世界的名声を誇る黒ブドウ品種のひとつ、「カベルネ・ソーヴィニヨン」。

ワインに詳しい方はもちろん、初心者の方にも広く知られている有名品種です。

しかし、このカベルネ・ソーヴィニヨン。

あまりのメジャーぶりに、あまり深堀りされていない品種のような気がしています。

近年、日本ワインでも多く見られるようになった同品種。

この機会に、しっかりと学んでいきましょう。

カベルネ・ソーヴィニヨンの基礎知識

カベルネ・ソーヴィニヨンとは、フランス ボルドー原産(と、いわれている)の黒ブドウ品種。

DNA鑑定の結果、カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランの自然交配によって誕生したことがわかっており、こういった背景からもボルドーが原産ではないか…と考えられているようです。

カベルネ・ソーヴィニヨンの魅力のひとつが、その適応能力。

同品種は世界で最も栽培されている品種としても知られており、フランスをはじめとしたヨーロッパ諸国、アメリカ、チリ、ポルトガル、オーストラリア…など「ニューワールド」と呼ばれるワイン産地でも主要なブドウ品種として活躍しています。

晩熟であることから比較的温暖な気候を好んでおり、さらに水はけのよい土壌が理想的。

そのため、近年ではフランスではない温暖な産地のカベルネ・ソーヴィニヨンが注目されました。

しかし、近頃ワインのプロやワイン愛好家から人気が高いのは…なんと冷涼産地のカベルネ・ソーヴィニヨン。

その理由は後述します。

カベルネ・ソーヴィニヨンの香りや味わい

カベルネ・ソーヴィニヨンの基礎知識として知っておきたいのが、「香りや味わいの特徴」です。

一般的なカベルネ・ソーヴィニヨンの香りの特徴がこれらです。

  • 濃い外観
  • カシスやブラックチェリーの香り
  • ハーブやスパイスの香り
  • チョコレートやナツメグ、リコリスの香り
  • 伸びやかな酸
  • 強靭なタンニン

比較的冷涼な地域で育ったカベルネ・ソーヴィニヨンは青いニュアンスの香りがあり、酸やタンニンがしっかりとしています。

温暖な地域で育ったカベルネ・ソーヴィニヨンは、ベリーなどの果実味が強く、コンポートやジャム、ミントを感じるほか、酸は穏やかでタンニンも少ない印象です。

そのほか、知っておくべき特徴について少し詳しく解説しましょう。

タンニンについて

カベルネ・ソーヴィニヨン最大の特徴といえば、タンニン量。

収斂性に関連するタンニンを含んでいる種子や果皮の比率が多く、どうしても若いワインだとギシギシしてしまいます。

そのため、まろやかさを出すために他の品種がブレンドされたり、長期的に樽熟成※がおこなわれて出荷されるのが一般的です。

※タンニンと酸素が樽内で結合することで、まろやかになる。ちなみに、赤ワインの赤色色素に関連するアントシアニンもポリフェノールの一種。樽熟成中にアントシアニンも酸素などと結合するため量が減り、色合いが淡くなり褐色化していきます。

とはいえ、以前ほどギシギシ系のカベルネ・ソーヴィニヨンは近頃出会わなくなりました。

その理由はいくつかあるのですが、考えられるのがこちらです。

  • 温暖な産地で育ったタンニン量が少ないカベルネ・ソーヴィニヨンが増えた。
  • 長期熟成目的で造られなくなってきた。(10年、20年先を見越したワイン造りは減少しています)
  • 近年はエレガントなワインが求められており、強く抽出されなくなった。

“赤ワインが苦手…。だって渋いじゃん”という方も以前は多かったイメージですが、近頃のカベルネ・ソーヴィニヨンであれば、“し…渋くないじゃん!”という感じで気に入ってもらえるかもしれません。

ピーマン香について

ここまでは、カベルネ・ソーヴィニヨンの基礎的な部分についてお伝えしてきました。

ここからは少し深い部分にタッチしていきます。

カベルネ・ソーヴィニヨンをテイスティングするワインに詳しい方のコメントを耳を澄まして聞いてみましょう。

「カベルネっぽい、青さがいいですね。この“ピーマン香”が強過ぎないところが素晴らしいです。」

カベルネ・ソーヴィニヨンだけではありませんが、カベルネ系品種はピーマン臭など緑の野菜を思わせる香りが特徴といわれています。

このピーマンの正体は、「メトキシピラジン」と呼ばれる成分。

詳しく解説していきましょう。

メトキシピラジンについて

ピーマンや緑の野菜を思わせる香りの原因が、「メトキシピラジン」と呼ばれている成分です。

メトキシとかMPなどと呼ばれることもありますが、実際には「メトキシピラジン類(含窒素複素環化合物)」のことで、とくにカベルネ・ソーヴィニヨンなどの香りに影響を与えるのは…

2ーメトキシー3ーイソブチルピラジン

とされています。

ピーマンはもちろんキュウリにも含まれていることから、「カベルネは、ピーマンっぽい」といわれているのでしょう。

ワインの香りに影響を与える香り成分は果皮に含まれることが多いですが、メトキシピラジンはブドウの実の中で生成される珍しい成分。

日光が当たることで減少することがわかっているため、この成分を残さないような栽培方法が採用されることが多いようです。

冷涼なカベルネ・ソーヴィニヨンが人気?

力強いタンニンとピーマンなどの青い香り。

今までこういった特徴の強いカベルネ・ソーヴィニヨンは避けられていました。

もちろん現在もそういった傾向はありますが、じつはこの特徴を排除するのではなく、バランスよく兼ね備えているカベルネ・ソーヴィニヨンに注目が集まっています。

一方で一般的に人気のカベルネ・ソーヴィニヨンといえば、カジュアルなチリワインでしょう。

温暖な産地のカベルネ・ソーヴィニヨンの場合、日光にたっぷり当たる上にしっかりと熟すため糖度が上昇し、アルコール度数が高く、果実味の強い、ピーマン臭の少ないカベルネ・ソーヴィニヨンが収穫可能です。(酸度も下がる)

また、タンニンが強過ぎるものは消費者に好まれないため、さまざまな調整を経てほど良い渋みに仕上げられます。

結果、「果実味の強い、ボリューミーで飲みやすい赤ワイン」となり、多くの人たちに受け入れられたわけです。(価格も激安)

しかし、若干大味なこういったカベルネ・ソーヴィニヨンではなく、もう少し品種特性が欲しい…というワイン愛好家が増えてきたことも事実。

そのため、近年注目されているのが冷涼産地のカベルネ・ソーヴィニヨンなのです。

冷涼な産地となれば熟すのが遅くなるものの、酸がしっかりと残る上にメトキシピラジンもほどよく残り絶妙なバランスになります。(減農薬、有機などでも変わってくる)

タンニンはきつくなるものの、抽出に気をつけることでシルキーで繊細なタンニンに。

さらにオークの新樽でがっつりバニラ香をつけるのではなく、古樽などでていねいに樽熟成…。

こういったアプローチでカベルネ・ソーヴィニヨンを醸すことで(生産者によっても違う)、大味でもなく、青臭くもなく、タンニンがきつくて飲みにくいわけでもない、エレガントで個性的なカベルネ・ソーヴィニヨンが仕上がるわけです。

実際、日本でも長野や山形などから素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨンが出始めていますし、チリや新世界の生産者も冷涼な産地を求めてエレガントなカベルネ・ソーヴィニヨン栽培に力を入れ始めています。

価格は少々高くなるものの、ワイン好きであれば品質の高いカベルネ・ソーヴィニヨンをチェックしていほしいところです。

あらためて王道品種を楽しもう!

初めて飲んだ赤ワインが、カベルネ・ソーヴィニヨンだった。

そんな方も多いかもしれません。

世界的に有名な黒ブドウ品種であり、王道品種のひとつです。

だからこそ、その特徴を知り、さまざまな産地や生産者のカベルネ・ソーヴィニヨンを飲んでみることをおすすめします。

同じ品種でこれだけ味わいが違う…。

ぜひ、カベルネ・ソーヴィニヨンの魅力をご自身の舌で再発見してみましょう。