前半では、日本ワインが抱える課題と、その課題を解決するためにサントリーがどのような取り組みをおこなっているかお聞きしました。
後半は、循環型農業の取り組みや、サントリーの日本ワインが目指す方向性などについてお聞きしています。
お話いただいたのは前半に続き、サントリー株式会社 ワインカンパニー サントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長 大山弘平さんです。
お話をお聞きした方
サントリー株式会社 ワインカンパニー サントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長 大山弘平さん
循環型農業の取り組み
サントリーは、過去より続けてきた循環型農業の取り組みにおいて、新しく「やまなし4パーミル・イニシアチブ ※」へのチャレンジを開始しました。
「やまなし4パーミル・イニシアチブ」への取り組みについて、大山さんにお話をお聞きしました。
※「4パーミル・イニシアチブ」とは「世界の土壌の炭素量を0.4%/年増やすことで大気中のCO2の増加分を相殺し温暖化を抑制できる」との考え方に基づく国際的な取り組み。2020年より山梨県も日本の地方自治体としては初めて参加して、独自の枠組みとしてこの「やまなし4パーミル・イニシアチブ」を展開している。
植物は、私たち人間が経済活動等を行う上で放出する二酸化炭素を吸収し、酸素を放出します。しかし、経済のさらなる発展に向けて活動が活発化することで当然ながら二酸化炭素量も増えてしまいます。
これに対し、毎年0.4%ずつ土壌中の炭素量を増やすことで、大気中の二酸化炭素増加量とほぼ相殺できるというのが、「4パーミル・イニシアチブ」の考え方になります。
以前から山梨県がこの取り組みに参加して独自の枠組み「やまなし4パーミル・イニシアチブ」を展開していますが、我々も同県に賛同する形で本年3月よりこの山梨県の活動に参加しています。
具体的な内容
具体的に、どのような形で「やまなし4パーミル・イニシアチブ」の活動に参加しているのでしょうか。
私たちは20年程前より土壌の物理性改善という目的で不耕起草生栽培を始めました。
ブドウと共に他の植物も共存させ、これらの根に付着する微生物の力で水はけを良くするという考え方です。
また、夏に伸びた草を刈りこむことやブドウの搾りかすを堆肥化して土に返すことを行ってきましたが、これらは循環型農業の一環として捉えられ、結果的に土壌のCO2貯留量を増やすことに取り組んできたことになりました。
2022年より更にこれを増やす取り組みとして、新たに“炭にした剪定枝を畑に投入する”といった取り組みを加えています。
仮に剪定枝をそのまま土壌に入れてしまうと分解され、炭素分を植物が吸収してしまいますが、枝を燃やして燃焼を途中で止め、炭にすることで半永久的に分解されなくなり、土中に炭素を貯留することができるんです。
また、炭にした剪定枝により微生物住処が増えるため、更に土中の微生物活性が高まることや、枝を燃やすことで圃場内の病原菌の数が減少し、結果病気に感染するブドウが減ることを期待しています。
健全でより良質なブドウの収穫にも繋がっていくでしょう。
「4パーミル・イニシアチブ」は、GHGに着目した長期的な取り組みになります。しかし、“未来のため、今の生きる人たちが我慢をするといった取り組みでは、持続可能な農業として継続させるのは難しいのではないか、と考えています。
つまり、今回取り組んでいる循環型農業は、決して未来の方だけが恩恵にあずかるものではない、今の私たちにとっても嬉しい効果が期待できる取り組みなのです。
取り組みを広めていくために
地域の農業復興支援や気候変動への対応、さらに「やまなし4パーミル・イニシアチブ」への取り組みなど、“持続可能な日本ワインづくり”に注力するサントリー。
この活動を、一体どのように広めていこうと考えているのでしょうか。
この取り組みの良さや注意点など、ノウハウを蓄積していくことで、私たちのワイナリーを訪れてくれる他のワイナリーさんなどに広く伝えていけるのではないかと考えています。
もちろん、先にもお伝えした“未来だけでのためではなく、今の私たちにもメリットがある取り組み”であることも伝えていきたいですね。
また、登美の丘ワイナリーでは今年9月にリニューアルオープンを予定しており、一般の方向けには現場を見てもらえるツアーなどを企画中です。ほか、お客さま向けにホームページを充実させるなど、広く深く発信していきたいです。
日本ワインを広めていくための活動
今年9月、サントリーの日本ワインの新ブランド「SUNTORY FROM FARM」が立ち上がります。大山さんに、今後日本ワインにどのように貢献していきたいかお聞きしました。
他のワイナリーさんが我々を訪問してくださった際の議論や、講演依頼を頂くセミナーなどを通じて、情報発信や情報交換を行う機会を非常に大事にしています。
そもそもワインの原料はブドウであり、生原料。全てのワイナリーがまったく同じ原料で醸造することは不可能であるため、各ワイナリーが同じワインをつくることはできない、といった前提に立っています。実際に、ワイナリーによってものづくりのスタイル・考え方も違うと思います。
日本ワインが今後発展していくためには、まずワイナリー同士がお互いをリスペクトし合い、ものづくりを行っていくことが大切だと考えています。
「SUNTORY FROM FARM」について
「SUNTORY FROM FARM」について、大山さん個人としてどのように感じているのかお聞きしました。
私たちサントリーが得意としているのは、味わいのバランスの良さだと感じています。一見分かりにくいところではありますが、味わい要素の何かが突出しているわけではない、それぞれの要素によって“真円を描く”ような味わいを理想としています。
また、ティピシテ(“らしさ”)も大切にしていますね。
その産地らしさ、品種らしさ、サントリーらしさ、そのワインのつくり手らしさ…。こういった部分を尊重することが私のワインづくりのベースです。
新ブランド「SUNTORY FROM FARM」ですが、その土地や畑、ブドウといった“らしさ”が表現された、原点回帰の新ブランドだと私は捉えています。
私たちの仕事として、世界で認められるワインをつくること、そして1人でも多くの方に日本ワインを知ってもらうといった二つがあると思っています。
同ブランドにはシンボルシリーズといったシリーズがありますが、これは世界で認められる日本ワインを目指すトップレンジです。
一方、品種シリーズなど、全国のお客さまに日本ワインをもっと知ってほしい、1人でも多くの人に飲んでもらいたいといったカジュアルなシリーズもあります。
近年、ドメーヌ型のワイナリーが増えていますが、一つ目だけでなく二つ目についてもしっかり力を入れていきたいと思いますし、得たものを先ほど同様他のワイナリーや農家さんと情報交換しながら発信していくことで産業として日本ワインを発展させていければと考えています。
最後に
「自分は、なぜ日本でワインをつくっているのか。ふと考えることがあります」と大山さん。
ワインといえばテロワールが重視されますが、大山さんは気象や土壌が代表されるテロワールのひとつに人間があり、そこが日本ワインの面白さと語ります。
「日本は雨量が多く台風があり、さらに多湿です。醸造用ブドウにとって厳しい条件である中、その条件をどのように捉え、どう乗り越えていくか…といった姿勢は全てワインの味わいに反映します。日本ワインはつくり手、つまり人間の考えがとても重要であり、そこが最高におもしろい部分です。日本ワインをやっていて、あらためてこの部分が魅力だと感じています。」
ここ10年ほどで日本ワインの品質は劇的に向上し、北は北海道、南は九州まで素晴らしいワインが多く生み出されています。
最後に大山さんは、日本ワインが大きく変化している今の時代、飲み手の皆さんとも一緒にこの時代をつくっていきたいと力強く語ってくれました。
さまざまな課題に取り組み、持続可能な日本ワインづくりを目指すサントリー。
ワインの味わいはもちろん、その裏にある取り組みにも注目してみてはいかがでしょうか。
参考
サントリーの日本ワインについて