人気のペアリングのひとつ、「握り寿司×ワイン」。

とくに日本ワインを軸に組み合わせを考えるだけで思いもよらなかったユニークなマリアージュが楽しめるため、今や“定番”のペアリングになりつつあります。

とはいえ、かしこまった印象やテクニックが必要になることから自宅で試すのはハードルが高い…と思っている方もいるかもしれません。

そんな難しく考えずに寿司とワインを組み合わせたい方には、恵方巻きでもお馴染みの「太巻き×ワイン」をおすすめします。

ぜひ、お試しください。

太巻きとワインがおすすめの理由

「太巻き×ワイン」をおすすめする理由がこちらです。

  • 酢飯とワインの相性は案外イイ
  • 具材とのバランスや種類がワイン向き
  • カジュアルなワインと合わせやすい

もちろん、成功率を高めるのであれば使用するワインは日本ワインがおすすめ。

順を追って解説していきましょう。

酢飯とワインの相性は案外イイ

“白米にワインを合わせなさい”と言われると微妙な気持ちになりますが、酢飯とワインであれば不思議とチャレンジしたくなります。

なぜなのでしょうか…。

まず、酢飯のpHは4.3~4.4のやや強い酸性であり、なんとヨーグルトレベルの酸度なのだそう。(ふなずしなどの、“なれずし”はヨーグルトのような味が特徴です)

そのため、一般的な白米の場合は米にふくまれるでんぷんが唾液で分解され甘くなってしまうところ、酢飯の場合は酢がその分解を阻止することから甘さを感じることなく米を食べることができます。

さらに酢飯はかために炊かれることがほとんですので、テクスチャー的にも食べやすい。

ねっとり感のない食感、甘過ぎないほど良い酸味。

私たちは酢飯を“ご飯”というよりは、“食材”として認識しているのかもしれません。

さて、酢飯の話はともかく、なぜワインと相性が良いのか。

前述したように酢飯は酸味が強く甘過ぎないため、ワインの酸味や渋みが強調されにくくぶつかりにくい。

また、太巻きは炊きたてご飯のような温度帯ではないことから甘さがさらに押さえられ、ワインとのパワーバランスも合わせやすいのです。

たまに持ち帰り寿司の店舗で酢飯だけが売られているので、ワインと合わせてみてください。

想像以上の相性の良さに驚かれることでしょう。

具材とのバランスや種類がワイン向き

太巻きは、「巻寿司」のひとつです。

一説によると巻寿司は1750年から1776年の頃に生まれたとされており、1750年刊行の料理本『料理山海郷』にはすでに「巻鮓」という文字が出てきていたといわれています。

ちなみに、巻寿司には太巻きのほかに「細巻き」がありますが、どうやら関西では具材が一種類だと寂しいので太巻きや中巻きが好まれ、関東は粋ですっきりとした細巻きが好まれたために巻き方に違いがある…とされているようです。(恵方巻きは主に太巻きですが、この習慣の起源・発祥も大阪の商人たちから…という説が有力)

さて、これら巻き寿司はネタより酢飯の割合が多くなる傾向にあります。

ネタが酢飯を覆う握り寿司と比較すれば一目瞭然でしょう。

以前、“かずのこ”とワインのマリアージュについて考察した記事でもお伝えした通り、魚介類の種類や鮮度によってワインと相性が悪くなるものは少なくありません。(ワインの種類にも大きく左右されますが)

握り寿司の場合、酢飯というよりは“ネタとワインの勝負”になりがちであり、細かな部分に配慮したペアリングでないとワインと食材がぶつかってしまいます。

一方、太巻きも細巻きもおもに酢飯の割合が多いため、そこまでネタの影響に左右されずに合わすことができる、と考えられるのです。

また、使用される具材にも注目しましょう。

近年、恵方巻きが日本全国に浸透してきた影響もあってか新鮮な魚介類が入った「贅沢海鮮太巻き」など、バリエーション豊かなものを目にすることが増えました。(ちなみに恵方巻きは七福神にちなんだ、“7”の具材を利用するのがヨシとされているようです)

とはいえ、一般的な太巻きの具材といえば、玉子焼きやきゅうり、干ししいたけ、桜でんぶ、かんぴょうなど滋味溢れるものばかり。

サーモンやマグロなども人気の具材ですが、酢飯が多かったりほかの具材とミックスされることが多いので握り寿司より魚介類の主張はありません。

魚介類がワインと全く合わないわけではありませんが、比較的太巻きに使用される食材の方がワインとはぶつかりにくく、魚介があったとしてもその影響を受けにくいというのはペアリングのポイントになるのではないでしょうか。

助六などに入っている太巻きは醤油ありでも無しでも美味しく食べられますし、特徴を見ればワイン向きの食材といえます。

カジュアルなワインと合わせやすい

ワインペアリングを楽しむ際、“手軽さ”も重要な要素のひとつ。

「握り寿司×ワイン」もやり方によってはカジュアルに楽しめますが、心理的に“やるなら、ちゃんとした寿司とワインを用意したい”と思ってしまうペアリングです。

一方、太巻きはカジュアルな価格的で手に入れられるものが多く(高級なものもたくさんありますが)、簡単に手作りすることもできます。

カジュアルな太巻きであれば具材も前述した滋味溢れたものがメインですし、高級ワインとではなく、家飲みワインと気兼ねなくペアリングにチャレンジすることができるでしょう。

やはり寿司系と合わせるのであれば日本ワインがおすすめですが、価格も1,000円から1,500円ほどの甲州やデラウェア、マスカット・ベーリーAといった定番品種、ほのかに甘さを感じるカジュアルな日本産スパークリングワインなどで十分です。

とはいえ、“恵方巻きのときぐらい贅沢な「太巻き×ワイン」で勝負させてくれ!”という方もいるかもしれません。

そんな方は、赤酢を使った豪華海鮮太巻きと高級な甲州ワインを合わせてみてください。

感動のペアリングを楽しめます。

とはいえ、「太巻き×ワイン」は基本的にカジュアルに楽しんでほしい組み合わせです。

難しく考えず、適当な太巻きとカジュアルな日本ワインでペアリングを試してみてください。

Ritto Winery(琵琶湖ワイナリー)を太巻きに合わせてみた

実際に太巻きとワインを合わせてみました。

用意したワインは、Ritto Winery(琵琶湖ワイナリー)の〈浅柄野レッドミルレンニューム 2020〉。

自社農園産レッドミルレンニューム種を100%使用したピュアな辛口白ワインで、リンゴを思わせる爽やかな香りと心地よい酸味、フルーティーな後味を楽しめる1本です。

太巻きは、「根菜とどんこの太巻」。

筍やれんこん、どんこ椎茸、ごぼう、油揚げといったシンプルな具材が使用された、優しい味わいの太巻きです。

のりと酢飯の風味、具材から溢れ出る滋味深いうまみと〈浅柄野レッドミルレンニューム 2020〉のピュアでフルーティーな風味がよく合います。

さらに、後味に〈浅柄野レッドミルレンニューム 2020〉の華やかな風味が鼻に抜けていき、心地良さすら感じるペアリングでした。

今回、良い意味で複雑でボリューム感のあるワインではなかったことも、太巻きとのペアリングがうまくいった要因かもしれません。(ピュアな吟醸酒に近い印象)

カジュアルなワインとカジュアルな太巻き。

こんなペアリングなら、ふと出てくる「何となく酢飯とワイン合わせたくなってきた」という発作にすぐに対応してくれそうです。

和食とワインこそカジュアルに

「ワイン×和食」を日常的に楽しむためには、まずは誰でも手軽に試せるペアリングを増やしていく必要があります。

今回おすすめした「太巻き×ワイン」は、食品デリバリーやコンビニ、スーパーで手に入れられるペアリングであり、お金を使ってオシャレしないと試せない豪華なものではありません。

「太巻き×ワイン」であれば、冷蔵庫やワインセラーにあるカジュアルな常備ワインとすぐに試すことができるはずです。

「太巻き×ワイン」。

ぜひ、あなた生活の一部に取り入れてみてください。

参照

MAKIZUSHI倶楽部 巻寿司のはじまり物語

 

特別研究「調理文化の地域性と調理科学:行事食・儀礼食」にみる節分における巻きずし喫食の変化

美味!“すし”の科学