日本ワインの有名産地のひとつ、山形県。
果樹の栽培が盛んな同県ですが、古くからブドウ栽培・ワイン醸造がおこなわれていた歴史があります。
近年、山形県内のワイナリーも増加傾向にあるなど、今後今以上に注目される産地に成長していくことは間違いありません。
ここでは日本ワインファンが知っておきくべき、ワイン産地としての「山形県」について解説していきます。
ワイン産地としての山形県の概況
山形県は、東北地方の日本海側に位置するワイン産地。
さくらんぼをはじめとした果樹栽培が盛んなことから、「フルーツ王国」とも称されています。(さくらんぼワインも有名です)
ブドウ収穫量は山梨県と長野県に次ぐ日本第3位。
そのため同県のワイン生産量も多く、国税庁 国内製造ワインの概況(平成30年度調査分)日本ワインの種類別生産量及び上位6道県の構成比によると全国第4位とされています。
詳細
日本ワイン生産量 16,612kl
- 1位 山梨県 5,189kl 31.2%
- 2位 長野県 3,905kl 23.8%
- 3位 北海道 2,603kl 15.7%
- 4位 山形県 1,159kl 7.0%
山梨県や長野県、北海道といえば日本を代表する銘醸地。
山形県はそれに次ぐ第4位の生産量であることからも、日本ワインにとって重要な産地であることは間違いありません。
ブドウの流出が多い?
山形県は、「ブドウ余剰」といった特徴があります。
とあるデータによると原料用ブドウ生産2,500tに対して県外への移出はなんと「912t」。
県内で生産されるブドウの約36%が他県に流出していることになるのです。
また、日本ワイン生産量に対するブドウの出荷量(生食用ふくむ)は11倍。(山梨県は2倍ほどだそう)
県内で収穫された原料用ブドウが県内でワイン製造にまわされておらず、このブドウ余剰の状況を転換することでワイン産業が成長するのではないか、といった見方もあるようです。
山形県におけるワインの歴史
山形県のブドウ栽培は、江戸の中期頃から始まったといわれています。(甲州の栽培)
その後、1870年代に山形の初代県令となった三島通庸がワイン造りを奨励。
日本におけるワインの本格生産のはじまりと同時期とされていることから、同県がかなり早い段階でワイン醸造に着手していたことがわかります。
1892年には、南陽市赤湯に東北初のワイナリー(酒井ワイナリー)が誕生し、1920年には上山市の「タケダワイナリー」がワイン造りを開始。
その後、ブドウの栽培地周辺に次々とワイン醸造所が誕生します。
一時、甘味果実酒ブームの影響から県内に大手が参入するもののブームが去った1960年頃に撤退。
残された中小ワイナリーはマスカット・ベーリーAやデラウェア、コンコードだけでなくヨーロッパ系品種などの栽培始め、本格的なワイン製造へと舵を切ります。
厳しいといわれていたヨーロッパ系品種の栽培にも成功した山形県。
ブドウ栽培面積の拡大はもちろん、権威あるコンクールの受賞ワインでも山形県産ワインは常連となりました。
山梨県や長野県、北海道に比べてワイナリー自体の数は多くはないものの、2016年に上山市が「ワイン特区」に認定されるなど、今後新規参入社の増加も期待されています。
山形県のワイン産地
山形県の主なワイン産地は3つ。
- 上山市
- 高畠町
- 朝日町
それぞれの特徴を簡単に解説していきます。
上山市
山形県内でも古くからブドウ栽培が盛んな地域のひとつ、上山市。
ラ・フランスや黄桃、柿が有名ですが、品質の高いブドウが収穫できることで知られている名産地です。
同市は四方を山に囲まれた盆地で昼夜の寒暖差が大きく、山から吹き抜ける風、水はけのよい土壌組成など、原料料ブドウの栽培環境としては理想的といわれています。
いち早くヨーロッパ系の品種の導入が早かった場所としても知られており、とくにカベルネ・ソーヴィニヨンの品質の高さには要注目。
前述した「タケダワイナリー」をはじめ、アサヒビールのブランド「サントネージュ」など、優れたワインが多くこの場所で生まれています。
高畠町
山形県南部の置賜エリアに属する、高畠町。
「山や丘に囲まれた稔り豊かな住みよいところ」を意味する「まほろば」という言葉にちなみ、「まほろばの里」とも呼ばれています。
置賜盆地に位置していることから昼夜の寒暖差も大きく、土壌組成からブドウ及び多くの農作物にとって理想的な環境とされているようです。
高畠町の特徴としては、デラウェアとシャルドネの生産量が全国1位であるところ。
良質な品質であることからこれらを原料とした日本ワインの評価も高いことで知られています。
同町に位置する「高畠ワイナリー」は、日本を代表するワイナリーのひとつ。
国内外のコンクールでも大変高い評価を獲得していることから、高畠町のポテンシャルの高さをワインで表現している貴重なワイナリーです。
朝日町
山形県の中央部、最上川流域の山間の街「朝日町」。
りんご有名な町ですが、ブドウ栽培も盛ん。
「りんごとワインの里」として、同町はワインの品質の高さも全国にアピールしています。
同県のワイナリー「朝日町ワイン」では、マスカット・ベーリーAを11月中旬に“遅摘み”するという異例の栽培方法を導入。
ほかにない、朝日町だからこそ楽しめるマスカット・ベーリーAを飲むことができます。
山形県で栽培されているブドウ
山形県のユニークなところが、日本の固有品種からヨーロッパ系品種まで、さまざまな品種を栽培しているところです。
白ワイン用であれば、「デラウェア」や「ナイアガラ」がとくに多いものの、リースリングやソーヴィニヨン・ブラン、そして前述したように「シャルドネ」は全国1位の収穫量をほこります。(ちなみに甲州はほとんど栽培されていない模様)
また、赤ワイン用は「マスカット・ベーリーA」が全体の3割ほどを占めていますが、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネフランなどの栽培も盛んです。
さらに尾花沢市産ヤマブドウなど、ヤマブドウを原料としたワイン造りもおこなわれているなど、多種多様なブドウが山形県産ワインとして生まれています。
山形県はナイアガラやデラウェア、マスカット・ベーリーAのイメージが強いですが、ヨーロッパ系品種を使用した良質な日本ワインも近年数多く見受けられるようになりました。
有名どころはもちろんですが、一度先入観を外してみて、いろいろな品種の山形産ワインを試してみるのもよいのではないでしょうか。
山形県の取り組み
山形県は良質なブドウが栽培できる環境を有する、日本ワインにとって魅力的な産地です。
その一方、技術の向上や新規参入者の受け入れ体制の強化など、ワインにおける取り組みにも力を入れなければ「産地化」することはできません。
山形県では、県内のワイナリーで組織する「山形県ワイン酒造組合」による研究会、上山市が主催する東北最大のワインイベント「やまがたワインバルinかみのやま温泉」の実施、ワイナリーツアーの実施など、山形県産ワインの品質向上や普及を目指した多種多様な取り組みがおこなわれています。
また、各ワイナリーの若手醸造技術者が結集した「山形ヴィニョロンの会」が2008年に発足。
原料用ブドウの品質向上、ワイン醸造の技術向上など、意欲的に勉強会が開催されているようです。
そして、前述した上山市における「ワイン特区」の認定。
行政がワイナリー創設のための支援に動き出したことは、山形県がワイン産地として形成されるための重要な取り組みといえるでしょう。
現在、この制度を利用しワイナリー創設のために準備をしている新規参入者もいるそう。
今後の山形県に期待です。
山形県のワインを楽しもう!
現在、ワインにおける「地理的表示(GI)」は、山梨県と北海道の二つ。
山形県は、すでに平成28年に清酒における「GI」に指定されており、仮にワインも指定されるとなれば全国でも類を見ない「お酒の産地」として認定されることになります。
今後、山形県がワイン産地として成長していくのは間違いないでしょう。
山梨県や長野県、北海道ではなく、おもしろい産地を探したい…という方は、ぜひ山形県のワインに手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
参考
【農業は先進国型産業になった!】 日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第6回 山形ブドウ100%の日本ワイン「ワイン特区」で地域振興をめざす(山形県上山市)