日本在来のブドウ品種、「紫ブドウ」。※(以下、紫)
古い文献に名が残されている歴史あるブドウ品種で、そのルーツは豊臣秀吉の時代まで遡ることができるとされています。
この「紫」ですが、近年の研究で甲州と同じまたは非常に近い品種であること判明し、一部で大きな話題となりました。
「紫」は、未来の日本ワインをより理解するためにも避けて通れない品種のひとつです。
ここでは、ブドウ「紫」について解説していきたいと思います。
「紫」について
「紫」は、豊臣秀吉の朝鮮出兵のころに大陸から伝わったとされているブドウ品種。
400年近く前から大阪で栽培が始まったとされている、貴重なブドウ品種として知られています。
一説によると「紫」は天正時代から明治初期まで大阪で栽培されていたそうですが、小粒であり酸味が強いことから栽培農家が激減。
結果、「紫」は絶滅したと考えられてきました。
しかし、大阪府羽曳野市の「大阪府立環境農林水産総合研究所」が種の保存のために1株残していたり、一部「紫」の樹を残していた農家からワイナリーが枝分けした苗を譲り受けるなどした結果、ワインが製造できるだけの生産量を確保。
現在では〈大和 ハギースパーク 大阪紫葡萄〉(大和葡萄酒)など、「紫」を利用したワインも出回るほどになりました。
「紫」と「甲州」は近い?
一時、絶滅したと考えられていた幻のブドウ品種「紫」。
その存在を守り抜くといった思いから栽培が進められていますが、じつは“すごいワインが生み出せるのではないか?”という期待もあるようです。
その理由のひとつが、“甲州と遺伝子が一致している”という研究結果が発表されたことにあります。
そもそも甲州は竜眼(中国から導入された白ブドウ品種、長野県で栽培が盛ん)の実生という説がありましたが、DNAのSSR解析により別品種と判明。
一方、「大阪府立環境農林水産総合研究所」に保存されていた「紫」と甲州のDNAのSSR解析をおこなったところ、26のSSR遺伝子座すべてが一致したことが判明したのです。
また、この研究では果皮のアントシアニン濃度なども測定されており、「紫」のアントシアン濃度は甲州の範囲内にあることがわかったとのこと。
この結果から、残されていた「紫」は“甲州と同じ”か“甲州に非常に近い品種”ということが示唆されたのです。
甲州は、今や日本を代表する白ブドウ品種。
「紫」がその素質を持っているのであれば、栽培方法や醸造方法によって素晴らしい日本ワインが生み出される可能性があるのです。
新しい「紫」が誕生間近!?
前述した〈ハギースパーク 大阪紫葡萄〉は、柑橘系のアロマとほど良い酸味が特徴のスパークリングワインです。
さらにシュール・リー製法が採用されているということで、甲州と同じような、また新しい製法などにより、おもしろいワインになる可能性があります。
しかし、「紫」は甲州より果実が大きくならず熟すのもやや早いそう。
そもそも「紫」自体の苗木が少ないことや甲州のように長い年月をかけて品質が改善されて来なかった(ワイン用ブドウとして)だけに、“珍しい品種”といった扱いで終わってしまう恐れもあります。
しかし、2018年頃から、「大阪府立環境農林水産総合研究所」では「紫」の自家交配苗から有望系統を選抜し育成を開始。
「紫Jr.(仮)」という新しいブドウ品種の品種登録を目指し、現在も育成が継続されています。
ワイン用としてより優れた「紫」が誕生することで、今までにない新しい日本ワインが生まれることは間違いありません。
仮とはいえ「紫Jr.」とは、なかなか直球かつユニークな品種名。
甲州に比肩する、いや凌駕するようなワインが誕生することを心から願っています。
新たな日本ワインの代名詞になるか?
大阪府立環境農林水産総合研究所によると「紫Jr.」のほか、「大阪 R N-1」や「ポンタ」といった新しいブドウ品種の育成に取り組んでいるそう。※「ポンタ」は品種登録済み
このように、すでに広まっている日本固有品種、欧州品種ではなく、日本から新しいブドウ品種を育成する動きが近年活発化しています。
「紫」は、その中でも日本在来の貴重なブドウ品種。
“日本ワインといえば「紫」”と、いわれる日もそう遠くはないのかもしれませんね。
参考