2022年9月、ついにサントリーの日本ワインの新ブランド「SUNTORY FROM FARM」が発売されます。

シリーズ構成や品質の高さ、リニューアルオープンとなる登美の丘ワイナリーなどが話題となっている同社の日本ワインですが、じつは「持続可能な日本ワインづくり」への取り組みも注目されています。

本記事では、サントリー株式会社 ワインカンパニー サントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長 大山弘平さんにオンラインインタビュー。

サントリーの「持続可能な日本ワインづくり」について、またサントリーの日本ワインの目指す方向性などについてお聞きしました。

前半では、日本ワインが抱える課題、その課題を解決するための取り組みを紹介します。

お話をお聞きした方

サントリー株式会社 ワインカンパニー サントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長 大山弘平さん

日本ワインが解決すべき課題

日本国内のワイナリーは増加傾向にあります。しかし、その一方で農家の高齢化・離農、気候変動など、さまざまな課題に直面している状況です。

今、日本ワインが抱えている課題について大山さんにお聞きしてみました。

ブドウの生産量減少について

近年、ワイナリーの数が増えている一方で、収穫されるブドウの全体量が減少しています。

例えば、甲州は98年、99年に年間8,000tの収穫量がありましたが、今は僅か3,000t程度。20年ほどで、半分以下の収量にまで落ちてしまいました。

理由はさまざまな考えられますが、まずは高齢化による離農。そして、主に生食用として消費されるシャインマスカットに畑を切り替えているといった影響もあるかもしれません。

結局、ワイナリーの中にはブドウが十分に手に入らず、アイテムを絞ったり瓶詰数を少なくしなければならない状況になっていると推察します。

また、かつて多くの日本ワイナリーは購入ブドウをもとにワインをつくるといったスタイルが主だったものの、現在増えているワイナリーは自分でブドウを栽培し、ワインをつくり、ワインを売るといった「ドメーヌ型」スタイルがほとんどになりました。

しかし、いざブドウを栽培してみると想像以上に難しいことや初収穫まで多くの時間がかかるため、思うほど原料が手に入りません。

結果的にブドウやリンゴなどの他原料を購入する必要性が出るところもあり、需要が供給を上回ってしまう状態となってしまっているのではないかと思われます。

サントリーの取り組み

サントリーでは、この課題に対処するべく山梨県と連携し、地域の農業復興支援に取組んでいます。一体、どんな取り組みなのでしょうか。

まず、私たちは遊休農地を含む圃場開発に取り組んできました。2018年から植付を開始し、2021年には12ha、2030年には20haを見込んでいます。

私たちが大切にしていることのひとつが、行政や地元と一緒に進めていくといったところです。遊休農地だからといって、私たちがそのまま土地をお借りできるということはありません。

安心して貸せる人たちであるという、周囲の安心・信頼を得るためにも、行政の方と一緒になって取り組み、地元としっかりコミュニケーションを取って進めていくことを重要視しています。

そんな中で、私たちは甲州の収穫量を拡大することに力を入れています。

2021年は山梨県内自園と自社管理畑で、35t。2030年には山梨県生産量の約1割となる297tの見込みです。

先にもお伝えしたように甲州の生産量が減少していますが、仮に甲州がほとんど収穫できなくなってしまえば、それだけ日本ワインの生産量も減るので山梨県の「ワイン県」としての存在感も薄れてしまうかもしれません。

この地でブドウを栽培して収量を増やすこと。そして、そのブドウで日本ワインをつくり、多くの方に飲んでもらって味わいの豊かさを感じてもらう。

これが、私たちにできることだと考えています。

気候変動について

近年、よく耳にする気候変動の話題。ワイン生産国の多くは気候変動によりブドウの収穫期が早まったり今まで手掛けてこなかった品種を栽培したり、品質に影響が出たり、目に見える影響が出てきています。

気候変動による影響は日本ワインにとっても対岸の火事ではありません。

今、日本がおかれている状況について大山さんにお聞きしました。

気候変動、特に温暖化における影響を日本全体として捉えた時には、二つのことが起こっていると私は考えています。

まずひとつが、その名の通り気温が上がっていること。これはブドウの成熟スピードおよび果実の日焼け、病気や虫の発生などへの影響が考えられます。

そして、あとひとつが推定ではありますが、降雨への影響です。

具体的には気温が上がることにより太平洋の水温が上昇、その結果として太平洋高気圧の勢力が強まり梅雨が長くなったり台風が大きくなったり、また昔は聞くことのなかった「線状降水帯」の発生などが挙げられますが、これは日本全国どの産地にとっても深刻な課題だと感じます。

今後も気候変動は続いていくでしょうし、ワインづくりにとって厳しい状況が続くことは間違いないでしょう。

気候変動に対応した栽培への挑戦

サントリーでは、気候変動に対応した栽培への挑戦として「副梢栽培」に取り組んでいます。一体、どういった栽培法なのでしょうか。

そもそもワインをつくるうえで「表現したい土地、すなわちテロワール」と「その土地を表現できる品種」と大きな要素を分けてみた場合、気候変動への対処といった観点では、「産地を固定して品種を変える」、「品種を固定して産地を変える」といったやり方が考えられます。

実際、サントリー登美の丘ワイナリーでは、「産地を固定」といった方向性で南仏系の品種の栽培に新たに挑戦しています。逆に「品種を固定」といった方向性では、例えば甲州を長野県で栽培するように、産地を北上させるなどの取組みも開始しています。

しかし、“産地も品種も変えたくない” “変えられない”といった境地に立った時はどうすべきか…。

私たちは栽培のやり方を変えるといった考え方で、副梢栽培に取り組んでいます。

100年以上続く登美の丘の圃場には、先輩たちから脈々と流れている歴史や様々な挑戦があり、その結果わたしたちがここでブドウ・ワインをつくることが出来ています。

簡単に離れられる土地ではありません。そもそもこの土壌から生まれるワインの味わいに魅力があると考えています。恐らく他のワイナリーやブドウ生産者の方も同様の環境が多いかと思います。

そこで、この研究を以前より進めていた山梨大学と昨年よりメルロを対象に副梢栽培の取り組みを開始しました。

副梢栽培は脇芽を利用して熟期をずらす栽培法で、昨年は約40日収穫期を遅らせることが出来ました。

成熟時期が気温の下がった晩秋に遅れることでブドウの中にワインの味わいを決定づける二次代謝物が増えやすくなるほか、ブドウの粒の大きさが適正化され、より凝縮した味わいのブドウを育てることができます。

登美の丘で育てる品種の中でメルロは早めに熟期が始まる品種で、温暖化の影響を受けやすい品種だと思い、最初に挑戦してみました。

今年はシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンを対象に加えて挑戦しています。ゆくゆくはこの活動を私たちと同じく温暖化で悩む方に聞いてもらい、日本のブドウ栽培の新たな方策の1つとして認識されることが目標です。

まとめ

前半では、日本ワインが抱える課題と、その課題を解決するためにサントリーがどのような取り組みをおこなっているかお聞きしました。

後半では、循環型農業の取り組みについてお聞きしています。

参考
サントリーの日本ワインについて  

http://suntory.jp/NIHON/