先月、都内にて、長野県の17の生産者が一堂に会し「Artisan Winegrowers NAGANO 2024〜長野のテロワールを知る試飲会〜」が開催されました。
開始とともに参加者がブースに押し寄せ、大盛り上がりのままに幕を閉じた本イベント。日本ワイン好きでも、普段都内ではなかなかお目にかかる機会のないワインに出会えたり、その造り手(アルチザン)と交流できたりする贅沢なひとときに、参加者の誰もが満足そうな笑みを浮かべていました。
その一方で、「長野ワインが大好きなのに、どうしても予定が会わずに行けなかった……」「知っていたら絶対に行きたかったのに、すでに終わっていた」などど、悔しい思いをした人も少なくないのではないでしょうか。
今回は、そんな方々にも、少しでも“長野のテロワール”を楽しんでいただきたいと願い、17のワイナリーすべてに「とくにおすすめの1本」を聞いてきました。気になるワインやはじめて見るワインがあれば、ぜひチェックいただきたいと思います。
残暑にかけて(まさに今!)飲みたい爽やかなワインも多く、家飲みはもちろん、ワイン会に持っていっても喜ばれること間違いなし(何本か集めて、長野ワイン会を開催しても楽しいかもしれませんね)。
それでは早速、白編、ロゼ編、赤編、オレンジ編、シードル編に分けて、今チェックいただきたい長野ワイン計17本を紹介します!
「白ワイン」編
冷やして飲みたい辛口から、上品に樽の香りの効いたリッチなワインまで、計6本を紹介します。
●「ルヴァンデュボヌール ナイアガラ 2023」(ベリービーズワイナリー)
塩尻市の中でも、標高の高い場所に位置する「ベリービーズワイナリー」が、自社ブドウのナイアガラ100%でつくった1本。「ナイアガラのワインを飲んだことのある人が、これを飲むと、大抵『え?』と驚いたような反応をされます。独特な香りが特徴のナイアガラワインですが、これは優しい花やパイナップルのような、あまやかで、爽やかな香りがするので意表をつかれるようです。そして、後味には、しっかりとした酸も感じられます。造りは辛口にふっていますが、香りもあいまって飲み口は甘やかなので、中口という印象かもしれません」(ベリービーズワイナリー)。しっかりとした酸味が感じられるのは、完熟する前に早摘みし、1か月ほどかけて低温発酵させているからなのだそう。
●「Murayori(むらより)2022」(信州たかやまワイナリー)
4月にリリースされたばかりの1本。「地元で飲まれるワインを多くつくっているのですが、土地のぶどうの味わいを全国にも届けたいという思いでリリースしました。むらよりは『むらからのたより』という意味です。品種は非公開ですが、畑のブドウ8種類を混ぜたフィールドブレンドです」(信州たかやまワイナリー)。すっきりとした辛口で酸味もあり、キレのある味わい。山菜の天ぷらはもちろん、鶏肉や揚げ物とも好相性。良い意味で食材の余韻を切ったり、口内の油っぽさを洗い流してくれるような“キレ”が持ち味の1本。テロワールを感じながら、楽しみたい。
●「シャルドネ マザーバインズ2020」(佐藤果樹園)
他ワイナリーにブドウの販売も行う「佐藤果樹園」のワインづくりのコンセプトは、“ぶどう本来の香り”を大事にすること。「うちのぶどうは、香りが特徴であり魅力。ぶどうという果実の特性上、すっきりつくると余韻が短くなりやすいのですが、この香りを生かすために粘性をあげ、すっきりとはさせながらも余韻を残せるような造りをしています。香りを大事にしつつも、日本食に寄り添い、食を補完するイメージでつくっていますので、ぜひ食事とも合わせてお楽しみください」(佐藤果樹園)。畑の約7割を占めるシャルドネをつかった、このワインを飲んだ人たちの感想からも、「柑橘の爽やかな香りがする」「トロピカル!」など、香りへの印象が強いことがうかがえた。美味しい“日本のシャルドネ”の魅力を感じられる1本。
●「ポラリス ピノグリ 2022」(Le Milieu)
「暑さや湿気を感じる日にはまさに飲みたい、最高の1本だと思います。冷やしてすっきり飲めますし、ワインとしての香りも楽しめますし、酸味もある。また、華やかでありながらも、決して料理を邪魔するような香り、味わいではないので、幅広い料理に合わせやすいかなと」(Le Milieu)。一口、口に含む前に花のニュアンスに、メロンなどのフルーティな香りがぶわっと鼻腔を掠める、幸せな1本。味わいは澄んでおり、キレイな飲み口。「エレガント&フィネス」をコンセプトに掲げるLe Milieuは、ワイナリーに嫌われがちな“日本の雨”を味方と捉え「雨が多いからこそ、飲みやすいワインができる」と語る。みずみずしさに満ちた1本で、喉と心を潤したい。
●「水掛ブラン 2023」(水掛醸造所)
8月にリリース予定の1本(ピノグリ50%,リースリング26%、ゲビュルツ24%)。ワインが注がれたグラスに顔を近づけると、ゲヴェルツトラミネール特有の白バラにはちみつ、ライチのような華やかで甘やかな香りが広がるが、そのあとにスモーキーな香ばしさが追ってくる。いざ口に含んでみると、キレイな酸味が感じられ、飲み飽きずにすぐにグラスが空いてしまう……そんな味わいのワインだ。単体でももちろん楽しめるが、スパイスの効いた夏らしい料理などとも合わせてみたい。「ゲヴェルツトラミネール単体だと飲みづらさを感じたので、いろいろと試して造りました。飲み物なので“飲みやすさ”は意識しています」(水掛醸造所)。開栓後、数日おいて、香りの開きの変化を楽しんでみるのも、家飲みならおすすめ。
●「シャルドネ 樽熟成 2022」(Reve de Vin)
品種個性のあとに樽香が上品に追いかけてくる、繊細な味わいの1本。切りたてのりんごのような、フレッシュで甘やかな香りのあとに、花のミツ、バニラ、ナッツなどの芳香な香りを楽しめる。「ステンレス発酵のあと、10か月の樽熟成を行い、瓶詰めしています。澄んだ、明るいレモンイエローの色味も楽しんでいただけたら」(Reve de Vin)。繊細さと同居する“旨み”や果皮の苦味も感じられながら、最後はきれいな酸味で締めくくられる。3000円台で楽しめるリッチな味わいを、売り切れる前に楽しんでほしい。
「ロゼワイン」編
夏といえばロゼ! イベント当日も人気だったロゼワインたち。個性の異なる4本を紹介します。
●「ピノ・ノワール ロゼ 2022」(ヴィラデストワイナリー)
日本ワイン好きにファンの多いヴィラデストワイナリーの1本。これまでピノノワールは全量を赤ワインにしていた本ワイナリーによる、ピノノワール100% ロゼワインのファーストヴィンテージ。「ピノノワールの畑が大きく2つあるのですが、そのうち、より香りが華やかで色づきが淡く、軽やかなワインに仕上がりやすい方の畑のぶどうを早摘みし、ダイレクトプレスで造りました。酸味あるチャーミングな味わいでありながら、黒ぶどうならではの骨格も感じられるので、白ワイン派の方にも、赤ワイン派の方にも美味しく飲んでいただけると思います」(ヴィラデストワイナリー)。エチケットがぶどうではなくバラの花なのも特徴で、普段ワインを飲まない人にも、花束のようにプレゼントして飲んでもらいたい、との気持ちがこめられている。
●「メルロ ロゼ 無濾過 極辛口 2023」(Domaine KOSEI)
「うちではメルロしかつくっていません。理由はメルロが好きだから」と語るのは、「Domaine KOSEI」の醸造家・味村興成さん。この日一番多く出たのは、夏の暑さもあってかセニエ法でつくったロゼワインだったという。「メルロからつくったフレッシュな味わいのロゼです。よりフルーティに仕上がるように低温でゆっくりと発酵させました」(Domaine KOSEI)。ロゼ本来の美味しさを最大に活かせるように、無オリ下げ、無冷凍、無濾過、無加熱で造られたという1本。ぜひ今年中、いや今夏中に飲んで、心地の良い炭酸の口当たりと共に、フレッシュさ、フルーティさを楽しんでほしい。
●「Mais on de Kirinoka Pinot Noir Rose Cuvee “TOKIHA”2023」(Kirinoka Vineyards)
来年以降のリリースに向けて、今まさに樽に眠る高級ピノノワールをセニエしてできたロゼ。今後キリノカヴィンヤードが展開していくピノノワールは1万円以上が相場となるが、これは3000円台と比較的手ごろで、手に取りやすい1本。キリノカヴィンヤードのピノノワールのニュアンスや世界観を、リリース前に少しでも味わいたい!という人はぜひご賞味あれ。別のロゼ泡「Kirinoka Vineyards & Winery La Goccia Chardonnay Pinot Noir Petillant 2023」は、ノンフィルターでつくられた1本。ナチュラリーな味わい。優しい旨みを感じられる。ピノにたまたまシャルドネが混ざってしまったという偶然から、ブレンドして造ることになったそうだ。イベントなどで見かけたら、売り切れる前に試飲がおすすめ。
(※取り扱いをお待ちください)
●「風巡るワイン ロゼ 2022」(八ヶ岳はらむらワイナリー)
じゅわっとした旨みを感じる、食事と共に楽しみたいロゼワイン。サクラアワード2024の「シルバー賞」を受賞している。「最初はカベルネとメルロをセニエしてロゼをつくったのですが、物足りなさを感じてしまい。もう少し豊かさや厚みが欲しいと試行錯誤してつくった1本です。最終的にシャルドネとソーヴィニヨンブランをブレンドしたところ、シャルドネで味わいに豊かさやボリュームが出て、ソーヴィニヨンブランで夏にぴったりな香りがプラスされたと感じています」(八ヶ岳はらむらワイナリー)。鶏肉や豚肉を使った、家庭料理などとの相性も抜群。一方で、スイカなどを食べながら飲んでみるのも意外と合いそうだ。
「赤ワイン」編
●「心 Cocoro 2022」(ひかるの畑)
カベルネ・ソーヴィニョン主体に、カベルネフランをブレンドした1本。「野生酵母を使って、無濾過で仕上げ、古樽で発酵させた、優しい印象のワインです。出汁感があるので、家庭料理や和食にも合わせやすいと思います。今飲んでいただいてもいいのですが、無濾過でつくっていることにより、こまかい澱が入っていて、この澱が年数が経つほどにワインの味わいを広げてくれます。なので2年、3年と置いて、より美味しく飲んでいただくのもおすすめです」(ひかるの畑)。試飲した印象は、カベルネフラン特有のグリーントーンが爽やかに香る、軽やかなワイン。夏のBBQでお肉やピーマンなどの野菜を焼きながら、合わせて飲むと抜群に合いそうだ。余談ながら、同ワイナリーの旨みあふれる白ワイン「『御堂』MIDO special field blend 2023」は、リリースから3日ほどで完売した人気ぶり。品種非公開の15品種がブレンドされたスペシャルフィールドブレンド。オンラインショップでも完売で、なかなか出会えない1本だが、今回のようなイベントふくめ、もし出会える機会があれば、ぜひ飲んでみてほしい。
●「キュベ鼓動2022」(111VINEYARDO)
ベリービーズワイナリーの醸造家・ 川島和叔さんのプライベートブランド「111VINEYARDO」のワイン。実は、もともとこのプライベートブランドでワインづくりを行っていて、後発的につくったのがベリービーズワイナリーなのだそうだ。「これは、このまま残していきたいし、つくり続けていきたい1本。自分でつくったブドウで醸造しているので、そういう意味での思い入れも強いワインです」。メルロ主体に、16%ほどカベルネソーヴィニヨンをブレンド。ジューシーでフルーティーな果実味が美味しい、軽やかなワインで、果実味が消えないように樽で寝かせるのは5か月ほどに留めたそうだ。トマトベースのメニューのほか、出汁感もあるため、和食などにも合いそうな印象。
●「オノヤマビッキ ルージュ 2022」(トゥモローワイン)
京都で飲食店「焼肉 大仙」を営むワイナリー・トゥモローワインが手掛ける赤ワイン。焼肉との相性が抜群で、ほのかな“青さ(グリーントーン)”が特徴だ。「全房発酵でつくっています。全房発酵すると、どうしても果実味や品種の個性が全面に出て青臭い印象になりやすいのですが、熟した房のみを使うことで、香ばしさやスパイシーさ、わずかな苦味といった複雑な味わいが生まれます。若干の野性味もあり、お肉の脂を洗い流すようなイメージで、合わせて飲んでいただくと、よりお肉が進むかと思います」(トゥモローワイン)。軽やかな飲み口で、飲み疲れないのも魅力。
●「メルロー&カベルネ・ソーヴィニヨン ジュピター2021」(ドメーヌ・ヒロキ)
「私どものラインナップの中では、これは5000円台と少しリッチな1本。メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを同じくらいの量使用し、さまざまな樽を使うことで、マイルドなタンニンを生み出しています。個人的には同じ年に仕込んだものの中で一番いいものになっていると思います」(ドメーヌ・ヒロキ)。ボリュームがありながらも、とてもキレイな飲み口で、油の少ない肉などと合わせて楽しみたい。同ワイナリーの、セニエでつくられるロゼも夏にぴったりでおすすめ。辛口ながら、香りにも味わいにも、ほんのりとした甘やかさがあるので色々な食事に合わせやすそうだ。冷やして、明るい時間からいただくのもありな1本。
●「孤雁 2022(赤)」(yoshieヴィンヤード)
「ボルドーのつくり方を意識した1本です。品種と構成は、自社栽培のメルロが85%、カベルネ・ソーヴィニヨン13%、 プティ・ヴェルド2%となっています」((yoshieヴィンヤード)。貴腐ワインのような、レーズンのような、濃厚で甘やかな香りを漂わせながら、口に含むとほんのりと苦味のあるチョコレートのような味わいを感じさせる、そのようなギャップが楽しい1本。しっかりとした飲み口で単体で満足感あり。食事に合わせて白やロゼワインをたっぷり楽しんだあとに、単体もしくは高カカオのチョコレートなどと合わせて、〆にゆっくりいただきたい。
「オレンジワイン」編
●「プティ・マンサン 醸し 2023」(VinVie)
アプリコットやはちみつのような甘やかなアロマのあとに、紅茶のような熟成香が追いかけてくる、飲む前から思わず幸せな吐息がもれそうになる1本。「できるだけ品種本来の香り、個性を引き出すように醸造しています。プティ・マンサンは、甘口にも辛口にも仕上げられる品種ですが、このワインは、あたたかい長野南部の生まれらしいプティ・マンサンにしたいと思ってつくりました。そのまま飲んでいただくのはもちろん、タイ料理など、温暖な国や地域のお料理や酢豚などの甘辛系の料理にも合いますし、寿司ネタ次第ではありますが、意外と、甘酸っぱい酢飯をつかう寿司にも合うんですよ」(VinVie)。南の島を感じさせるプティ・マンサン、癒しの1本になること間違いなしだ。
「シードル」編
●「シードル 2023」(バルダー果樹園)
果実の“香り”を、その果物が揺るがない個性と捉え、それを引き出すことにフォーカスしたワインづくりとシードルづくりを行うバルダー果樹園。「果実は、種までしっかり熟させて完成させることで、その品種由来の香りを最大限に引き出すことができます。逆に、そこが熟していないと雑味が出たり、嫌なにおいが出てしまったりする。このシードルは、しっかり熟したりんごの皮と種まで使っているのが特徴で、香りを楽しんでもらうと、その複雑さを感じていただけるかと思います」(バルダー果樹園)。果実の香りを最大化した結果、結果的に糖度も高まったというリンゴを使うことで、アルコール度数が8度以上と、シードルとしては高めに仕上がっている。香りの華やかさとその複雑さから、最初の乾杯にはもちろん、ポークなどの食事と合わせたり、デザートとして飲んだりと、幅広いシーンで楽しめそうな1本。
以上、ほんの一部ではありますが、今回のイベントで楽しめたワインの中から17本を紹介しました。
気になるものや、飲んでほしい人、一緒に飲みたい人が浮かんでくる……そんな1本は見つかりましたでしょうか。
バタバタと忙しい日が続く週も、美味しい日本ワインを楽しむ夜や週末のことを考えると、全部乗り越えられる!というもの。2024年の後半戦も、美味しい日本ワインと共に、たくさんの楽しい思い出で彩られる素敵なひとときとなりますように。乾杯!
アルバム(イベントの様子)
イベントの様子を一部掲載します。以降のイベントも、ぜひチェックください!
会場:渋谷「TRUNK BY SHOTO GALLERY 」
参考 Artisan Winegrowers NAGANO 2024 〜長野のテロワールを知る試飲会〜 開催決定!
イベント撮影=NORIZO
構成・文=浅田よわ美