夏場に旬を迎える野菜のひとつが、ピーマンです。

独特の苦みと風味、ほのかなか甘みが特徴のピーマンは、幅広い料理に使用できる万能野菜でもあります。

ピーマンを使った料理というとご飯のお供やビールのおつまみといったイメージが強いですが、ピーマン自体はワインと合うのでしょうか。

もしこのペアリングが有効であれば、晩酌は、“ワインとピーマン”といった通な飲み方ができるかもしれません。

本記事では、ピーマンとワインの相性について考えていきます。

ピーマンについて

ピーマンについて下記の内容にまとめました。

  • ピーマンとは?
  • ピーマン独特の風味の秘密
  • おいしいピーマンの見分け方

それぞれ解説します。

ピーマンとは?

ピーマンとは、ナス科トウガラシ属の野菜です。

私たちがよく目にするピーマンは発色の良い緑色をしていますが、赤色や黄色など多種多様な色合いの種類も存在します。

ピーマンはトウガラシを品種改良した野菜で、カラーピーマン大きさによってはパプリカ、またはジャンボピーマンと呼ばれるなど、色や大きさによって呼称が変化するところが特徴です。

日本人にとってなじみ深い野菜として生活に根付くピーマンですが、じつは日本に入ってきたのは明治時代頃だと言われています。

トウガラシ自体は16世紀頃にはすでに日本に入ってきたと言われており(諸説あり)、江戸時代にはその甘み種も栽培されていたそうですが、多くの方がイメージする緑色でぷっくり丸みのあるピーマンが国内で食されるようになったのは明治時代とそう古い話ではありません。

実際にピーマンが普及したのは昭和30年代頃からということで、日本人にとっては比較的新しい野菜です。

ピーマンは独特の苦みと香りがある野菜で、加熱することで甘み増幅していきます。

ピーマンに多く含まれる栄養素はβ-カロテン、ビタミンCで、とくにピーマンに含まれるビタミンCは熱に強いため効率よく栄養摂取することが可能です。

β-カロテンも油と一緒に摂ることで吸収率が高まるため、ピーマンを使った炒め物はおいしいだけでなく栄養面からも理にかなっています。

近年、苦みを抑えたピーマンも開発されているほか、仕込み方によっては生でもおいしく食べられるなど、ピーマンは万能野菜と言っても過言ではない野菜です。

ピーマンの苦みや青臭さの秘密

ピーマンと聞くと、独特の苦みと青臭さをイメージする方も多いはずです。

ピーマンの強い苦みや青臭さの要因はどこにあるのでしょうか。

2012年、タキイ種苗とお茶の水女子大学の共同研究によってピーマンの苦味成分が解明されたことで話題になりました。

研究では、通常のピーマンと苦みの少ない、『こどもピーマン』の果実成分を比較。

その結果、従来のピーマンには「クエルシトリン」と呼ばれるポリフェノールの一種が多く含まれていたことが判明したとのことです。

さらに興味深いのが「クエルシトリン」はポリフェノールであり、苦みではなく渋みを感じるといったことも示唆されました。

ただ、後のキユーピー株式会社と研究によって25種類のヒト苦味受容体の中から、「クエルシトリン」を受容する受容体を発見しています。

次にピーマン特有の青臭さの原因ですが、これは「2-メトキシ-3-イソプロピルピラジン」(※以下、メトキシピラジン)と呼ばれるピラジンの一種で、少量でも強い青臭さを感じさせる香気成分として有名です。

メトキシピラジンはピーマンの青臭さに関与するだけでなく、「クエルシトリン」に香気成分があることで苦みと感じられることも分かっています。

ちなみにピーマンはトウガラシの仲間ですが辛味成分のカプサイシンは含まれていないため、辛いといった感覚はありません。

熱を加えるとこで甘みが増すため苦みや青臭さは気にならなくなるほか、熟度が高まることで甘みが増してくるため青臭さは減少するため赤ピーマンなどは苦さを感じない傾向です。

苦みや青臭さが嫌だという方はそれが少ない品種かカラーピーマン、熱を入れて食すと良いでしょう。

おいしいピーマンの見分け方

余談ですが、おいしいピーマンの見分け方も紹介します。

まず、色が鮮やかで均一、ツヤとハリ(弾力)のあるものを選びましょう。

稀にしなしなのピーマンが売られていますが、鮮度が下がっているため避けるのが無難です。

そして、肩が盛り上がっているもの、ヘタが緑色、ずっしりと重みがあるものが鮮度・品質が高いピーマンと言われています。

スーパーや八百屋などでピーマンを購入する際の参考にしてみてください。

ピーマンに合うワインとは?

ピーマンに合うワインを考えた時、まずピーマン自体と相性が良さそうなものを選ぶ必要があります。

ピーマンは炒め物に多く使用されており、それに合うワインとなるとピーマンとの相性というよりは料理全体の味付けとの相性といったかたちで選ばれるのが一般的です。

ここでは、あえてピーマン単独とワインの相性について考えていきましょう。

さて、ワインを科学的に解剖しているマニアの方であればご存知の通り、ワインの香りを表現する際に、“ピーマン香”と呼ばれるものが存在します。

上記でお伝えしたようにこのピーマン香の正体は、「2-メトキシ-3-イソプロピルピラジン」、まさにピーマンの青臭さと共通する香気成分です。

多くのブドウ品種に含まれているものの、とくにその含有量が多いことで知られているのが、カベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロー、カベルネ・フランで、“青さ”などと香りや風味が評価されることが少なくありません。

メトキシピラジンは主に果皮、種子、茎に含まれており、果肉に含まれる量はごくわずかです。

メトキシピラジンは果実ができ始めた頃に蓄積し始め、着色前にピークとなり、果実の熟成に伴った分解されていくことで知られています。

以前、光と熱のどちらがメトキシピラジン量に影響を与えるか研究があったようですが、熱が大きな役割を果たしていることが示唆されていました。

例えばカリフォルニアやオーストラリア、チリのカベルネ・ソーヴィニヨンは果実味が豊かでタンニンも丸みがあるといった印象ですが(全てではない)、ロワール、冷涼産地のカベルネ・ソーヴィニヨンは青さと鋭いタンニンを感じさせます。

やはり温暖な産地と冷涼産地によって、メトキシピラジン量に違いがあることは歴然でしょう。

また、未熟な状態でブドウを収穫する、または醸造方法によってもワインに含有するメトキシピラジン量に違いが出ます。

今回は単純かもしれませんが、ピーマンと合わせるワインとなった場合、とくにメトキシピラジンが多いと言われているカベルネ・ソーヴィニヨンとのペアリングが妥当かもしれません。

ただし、ポイントは冷涼産地のものであること。

できるだけヴィンテージの若い青さを感じるものだと親和性が高そうです。

クエルシトリンはワインに含まれているか定かではないのですが、ポリフェノールの一種で苦みを感じるということであれば、強靭過ぎないほど良いタンニンも必要になります。

この条件も踏まえれば、やはり選ぶべきはカベルネ・ソーヴィニヨンになりそうです。

カベルネ・ソーヴィニヨン×パリパリ冷やしピーマン

今回、カベルネ・ソーヴィニヨンは〇〇を用意しました。

ピーマンは、そのままではさすがに非現実的なので、福岡発祥と言われているパリパリ冷やしピーマンにします。

パリパリ冷やしピーマンは、氷水にピーマンを一晩浸けておくだけの料理ですが、青臭さや苦みがやや軽減されるほか、パリッとした食感になるためおつまみに最適とのことです。(本来、肉味噌などをつけるようですが、今回はそのままでペアリングに挑戦します。)

ピーマンと合わせるということで、カベルネ・ソーヴィニヨンは下記ポイントに着目して選びました。

  • アルコール度数が高すぎない
  • タンニンがほど良い18℃程度でも美味しくのめるタイプ
  • フルよりミディアムよりのボディ感
  • ヴィンテージはやや若め

あまりにも未熟で青すぎるニュアンスが強いワインだとただ、青臭さの饗宴になるため避けます。

アルコール度数も13.5度以上あるとアルコールが強く感じ、ピーマンの繊細な風味とバランスが悪くなりそうなので12度台を探しました。

実際にペアリングしてみると、やはりピーマンの青いニュアンスとカベルネ・ソーヴィニヨンの青いニュアンスはぶつからず、同じ方向を向いているためイヤな感じはありません。

その香りをマスキングするといったペアリングもありますが、ここはあえて同じ方向に走らせます。

ピーマンの苦みは冷えて抑えられているため、カベルネ・ソーヴィニヨンのタンニンとのバランスも悪くありません。

やや低めの温度帯で飲むカベルネ・ソーヴィニヨンなので果実の甘みなどはやや控えめになり、全体的にすっきりとしたペアリングとなりました。

これだけのペアリングは珍しいと思いますが、ピーマンとカベルネ・ソーヴィニヨン自体のペアリングは、“ナシ”ではありません。

ピーマンの食べ方、ワインの選び方でより良い相性となる可能性があるため、より探究しても面白いペアリングだったと思います。

まとめ

野菜売り場でピーマンを発見した時、“苦いからいやだ・料理するのは面倒くさい”といった理由で敬遠される方も多いかもしれません。

しかし、パリパリ冷やしピーマンにするだけでワインのお供になる上に、オリーブオイル味噌チーズなど付け合わせを工夫することで、さらにおいしく食べられるおつまみに変貌するはずです。

やや上級レベルのペアリングでプロの知恵を借りたいところですが、ご自身でいろいろとチャレンジして答えを出すのも楽しいでしょう。

ちなみに、ピーマンの食べ方によってはメルロー、カベルネ・フランの相性も良いかもしれません。

ぜひ、一度挑戦してみてはいかがでしょうか。

参考

https://lodigrowers-com.translate.goog/effect-of-light-environment-on-methoxypyrazine-content-of-cabernet-sauvignon/?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc

https://www.city.sanyo-onoda.lg.jp/uploaded/attachment/27055.pdf

https://www.shuminoengei.jp/?m=pc&a=page_tn_detail&target_xml_topic_id=textview_20363

https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=12

https://www.takii.co.jp/info/news_120319.html

https://www.kewpie.com/newsrelease/2024/3331/