令和3年6月30日、国税庁が「地理的表示(GI)」の制度に山形県のワインを指定しました。
同時に大阪府と長野県も指定されるなど、今後の日本ワイン消費拡大の起爆剤となりそうです。
ここでは、ワインにおける「GI山形」について詳しく解説していきます。
GIについて
GIとは、「Geographical Indication」の略で地理的表示を意味します。
日本におけるお酒のGIは、地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進する制度で、“産地ならではの種類の特性が明確である”ことなど一定の基準を満たして生産されたものだけが「GI」として認められるかたちです。(国税庁長官が指定)
つまり、ワインにおける「GI 山形」の生産基準を満たしたワインは「山形」という表示を独占的に使用できることなり、山形産ワインを国認定の“山形ブランド”として流通させることが可能になります。
東北初となった山形のGI指定により、今以上に山形が“ワイン産地”として認識されることになるでしょう。
地理的表示「山形」の生産基準
「GI山形」には、地理的表示「山形」の生産基準があります。
生産者や流通関係者が知るべき内容ではありますが、「GI山形」に認定された山形ワインを理解する上で消費者もある程度理解しておくべき必要があるでしょう。
ここでは、地理的表示「山形」の生産基準の中でも注目すべき部分をピックアップしてまとめました。
産地としての事項
「GI山形」の生産基準、「(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて」の項目の「自然的要因」と「人的要因」のポイントについてまとめました。
自然的要因
山形県のおもなブドウ栽培地は、最上川流域。
この地域は傾斜地で水はけが良好な土壌であり、ブドウに適度な水分ストレスを与えることが可能です。
そのため、果粒の肥大が抑制されて味が濃縮されるなど、ブドウの栽培に適している産地といえます。
年間日照時間は1,600時間程度と少ない印象ですが、ブドウの生育期である4月から10月は晴天が多く、日照時間が1,100時間ほどと日当たりも良好。
平均気温は冷涼かつ昼夜の気温差が大きく、ブドウの有機酸も豊富に蓄積されます。
冬場には積雪量が多いため雪への対策が重要になるものの、ブドウの栽培時期の降水量は800㎜以下と少なめなので総じて健全なブドウが収穫可能です。
人的要因
山形県の産業としてのブドウ栽培の歴史は古く、19世紀後半に殖産興業の一環として果樹の試験場が設置され、ブラックハンブルク等の栽培が行われたことから始まるとされています。
この後、ブドウ園が広がりを見せるものの1910年代に導入したラブラスカ種の苗木の影響によりフィロキセラ害虫が蔓延。
山形県のブドウ園は壊滅的な被害を受けました。
その後、フィロキセラに免疫のある台木を導入。
デラウェアの改植を進めた結果、1950年には山梨と大阪に次ぐ全国3位の規模の栽培面積となりました。
ワイン醸造は19世紀末頃から小規模な生産がなされていたものの、主に県外の大手酒類製造者への原料ぶどう等の供給が中心でした。
戦後の食糧不足及び甘味果実酒が需要減少したためブドウの生産量が減少したものの、1980年頃にブドウ栽培者が再び高品質なヴィニフェラ種を導入。
垣根栽培法やビニールテントの設置、石垣による地温上昇など試行錯誤を続けた結果、カベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネがこの産地に定着したことから、これらを利用した本格的なワイン醸造が拡大していきました。
1984年には「山形県ワイン酒造組合」を設立、2008年には若手醸造技術者を中心とした山形県若手葡萄酒産地研究会(ヴィニョロンの会)も発足。
「GI山形」の指定により、今以上に山形ワインの認知度、さらに品質の向上が期待されています。
ワインの特性に関する事項
「GI山形」の酒類の特性には、「官能的要素」と「化学的要素」があります。
「官能的要素」とは、山形ワインの香りや味わい、「化学的要素」はアルコール分、総亜硫酸値、揮発酸値などの規定です。
それぞれ解説していきます。
官能的要素
山形ワインの官能的要素は、「白・赤・ロゼ」の3つがそれぞれ評価されています。
山形ワインは総じて、「ブドウ本来の味や香りが引き立った、爽やかな酸による余韻が特徴」とされていますが、それぞれのワインの官能的要素をみていきましょう。
白ワイン
色合いは、緑黄色から淡黄色・淡褐色・褐色。
豊かで華やかな花や柑橘系の香りがあり、その中にブドウ果実由来のアロマがはっきりと感じられます。
酸味が豊かでとくに辛口のものはそれが鮮明に感じられ、ほか風味とも調和。
甘口の場合は甘みと酸味のバランスがよく、辛口と共に後味の酸味は爽やかと評価されています。
赤ワイン
色合いは、鮮紅色から赤紫色・濃紅色。
ブドウ果実由来の香りを有しており、熟成されたものはそれと調和する熟成香を持ちます。
味わいは爽やかな酸味と穏やかな渋味が特徴的とされています。
ロゼワイン
淡いピンク色からオレンジ系の色合いだけでなく、赤褐色を有しているものも。
豊かなぶどう果実由来のアロマを有しており、甘口はブドウ本来の甘味と酸味のバランスがよく、辛口は爽やか酸味が鮮明に感じられます。
総じてフルーティーで軽やかです。
化学的要素
「GI山形」に認証されるためには、化学的要素を満たす必要があります。
それら要件を簡単にまとめました。
- アルコール分は7.0%以上20.0%未満であること
- 総亜硫酸値は350mg/L以下であること
- 揮発酸値は1.5g/L以下であること
- 総酸値は酒石酸換算値として4.0g/L以上であること
ちなみに、アルコール分の要件の中で補糖したものは上限値を15.0%未満、甘口ワインは下限値を4.5%以上とされています。
原料&製法に関する事項
「GI山形」の認証を受けるために使用できる原料ブドウ品種は、県産の51品種。
これらを原料に県内で醸造されていることが条件になります。
ここからは原料&製法に関する事項をより詳しく解説していきます。
原料
「GI山形」には、ヴィニフィラ種とラブラスカ種、その他の品種といった3つのグループのブドウ品種の使用が認められています。
ヴィニフィラ種
- リースリング、シャルドネ、メルロー、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンなど…
ラブラスカ種
- デラウェア、ナイアガラ、キャンベル・アーリー、コンコード、スチューベン
その他の品種
- マスカット・ベーリーA、ブラッククィーン、ベーリー・アリカントA、ビジュ・ノワール、甲州など…
さらに、果汁糖度が「ヴィニフェラ種16.0%以上」、「ラブラスカ種12.0%以上」、「その他の品種は14.0%以上」であることが条件で、天候不良時のみ必要果汁糖度を1.0%を下げることができると規定されています。
数多くのヴィニフィラ種を栽培している山形だけであり、前述した品種以外にコルテーゼやシャスラ、マルベック、アルバリーニョなども認められているところが特徴的です。
製法
製法は、酒税法による規定と補酸、除酸剤、貯蔵の場所、ボトル詰めに関連する事項が規定されています。
とくに注目すべき部分をピックアップします。
- ブドウの収穫からワインの瓶詰を行うまで、補酸の総量が酒石酸換算値として6.0g/L以下であること
- 総酸値を酒石酸換算値4.0g/Lの低減までなら除酸剤を加えることができる
- 製造工程上、貯蔵する場合は山形県内でおこなう
消費者に安心して山形ワインを届けるための厳しい規定ですが、「GI山形」はこれらをクリアしたワインということなので、安心して手に取ることができるでしょう。
山形のワインを楽しもう
「GI山形」として先に清酒が指定されていますが、ついにワインも指定されたということで山形県は「日本を代表する酒の名産地」と称しても過言ではなくなりました。
山形ワインは世界中を驚かせるワインを生み出せる…と多くの日本ワインファンが期待しています
ぜひ、その実力を知るためにも「GI山形」に認証されたワインを試してみてはいかがでしょうか。
参考