデミー卒業生)
・いざわの畑 伊澤貴久さん
・トゥモローワイン ⽥村稔さん
・スターダストヴィンヤード 星野勇⾺さん
・バルダー果樹園 太⽥匠さん
・ひかるの畑 鈴⽊輝さん

 

軽食ブースには、実際にNINJYAのコース料理で出されている、竹炭を練り込み石窯で焼き上げた、手裏剣型のグリッシーニやバケット等が並んでいました。同系列のお店でつくられているという柿ジャムも絶品で日本ワインとの相性抜群です

 

飲み比べでテロワールを楽しむ

それぞれの生産者の個性が際立っていた卒業生ブース。回って飲み比べることで、それぞれの畑の個性やこだわりの違いをしっかりと感じることができました。

 

立科町 いざわの畑 伊澤貴久さん(1期生)
「ワインの出来は、9割ぶどうで決まります。2022年、量があまりとれなかったソーヴィニヨン・ブランは、凝縮された味わいに。それに対し収穫量の多かったシャルドネは、飲みやすく、食事と合わせやすい味わいに仕上がっています」

 

単一ワインをメインとする「いざわの畑」の栽培品種は、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロ、カベルネフラン、カベルネソーヴィニヨンの5種。ワイン名である「コトー・デ・シェヴレット」が全てのワインのエチケットに記されています。最初にいただいたソーヴィニヨン・ブランの持つミネラル感と、あとに残るキレイな酸味からは、立科町の冷涼な気候やミネラル分豊富な粘度土壌といった、畑のテロワールがしっかりと感じられました。生産者の伊澤さんいわく「除草剤、殺虫剤、化学肥料不使用で、殺菌剤も必要最低限に抑え、土壌の微生物の力を活かした土づくりをしている」とのこと。アロマティックで豊かな香りからは、ぶどうの熟度も感じられました。ブースでは、同じシャルドネで、ステンレスタンク発酵のものと樽発酵のものの飲み比べもでき、参加者が「飲み比べると全然違う美味しさだね」とワインづくりの奥深さに感じ入る様子も見られました。

▼提供ワイン(6種)
(白)ソーヴィニヨン・ブラン2022
(赤)タテシナルージュ ウニク2021:メルロ100%    など

 

 
上田市 トゥモローワイン ⽥村稔さん(1期生)
エチケットのイラストは、田村さんがご自身で描かれたもの。尾野山の畑の周辺に住んでいる生き物を描かれているそうです

 

京都で焼肉店「ワインとお肉と野菜の店Daisetsu」を経営する田村稔さんが、長野・上田で開墾を始めたのは2016年。ヴィラデストのオーナー・玉村豊男さんが千曲川ワインバレー構想について語られている記事を雑誌で読み、雷に打たれるような衝撃を受け、53歳でアカデミーに入学、ワインをつくると決めたそうです。殺虫剤や除草剤、化学農薬は使わず、雑草もすべては刈り取らない「草生栽培」を行う田村さん。虫もあえて駆除せず、土地の食物連鎖を尊重したワインづくりを意識しているそうです。「少し青さの残る、お肉に合うワインづくりを目指しています。今年、グラヴィティ・フロー式ワイナリー(果実、果汁やワインの移動をポンプでなく自然の重力を利用し、優しく丁寧に行うワイナリー)をオープンする予定です。手間はかかるでしょうが、頑張りたいなと」(田村さん)。ワイナリーオープンの続報が待たれます。

▼提供ワイン(2種)
(白)オノヤマビッキ(シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、ピノグリ)
(赤)オノヤマビッキ(メルロー、カベルネフラン、カベルネソーヴィニヨン)

 

東御市 スターダストヴィンヤード 星野勇⾺さん(1期生)
「ワインづくりをやめたいと思ったことはないですか?」と聞かれて、「好きなんでやめられないです。大変なことはないかといわれれば、それはなくはないですけれど」と答えられていた姿が印象的でした。

 

「コンセプトは、旨味を感じられるワインです。夜空をモチーフにテーマを決め、そのテーマに沿って、どう旨味を表現できるかとブレンドを考えています」。そう語るのは、スターダストヴィンヤードの星野勇⾺さん。京都で医師として活躍していた星野さんですが、研究会に出席するために訪れたカルフォルニアのナパバレーで飲んだ一杯の赤ワインの美味しさから、ワインの世界にいざなわれ、そのままのめり込んでいくことに。そのうちに、とうとう自分でワインをつくりたい!と思い立つことになって、今日に至るといいます。「約1.4haの畑で、今はシャルドネとピノノワールを主体に11品種のブドウを育てています。何でも自分でやってみたい!と思う性格なので、これ好きだな!と思うワインを飲むと、その品種を自分でつくってみたくなるんですよね」(星野さん)。出汁のようにじんわりとした旨味が広がるピノノワール(Cry for The Moon 2022)など、かしこまって飲むのではなく、食事と合わせて楽しく飲むワインを造っていますとのことでした。

▼提供ワイン(3種)
(赤)Wish Upon A Star 2021 ~星に願いを~ (サンジョベーゼ、メルロ、カベルネフラン、プティヴェルド、ムーンヴェドル)
(白)Beyond The Milky Way2022~天の川の向こうに~(シャルドネ、ピノノワール、ピノブラン、ピノグリ、ピノムニエ、ソーヴィニヨンブラン)   など

 

 
上田市 バルダー果樹園 太⽥匠さん(1期生)
「ピノノワールといえば、標高が高く冷涼な地で植えるものというイメージがありますが、自分なりに色々試してみた結果、長野の日当たりの良い今の土地ならではの、しっかりと熟したピノの良い香りが出せると思っていて。今年から本格的に植えていく予定です」(太田さん)

 

ファーストビンテージ「Balder Wine2022」をリリースした「バルダー果樹園」の栽培醸造家・太田さんがワインづくりで重視するのは香り。香りのいいブドウやリンゴをつくろうとすると皮がどんどん厚くなることから、醸造の過程で皮を取り去る白ワインはつくらず、赤ワインとシードルに特化した果物の栽培・醸造をおこなっています。「私は、香りは、その果物の“果物らしさ”であり“自己紹介”だと考えています。私は人も、もっと自分らしくあっていいと思うのですが、同じように、ぶどうやりんごもその果物らしさをためらわない存在であってほしいと思っていて。だから僕のワインづくりは、香りが良ければ良しなんです」(太田さん)。約2haの畑で、今栽培している品種はカベルネソーヴィニヨンとカベルネフラン、シラー、そしてシードル用の生殖リンゴ(フジ)。今後は、さらにピノノワールと、リンゴは、シードルのブレンドのために酸味がある品種や苦みのある品種なども植えていく予定とのことでした。

▼提供ワイン(1種)
(赤)Balder Wine2022(カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、シラー)

 

 
東御市 ひかるの畑 鈴⽊輝さん(3期生)
登山が趣味という鈴木さん。「キリマンジャロに登っているときに高山病にかかり命を落としかけたのが、ワインづくりのきっかけです。いつかやりたいと思っていましたが、いつかはないかもしれない。今始めようと思い立ったんです」(鈴木さん)

 

エチケットの写真は「実は、僕の手を撮影したもので……」と語ってくれたのが、今回唯一3期生でブースを出展された「ひかるの畑」の鈴木さん。畑をする前は華奢だった手が、粘土質の固い土地を開墾し、ブドウ造りを始めたことで逞しい農家の手になったことから、その歩みをそのままエチケットにしたそうです。「フランスやアメリカで過ごした経験から、元々は海外でのワインづくりを考えていました。でも、あるとき銀座のバーで何の気なしに飲んだ日本産ワインが美味しくて、すごく可能性を感じたんです」(鈴木さん)。なるべく雨や湿気を避けられる土地を検討する中で、最終的に行き着いたのが東御市。たまたまワインアカデミーもあると知り、それも追い風になったといいます。「自然の力を最大限に活かしたワインづくりを目指しています。添加物をいれたり、無理に形をつくったりせず、野生酵母で発酵させ、無濾過、無清澄。古樽を使い熟成。亜硫酸もおまじない程度にしか添加せず、飲んだときに体に染み入るようなワインを目指しています」(鈴木さん)。

▼提供ワイン(2種)
(赤)「心」Cocoro2022 カベルネソーヴィニヨン
(白)「志」2022 シャルドネ             など

 

***

 

各ブースで聞いた、アルカンヴィーニュ卒業生はお互いの畑が近いことから普段から交流も密で、「ブドウの育ちはどう?」と連絡を取り合うなど、期を超えて仲が良いとのこと。農業未経験で始めた者同士、情報がほしいときに、情報交換ができたり、相談ができたりする関係性にお互いが支えられているのだそうです。

実際に、試飲していると、「実は、僕は7期で通っていたのですが、畑の開墾を考えていて」「僕は9期生で……」と交流がはじまっていく様子を何度も見かけ、千曲川ワインアカデミーによるワイン人口の広がりを実感させられました。

 

「やっぱり美味しい」20年の歩みと共に

日本ワインを牽引する栽培醸造家・小西超さんにサーブいただき、そのワインのぶどうが育った畑の様子を伺いながらワインをいただけるというプレミアムなひととき。実際に飲み比べることで、土壌、醸造法の違いを舌ではっきりと感じ取ることができます

 

この度の周年イベントの主役、ヴィラデストワイナリーとアルカンヴィーニュのブース。人が途切れることなく、最初から最後まで賑わっていたのは、言わずもがなです。

卒業生のブースでは、「美味しくてビックリした」という、はじめて出合う新たなワインの美味しさに感激している声がよく聞かれましたが、ヴィラデストのブースで多く聞こえてきたのは「もう、本当に美味しいなぁ」という、ただただ感嘆するばかりというような声でした。

その声に、ヴィラデストの20年の歩みの中で育まれた信頼感、安心感をまざまざと感じさせられました。そのうえで、ヴィラデストのワインを改めて飲むと、なおも想像をさらに超えた美味しさが広がり、全国の日本ワインラバーがどうしたってヴィラデストワイナリーのワインに魅了されるのも無理はないはずだと思わざるをえませんでした。ヴィラデストの20年の歩みと今も続く挑戦に感謝せざるを得ない、まさしくそんなラインナップでした。

一方、来年10周年を迎えるアルカンヴィーニュは、千曲川沿いの甲斐ブドウのみを使ったワインづくりを行っているのがヴィラデストワイナリーとの違いであり特徴。例えばメルロ主体に、ブラッククイーンと巨峰を加えた1本など、これぞ長野のアルカンヴィーニュならではのワインでしょう。

「早摘みのブラッククイーンで酸味を足し、巨峰で香りのブーケをつけました。甘みのある煮物などの和食にも合わせやすく、ぜひ食卓に置いてほしい1本です。このようにアルカンヴィーニュは家庭料理に合ったワインをつくっているので、ぜひ家庭でカジュアルに楽しんでいただきたいと考えています」(アルカンヴィーニュ)

千曲川ワインバレーの発展に貢献するという理念のもと、卒業生のつくったぶどうのワインづくりも手がけるアルカンヴィーニュの益々の発展が楽しみであると共に、あまりにもあっという間で楽しい3時間を過ごしたことで、ぜひ来年も周年イベントをしてくれないだろうか……そんな思いに駆られる幸せなひとときとなりました。

撮影=NORIZO
文=浅田よわ美

 

shop info

忍者東京【NINJA TOKYO】

2001年に赤坂にオープンした食とエンターテイメントを組み合わせた創作料理レストラン。150名超の箱が毎日満席で埋まる超人気店として22年間営業をつづけ、東急プラザの閉館と共に、大手町に24年12月22日より移転オープン。内装の一部を、明治神宮をつくる宮大工や東京ディズニーランドのスタッフが手掛け、今にも忍者が飛び出してきそうな不思議な空間となっている。スティーブンスピルバーグやブルーノマーズなど海外のビップもプライベートで訪れるなど、日本文化を世界に発信する拠点のひとつとなっている。メニューは、国内の高級食材を使用したコース料理のみ(完全予約制)。日本ワインをふくめ世界のワインを取り扱う。