近年、日本でも人気を博しているワインのひとつが、「ビオディナミ農法」で栽培されたブドウを使用した、「ビオディナミワイン」です。

現在、日本ワインにビオディナミワインはほぼ存在していませんが、今後ビオディナミ農法にチャレンジする生産者が出てくる可能性はゼロではないでしょう。

ここでは、ビオディナミワインについての基礎知識を解説していきます。

ビオディナミとは?

ビオディナミ(農法)は、1924年にドイツの思想家ルドルフ・シュナイダーが提唱した、「自然な環境で土壌と植物を保全し、価値を与える取組み」といった考え方から設立された農法。

農薬と化学肥料を使用せず、宇宙や動物との調和などを重んじた有機栽培の一種です。

また独自の調合剤などを使用するのが特徴で、有機栽培の一種というよりは、“哲学”に近いイメージの農法といえるでしょう。

ビオディナミの原則は大きくわけて4つあります。

  • プレバラシオン
  • 活性化
  • 自然のリズムの尊重
  • ブドウ畑に生息する生命体の維持

やや非科学的な印象の農法ではあるものの、自然にブドウ樹の抵抗力を高めたり、ブドウ樹がそれぞれの環境に応じて天候条件や病害に対応できるようになるなどメリットが大きいとのこと。

フランスのロワール地方やコート・デュ・ローヌをはじめ、世界中のワイン産地でビオディナミ農法を取り入れている生産者がいるのがその証拠といえるでしょう。

ビオディナミワインを造るには?

ビオディナミワインが世界的に注目されているのは、サスティナブルなイメージといった部分だけでなく、“美味しいワインが生まれる”といったところにもあります。

じつは、あのロマネコンティもビオディナミ農法を取り入れてることで知られているなど、世界の有名ワインにはビオディナミワインが少なくありません。

そんなビオディナミワインを造りたいと思う生産者は多いようですが、それにはビオディナミ農法を取り入れる必要があります。

ビオディナミ農法の特徴がこれらです。

  • 肥料は外部のものを使用できない
  • 種まきや収穫は太陰暦や星の動きに基づいて実施する
  • 牛の角に肥料を交ぜたものを埋めて土壌を改善させる…など

種まきなどのタイミングについては「ブドウの種蒔きカレンダー」が存在しているため、それに則っておこなうとよいといわれています。

ただし、ビオディナミ農法の最大の特徴は最後の肥料の項目。

ビオディナミ農法で使用される調合剤の一部をまとめました。

  • 500番 牛糞を雌ウシの角に詰めた後に発酵させたもの
  • 502番 鋸草(ノコギリソウ)の花を雄ジカの膀胱に入れて発酵させたもの
  • 505番 カシの樹皮を家畜の頭蓋骨に詰めて発酵させたもの
  • 507番 カノコソウの花の絞り汁

これらは一部ですが、調合剤自体は自作せずとも販売されています。

ビオディナミ農法を自分のブドウ園に取り入れる場合、まずは有機栽培からスタートさせ、一部の区域からビオディナミへのアプローチを広げていくのが理想的だそう。

かなりの年数がかかりそうですが、ほかにない農法だけに魅力的であることは間違いありません。

ビオディナミ農法は魅力的なのか?

ビオディナミ農法について簡単な基礎知識をお伝えしてきました。

“一体これは何なんだ…”と思われた方も多いでしょう。

しかし、ニュージーランドで古くにおこなわれたビオディナミ農法による研究によると、一般的なブドウ園と比較して有機物が多かったり微生物の活動が活発だったり、土壌の質がはるかに良かったと示唆されたといいます。

また、フランスをはじめとした有名生産者のエピソードでビオディナミ農法へ転換させたことで死にかけた畑を蘇らせた、というものも少なくありません。

実際に土壌の微生物の働きは良質なブドウを栽培するためには必須条件であるといわれているなど、「テロワール」が重要視されている今のワイン造りにおいて注目されるべき農法のひとつでもあるのです。

ビオディナミワインを選ぼう

ビオディナミ農法で造られたワインが、ビオディナミワインです。

ビオディナミワインを選ぶ際には、1987年にフランス政府が認証した「Demeter」と呼ばれる認定団体の認定を得たものか、「Biodyvin」というビオディナミの生産者組合などのものを選ぶとよいでしょう。

とくに「Demeter」は、規模が大きくビオディナミを正しく実践した上で7年後に認定されるため、品質の安定したビオディナミワインを手に入れることができます。

一方、「Biodyvin」は栽培面のみに独自の基準を定めていますが、ある意味掘り出しものがあるかもしれないので個人的にはこちらを選ぶのもおすすめです。

さて、ビオディナミワインの特徴は有機ブドウが原料となっていることはもちろん、主に天然酵母や人的介入が少ないところ。

テロワールの味わいやブドウ本来の味わいを大切にしているものの、頼りない繊細過ぎる味わいではなく、ややボリューム感があるところも特徴です。

とはいえただボリュームがあるというわけではなく、豊潤、ふくよか、奥行きのある…といった表現が正しいかもしれません。

ナチュラルな造りのワインが好きな方も多いと思うので、ぜひビオディナミワインにも挑戦してみてはいかがでしょうか。

日本ワインでも出てくるか?

明確なビオディナミワインといったものは、日本ワインではほとんど見かけません。

ただ、サントリーがビオディナミワインに挑戦したという情報はあります。

今後、よりテロワールが重視されるようになっていくであろう日本ワイン。

日本発ビオディナミワインが誕生する日もそう、そう遠くはないかもしれませんね。

参考

Biodynamic Wine, Explained
ジェイミー・グッド – ワインの科学