北海道・仁木町にある「ニキヒルズワイナリー」。このたび実際にその魅力を体験する機会をいただきました。

広大なぶどう畑に抱かれ、移りゆく四季を感じながら過ごす時間は、まるで日常から少し離れた小さな旅のよう。ここからは、その特別な時間を通して心に残った魅力をお伝えしていきます。

ニキヒルズとは ― ワインを超えた“滞在型体験”

北海道・仁木町の高台に位置するニキヒルズワイナリーは、単なるワイン醸造施設ではありません。ぶどう畑や醸造所に加え、レストラン、ホテル、ガーデンを兼ね備えた“滞在型ワイナリー”といえます。その広大な敷地面積は、小さなワイナリーが点在する余市・仁木エリアにおいても、規模・機能ともに際立つ存在です。

その始まりは2014年。仁木町の耕作放棄地を開墾し、新たにぶどう畑を拓いたところから物語は始まります。

以来、専門家による栽培・醸造チームが土地のポテンシャルを最大限に引き出すべく研究を重ね、2019年には自社畑のぶどうで醸造したワインを世に送り出しました。現在では、国内外のコンクールで数々の受賞を果たし、日本ワインの可能性を世界に示す拠点の一つへと成長しています。

しかし、ニキヒルズの本質は“ワインづくり”そのものにとどまりません。
ここが目指しているのは、「ワインを飲む体験」から「ワインと共に時間を過ごす体験」へのシフトです。

訪れる人はワインを味わうだけでなく、丘の上の展望台から大地を見渡すことも、季節の花々が咲き誇るガーデンを散策することもできます。ホテルに宿泊すれば、夕暮れに沈む陽を眺めながらグラスを傾け、翌朝は素晴らしい朝陽と小鳥のさえずりとともに目覚める。レストラン「Aperçu(アペルシュ)」では、その時々の旬の食材を使った料理と、受賞歴を誇るワインが織りなすペアリングコースが待っています。

つまりニキヒルズとは、ワインを中心に据えながらも、自然・食・宿泊・文化が一体となった体験型リゾートなのです。その存在は、地域の観光資源としての役割にとどまらず、地元に新たな雇用と誇りを生み出し、仁木町全体の活性化へとつながっているのだと感じました。

副支配人に聞く ― 「時間そのものを楽しんでほしい」

ニキヒルズワイナリーの副支配人の中澤氏に、インタビューをお願いしました。

この中で、ワイナリー全体のアウトラインと、ここでどのように過ごしてほしいかを語ってくれています。言葉はシンプルでしたが、ニキヒルズの本質──「ワインを飲むだけではなく、ここでの時間そのものを楽しんでほしい」という想いが強く伝わってきました。

私自身も実際に滞在して、その言葉がまさに体験として裏付けられるのを感じました。

 

ワイナリーをめぐる体験 ― ツアーと自然散策の魅力

ニキヒルズを訪れたら、まずおすすめしたいのがワイナリーツアーです。

ぶどう畑や醸造所をスタッフの案内でめぐり、実際にどのようにブドウが育ち、ワインが造られていくのかを体感できます。畑の土の香りや、タンクに眠るワインの静けさに触れると、ボトルに込められたストーリーがより一層鮮明に感じられるでしょう。

さらに時間に余裕があれば、ぜひ体験してほしいのがオプションのカートツアーです。専用カートに乗り込み、ぶどう畑の間を抜けながら丘の上へ。目的地は「風の丘展望台」。ここから見下ろす仁木の大地は、ぶどう畑や果樹園がパッチワークのように広がり、遠くの山々まで続く大パノラマが目の前に開けます。ワイングラス片手にこの景色を眺める時間は、ここでしか味わえない贅沢だと感じました。

また、ワイナリー敷地内に広がるナチュラルガーデンも忘れてはいけません。季節ごとに彩りを変える花々や木々が迎えてくれ、散策するだけで自然との一体感を感じられます。春の芽吹き、夏の青々とした緑、秋の紅葉、冬の静かな雪景色──どの季節に訪れても、その時だけの表情を見せてくれることでしょう。

ワインを味わうことだけが目的ではなく、景色や自然を含めて時間を楽しむこと。この体験の積み重ねが、ニキヒルズで過ごす滞在をより豊かなものにしてくれると強く感じました。

 

Aperçu(アペルシュ) ― 洞察するレストラン

ニキヒルズでの滞在の中で、特に印象的だったのが館内にあるレストラン「Aperçu(アペルシュ)」でした。フランス語で「洞察」「慧眼」「発想」を意味する店名には、“普段感じることのできないものを感じてほしい”という思いが込められているそうです。

公式サイトの説明によれば、「洞」は“空間”、“察”は“よく見ること”を表し、仁木町の自然の中で五感を研ぎ澄ませることを料理に重ねているとのこと。実際に訪れてみると、その言葉が決して大げさではないことが伝わってきました。

ここでの食体験は、単においしさを楽しむものではありません。自然や土地を“洞察する”ように感じ取る食事。私自身、目に見える食材の奥に、季節や風景までもが皿の上に表現されているように思えました。

▪️一晩でめぐり逢う、物語の数々

「Aperçu」のディナーは、一皿ごとに物語が紡がれていきます。この時のタイトルは「探究する邂逅」。メニューを開くと、お食事ひとつずつに対してテーマと説明があり、それぞれの料理名とペアリングするワインが表記されています。それらを目で追うだけでも、完成度の高い舞台を観ているようです。

そして実際に体験すると、料理やワインの説明を超えて“心に残る瞬間”が確かにありました。その中でも特に忘れがたい強烈な印象を受けた、二つの邂逅をご紹介します。

 

▪️桃源郷 ― ENIWA ROSSOとシャルドネの奇跡

一つ目は「桃源郷」です。北海道恵庭産の純血統豚「ENIWA ROSSO」 に、白桃とミントを合わせた料理。豚肉は驚かされるほどジューシーで、脂の甘みがじんわりと広がります。そこに寄り添う白桃のソースが加わると、単なる“肉料理”を超えて、甘やかで柔らかな世界が口の中に立ち上がりました。

合わせられたのは「シャルドネ 2023」。世界的権威のDecanter World Wine Awardsで金賞を獲得した一本です。マロラクティック発酵によるまろやかさと、上品な樽香。その豊潤さと白桃の甘みが重なり合う瞬間、料理とワインは互いを高め合い、まるで別次元の味わいへと昇華していきました。

「これがマリアージュか」と心の中でつぶやいてしまうほどの調和。口いっぱいに広がる幸福感は、ただの食事を超えて、人生の記憶に残るひとときとなりました。


▪️繋ぐ ― 畑そのものを食べる感覚

二つ目は「繋ぐ」です。テーブルに運ばれてきた皿を見てまず圧倒されました。

インカのめざめ、ヤングコーン、百合根、無花果、茄子、ビーツ、芽キャベツ……数えきれないほどの食材が、それぞれ異なる調理法で仕上げられ、一枚のプレートに集結していました。

これは単なる“盛り合わせ”ではなく、まるで畑そのものをテーブルに移したような世界観でした。ひと口ごとに食材の個性が際立ち、やがて全体がひとつの大地として融合していく。

そこに合わせられたのは「ピノ・ノワール 2023」。仁木町のテロワールを余すことなく映し出すような、旨味と出汁感にあふれる赤ワインでした。軽やかでありながら奥行きがあり、どこか土や木々の匂いを思わせる味わい。その一口は、まるで「日本の大地そのものを食べている」ような感覚をもたらしました。

ここでしか味わえない一体感。シェフとワイン、そして土地の記憶がひとつの皿で出会った瞬間、思わず言葉を失うほどの体験となりました。

 

▪️ほかのお皿たち ― 記憶を彩る小さな物語

もちろん、ほかのお料理たちも印象的でした。フォアグラ小豆とロゼ・スパークリングが生む祝祭感、甘海老とトマトを引き締める泡の酸味、帆立とルッコラを支えるアッサンブラージュの奥行き。マツカワカレイとケルナーの透き通るようなマリアージュ、鴨とツヴァイゲルトの気品ある調和。

残念ながら、時間の都合でデザートまではいただけませんでした。それがむしろ次回の楽しみとなり、「もう一度ここに戻ってきたい」という思いを強めてくれました。


▪️レストランとしての存在感

「Aperçu」でのディナーは、単なるワイナリー併設のレストランではありませんでした。料理の完成度、ワインとの組み合わせ、そして空間全体の演出。そのすべてが調和し、北海道を代表する“訪れるべき美食の舞台”だと感じました。

ワインを味わう旅の中で、ここまで強く記憶に残る食体験を提供してくれる場所は多くありません。ワインと料理の邂逅を楽しむだけでなく、「食べる時間そのもの」を特別な思い出に変えてくれる力があります。

ニキヒルズでのワイナリー滞在を計画するなら、このレストランは間違いなく欠かせない一幕です。ぜひ実際に訪れて、五感で体験してみてください。

 

ワインラヴァー必見「仁木神社」

ニキヒルズから少し足を伸ばすと、仁木神社(通称:ワイン神社)があります。仁木町が“ワインのまち”として歩んできた歴史を象徴する存在であり、ワインラヴァーにとってはぜひ訪れたい特別な場所です。

境内には、ワインボトルや樽をモチーフにしたユニークな建造物が並んでいます。例えば、ワインボトルから清らかな水が注がれる手水舎や、ワイングラスとボトルが刻まれた石灯籠。ワインボトルが描かれたお守り、ワインを運ぶ絵馬などもありました。

境内に漂う空気そのものが、仁木町の文化とワインへの誇りを映し出しているように感じました。

ニキヒルズでワインと料理を存分に楽しんだあと、空港へ向かう前にここを訪れて手を合わせる。そんな締めくくりが、この旅をより豊かなものにしてくれます。スピリチュアルな彩りが加わり、滞在全体の記憶が一段と深まることでしょう。

ワインを愛する人なら、仁木町を訪れた証として、この神社でのひとときを心に刻んでほしいと思います。

 

時間を抱きしめる旅の終着点

ニキヒルズワイナリーの魅力は、ワインを“飲む”だけでは終わりません。カートツアーで自然を駆け抜け、ガーデンで四季の移ろいを感じ、レストランで料理とワインの邂逅を楽しみ、ホテルで静かな夜を迎える。

さらに、仁木神社に立ち寄れば、この土地とワイン文化のつながりを一層深く心に刻むことができます。

一つひとつの体験が連動し、滞在全体がまるで一本の物語のように形づくられていきます。
そこには「観光」という言葉では収まりきらない、豊かな時間の流れがあります。

ここで過ごす時間は、効率や忙しさから解放された“人生の余白”のようなものです。じっくりと腰を据えて滞在すれば、その余白がかけがえのない記憶へと変わっていくでしょう。

ニキヒルズは、ワインを味わう場所であると同時に、“時間そのものを抱きしめる旅を与えてくれる場所” なのです。

だからこそ私は、この地をまた訪れたいと思いました。ワインと時間に抱かれる、あの豊かな体験をもう一度味わうために。