かねてより、秋保ワイナリー代表の毛利親房(もうりちかふさ)氏が取り組む「テロワージュ」。
テロワージュとは、テロワール(Terroir)とマリアージュ(Mariage)を組み合わせた毛利氏の造語です。その言葉は、人と土地、風景、文化までも含めた「産地そのものを味わう体験」を指すという。

今回、その”テロワージュ”を実際に体験してきました。毛利氏と、同じく秋保の土地を大切に想う老舗旅館「篝火の湯 緑水亭」の高橋知子女将とともにテーブルを囲み、想いを伺いました。

体験したコース料理は、緑水亭↔︎秋保ワイナリーでのコラボ企画「ペアリングディナーコース付宿泊プラン」にていただけるお料理とワイン。宿の送迎が付いているので、心置きなくワインを楽しみます。

ピノグリやゲヴュルツトラミネール、ヴィオニエなど、秋保の畑で育ったさまざまな品種をブレンドした秋保フィールドブレンドのスパークリングで乾杯。

合わせて「この時期、私自身の大好物なんです。」と吉田シェフが提供するのは、山形県金山町産の花ズッキーニのフリット。中にはリコッタチーズとアンチョビを詰め、セモリナ粉で軽やかに揚げられているもの。軽いフリットには、アロマティックで軽快な泡が本当によく合います。

「テロワージュ」のはじまり

意外なことに、毛利氏が秋保ワイナリーを始めた理由は、「ワインを造りたかったから」ではありませんでした。

毛利氏はもともと建築士を生業にしていました。東日本大震災後、復興計画に携わる建築設計士として被災した漁師や農家と向き合う中で、「宮城の食をもう一度輝かせたい」と考えたことが始まりだったと言います。

「宮城県にはワイナリーが一社だけありました。でも津波で流され、社長も亡くなってしまった。だから復興計画の中にワイナリーの新設もあげて、誰かが依頼してくるかなと思っていたのですが。」結局、設計するつもりだったワイナリーは、自ら立ち上げることになりました。

その決断から十年余り。
今では秋保ワイナリーを中心に、多くの生産者や料理人、酒蔵が集まり、「テロワージュ秋保」として始まった輪が、「テロワージュ仙台」、「テロワージュ宮城」そして今や「テロワージュ東北」と各地へ広がっています。

二皿目は、秋保周辺の農家が育てた野菜だけで構成したテリーヌ。この時期のカラフルな野菜でつくられたそれは目を惹く鮮やかさです。南三陸・志津川産のミズダコ、水牛モッツァレラのカプレーゼ、塩締めしたスズキも並び、産地とともに旬を感じます。

「野菜は全部、この地域の農家さんのものです。」と産地のみならず、”誰が育てた野菜なのか””どこの漁師が獲った魚なのか”など、その背景までが料理の一部になっている。一皿の情報量が多いことは、”味わう”という行為に奥行きを持たせます。

合わせるのは、ピノグリ主体の「秋保フィールドブレンド・ブラン」。キリッとした飲み口ですが、少し温度が上がると、ゲヴュルツの香りが広がってきます。

「人・食・風景・文化」を伝える

テロワージュの活動として、生産者を招いてのメーカーズディナーを重ねていたある日、料理を食べながら涙を流す人がいたそうです。「その時に思ったんです。伝えなければいけないのはワインだけじゃない。ワインとともに、この地域全体ストーリーなんだと。」そこから、テロワージュは「人・食・風景・文化」を伝える活動へと変わっていきまました。

そして、秋保ワイナリー中心としてはじまった宮城県の生産者との取り組みは、やがて日本酒蔵、ウイスキー蒸溜所、東北各県のワイナリーへと広がり、「テロワージュ東北」となり仲間がどんどん増えていきます。

料理もまた、その思想を体現しています。卵とウニの自家製パスタには、「ワイン卵」が使われています。これは、ワインの搾りかすを発酵させ、飼料として与えた鶏が産む卵のこと。

地元のナスをソースにし、カラスミを添え、合わせるワインは、デラウェアから造るオレンジワイン「ネオトレイル」。デラウェアの華やかさに、アプリコットのニュアンスや微かなスパイス香が複雑さを加え、贅沢なパスタに融合するようなペアリングを生む。

さらに、経産牛の熟成肉が運ばれてくる。その肉もまた、地元の畜産農家との取り組みから生まれたもの。肉詰めにした丸いズッキーニは香ばしさに加えて甘さも感じる。ワインは、熟成した安曇野のメルロー。ワインの搾りかすを飼料に活用し、新たなブランド牛を育てようという挑戦も始まっているという。そんな未来へむかう試みにも期待です。

旬のトウモロコシのリゾットに続き、メインは仙台牛のイチボをロースト。ここでもソースというかたちで秋保のズッキーニが使われています。

合わせたワインは、秋保ワイナリーのグランクリュ、秋保メルロー2022。
ベリーの香り、大輪のバラ、ほのかにスパイス香、グラスを近づけただけで、それら複雑で豊かな芳香を放ちます。口中に溶け込むような滑らかさをもち、しかしながらお肉とバランスを保つタンニンも心地よい。最高に素晴らしいメルローです。

「最高のマリアージュは産地にある。」

食事を終え、毛利氏の話を聞き、腑に落ちたのが毛利氏がワイナリー案内にて語っていた「最高のマリアージュは産地にある。」という言葉でした。

毛利氏が語るテロワージュは、決してワインと料理のペアリングだけを意味するものではなく、生産者と料理人、宿、農家、漁師、そしてその土地を訪れる人までを結び付け、一つの地域を丸ごと五感で体験してもらうこと。その思想は、秋保から東北へ、そして全国へと少しずつ広がり始めています。

その言葉から伝わってくるのは、ワイナリーをつくることだけが目的ではなく、地域が持つ価値を次の世代へつないでいきたいという強い意思です。

人が出会い、土地を知り、その土地の食とワインを味わうことで育ち続ける文化であり、これからも新たな出会いや歴史を紡いでいく取り組みといえましょう。

食事後、ワイナリーのレストランを出ると、秋保バレーならではの東西に吹く気持ちのよい風を感じます。目の前に広がるブドウ畑やテラスはライトアップされています。それらを眺めつつ、迎えの車で本日のお宿、緑水亭へ。

秋保をまるごと感じる贅沢なディナー、宿泊のついたお得なプランは、11月30日まで。
この機会に、ぜひ一度は「テロワージュ」を体験してみてはいかがでしょうか。

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