日本では数多くのブドウ品種からワインが製造されています。

しかし、日本ワインというと甲州やマスカット・ベーリーA、デラウェアから造られたワインが多く、そこまで多くのブドウ品種(ワイン用)は栽培されていないといったイメージを持つ方もいるかもしれません。

しかし今、日本では330を超えるワイナリーが存在しており、その土地によってさまざまなブドウ品種が栽培されています。

日本ワインの幅広さを知る上でも、日本で栽培されているブドウ品種を知ることは重要です。

ここでは、日本で栽培されているブドウ品種についてお伝えしていきましょう。

日本で多く栽培されているブドウ品種

まず、日本で多く栽培されているブドウ品種について紹介します。

甲州

日本の在来品種である甲州は、日本ワインにとって重要な品種のひとつです。(生食用も兼ねます)

薄い藤紫色のグリ系ブドウであり、山梨県を主要産地として多種多様なスタイルを生み出します。

DNA鑑定の結果、ヴィティス・ヴィニフィラのDNAに中国の野生種ヴィティス・ダヴィーディのDNAがふくまれていることが判明。

東洋系品種のひとつとして分類されています。

2010年に、OIV(Office International de la vigne et du vin 国際ブドウ・ワイン機構)へ品種登録されたことでも話題になりました。

マスカット・ベーリーA

日本を代表する赤ワイン用の黒ブドウ品種、マスカット・ベーリーA。

岩の原葡萄園の創始者である川上善兵衛が「ベーリー」と「マスカット・ハンブルグ」を交雑した結果誕生したブドウ品種です。(生食用も兼ねます)

キャンディ香が特徴で、樽なし、樽熟成、ロゼ、スパークリングワインなど多種多様なスタイルのワインが生み出されています。

主に山梨県が主要産地ですが、山形県、長野県、新潟県、広島県、宮崎県など多様な産地で栽培されているようです。

2013年にOIVに品種登録されています。

ナイアガラ

1866年にアメリカ ナイアガラで交配育種されたブドウ品種。

日本に伝来したのは明治時代といわれており、長野県や北海道が主要産地とされています。

甘やかなアロマが特徴で、スパークリングワインに仕立てられることが多い傾向です。

デラウェア

アメリカ オハイオ州で見つかったといわれているアメリカ系ブドウ品種、デラウェア。

生食用を兼ねており、明治初期頃にアメリカから伝来したといわれています。

山形県が主要産地として知られていますが、北海道や山梨県、大阪府、滋賀県、島根県、大分県など、栽培地は全国各地に点在。

独特のアロマを持っているものの酸がすっきりしていることから、スパークリングワイン仕立てのものが増加傾向にあります。

コンコード

アメリカ系ブドウ品種、コンコード。

生食用を兼ねており、果汁飲料としても多く使用されている黒ブドウ品種です。

19世紀末頃に伝来したといわれており、フルーティーでタンニンも少ない軽快なワインを生み出すことで知られています。

主に長野県での栽培が多いため、“コンコードのワイン”というと長野県産が数多く見受けられます。

キャンベル・アーリー

アメリカで交配育種されたブドウ品種ですが、川上善兵衛によって1897年に日本にもたらされたといわれています。

生食用も兼ねているため、フルーツ売場でも見かけたことがあるのではないでしょうか。

華やかなアロマにほど良い酸味、少ないタンニンが特徴であり、ロゼやスパークリングワインにも向きます。

早熟のブドウ品種としても有名です。

ヨーロッパ系品種

近年、ヨーロッパ系品種を使用した高品質な日本ワインが多く見受けられるようになりました。

ここからは、日本で栽培されているヨーロッパ系品種をまとめていきます。

シャルドネ

世界中で栽培されてる白ブドウ品種、シャルドネ。

日本国内で本格的に栽培がスタートしたのは1980年代以降といわれており、栽培面積も国内トップクラスを誇ります。

北海道や岩手県、長野県、福島県、新潟県、山梨県など幅広い産地で栽培されており、主に垣根仕立てが主流です。

辛口ワインからスパークリングワイン、樽をしっかりと効かせたブルゴーニュスタイルのものなど、多種多様なスタイルで造られています。

メルロー

明治時代にはすでに苗木が輸入されていたといわれている、日本でも人気のブドウ品種 メルロー。

長野県塩尻市がとくに有名ですが、山形県や北海道、岩手県、兵庫県、山梨などさまざまな産地で栽培されています。

棚仕立て、改良スマート仕立てなどが主流です。

軽やかなボディのものが多かったものの、近年ミディアムボディやフルボディ、長期熟成タイプなど、さまざまなスタイルのメルローが誕生し始めています。

カベルネ・ソーヴィニヨン

世界で最も知られている黒ブドウ品種、カベルネ・ソーヴィニヨン。

栽培の歴史は意外に古く、1935年頃に山梨県で始まったといわれています。

長野県の栽培面積が大きいものの、山形県、兵庫県、山梨県などでも広く栽培されているようです。

日本の場合、タンニンの多いパワフルなカベルネ・ソーヴィニヨンというよりは、繊細でエレガントな印象の仕上がりのものが多い傾向にあります。

ピノ・ノワール

高貴品種として知られるブルゴーニュの主要品種、ピノ・ノワール。

栽培が大変難しい品種として知られていますが、1881年にはドイツ名のシュペートブルグンダーが日本にもたらされていた、とされています。

1970年頃に北海道で本格的な栽培がはじまり、現在は長野県や青森県、山形県、京都府、大分県、新潟県、山梨県など幅広い産地で栽培されるようになりました。

冷涼な産地を好むことから北海道産のピノ・ノワールは世界的にも注目されており、今後日本ワインからも世界に羽ばたくワインが生まれるのではないか、と期待されています。

ピノ・グリ

グリ系ブドウとして世界的にも人気が高まりつつある、ブドウ品種ピノ・グリ。

北海道ワインによって1970年に持ち込まれた品種であり、冷涼な地域で栽培面積が広がりを見せています。

グリ系ブドウらしくほのなか苦味が特徴で、ほどよいボディ感のあるワインを生み出します。

近年、スパークリングワインも造られ始めています。

リースリング

ドイツ原産、フランス アルザスの主要品種としても知られているリースリング。

北海道を中心に冷涼産地で栽培されていますが、アロマティックで爽やかな味わいに仕上げられることが多い傾向にあります。

高貴品種としても知られており、甘口ワインなども造られているようです。

ツヴァイゲルト

オーストリアの主要品種である黒ブドウ、ツヴァイゲルト。

日本では北海道が主要産地ですが、こちらも北海道ワインが1970年にオーストリアから苗木を取り寄せたことから栽培が始まりました。

果実味とスパイシーさ、ほどよいタンニンが特徴の赤ワインが生み出されています。

プティ・ヴェルド

ボルドーでは補助品種、カリフォルニア州では単一品種などで赤ワインが造られている、プティ・ヴェルド。

温暖かつ高湿度の土地でも色づきがよく、本国内でも少しずつ栽培面積が増えている注目品種です。

長野県、山梨県、静岡県などで栽培されていますが、今後も栽培地が増えていく可能性が期待できる品種でしょう。

ソーヴィニヨン・ブラン

世界各地で栽培されている有名な白ブドウ品種、ソーヴィニヨン・ブラン。

日本ではあまり見かけないブドウ品種でしたが、近年冷涼な土地を中心に栽培地が拡大。

長野県、北海道をはじめ、青森県や岩手県、山形県などで高品質なソーヴィニヨン・ブランが出始めています。

カベルネ・フラン

ロワール渓谷の主要品種でもある、カベルネ・フラン。

長野県や山梨県、岩手県など少しずつ栽培地が拡大しています。

ハーブやスパイス、スミレの香り、ほどよい酸味とタンニンのバランスが良い黒ブドウ品種であることから日本でも高い品質のカベルネ・フランが生み出されており、日本のワインファンからも期待されているようです。

アルバリーニョ

リアスバイシャス、ポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデの主要品種である、アルバリーニョ。

高温多湿の気候条件にも適しているアルバリーニョは、新潟県や大分県で栽培されています。

白桃などのアロマティックな香りとフレッシュで奥行きのある風味が特徴で、日本の気候にも合うことから日本ワインファンからも支持されている品種。

魚介類との相性もよいため、和食とのペアリングも多く提案されています。

そのほかのヨーロッパ系品種

そのほか、ドイツ系品種のゲヴェルツトラミネールやレンベルガー、ピノ・ブラン、トロリンガーといった品種が北海道を中心に栽培されています。

また、広島県のセミヨン、栃木県のタナなども有名です。

交配品種&日本の交雑・交配品種

日本では、数多くのヨーロッパ系の交配品種、日本の交雑・交配品種が栽培されています。

日本独特の品種があるところも、日本ワインの面白さ。

さっそく紹介していきましょう。

ミュラー・トゥルガウ

リースリングとマドレーヌ・ロワイヤルの交配で生まれた白ブドウ品種で、北海道や岩手県を中心に栽培されています。

1970年頃から本格的な栽培がスタートしており、香り豊かなワインを生み出します。

バッカス

北海道を中心に栽培されている、ドイツ系の同種交配で生まれた白ブドウ品種。

ショイレーベとミュラー・トゥルガウの交配で、華やかな香りが魅力のワインを生み出します。

ケルナー

スキアーヴァ・グロッサとリースリングの交配で生まれた白ブドウ品種。

ドイツの主要品種のひとつで、1973年に北海道に穂木がもたらされたことが栽培のきっかけとされています。

カジュアルなワインが多く造られており、中甘口、辛口、スパークリングワインなど多種多様なスタイルのワインを生み出す万能品種です。

ドルンフェルダー

ヘルフェンシュタイナーとヘロルドレーベの交配で生まれた黒ブドウ品種、ドルンフェルダー。

北海道が主要産地ながら長野県など冷涼な産地で成功しています。

多産型で果実見豊かな、カジュアルなワインを生み出します。

ベーリー・アリカントA

川上善兵衛が1929年に品種登録した黒ブドウ品種。

ベーリーとアリカント・ブスケの交配で誕生しています。

果肉が赤いことから、着色用として多く利用されているようです。

山梨県、新潟県で多く栽培されています。

ブラック・クイーン

ベーリーとゴールデン・クイーンの交配によって誕生した、黒ブドウ品種。

こちらも、川上善兵衛によって生み出された品種です。

酸が豊かでタンニンは穏やかな、飲みやすいワインが生まれます。

生食用ではないことから栽培面積が少ない傾向にあるようですが、岩手県や長野県、山形県、新潟県の一部では積極的に栽培されています。

甲斐ノワール

山梨県果樹試験場がブラック・クイーンとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配で誕生させた、黒ブドウ品種。

日本の気候条件に合うように開発されたもので、1992年に登録されました。

カベルネ・ソーヴィニヨンの特徴である青さが香りに出やすいものの、色づきもよく糖度が上がりやすいといった傾向にあります。

レッド・ミルレンニューム

川上善兵衛によって1933年に開発された、白ブドウ品種。

ミルレンニュームと未詳1号の交配で誕生しました。

生食用を兼ねており、アロマティックなワインを生み出します。

新潟県や滋賀県など、栽培面積も増え始めてきているようです。

巨峰

生食用として需要の高い、巨峰。

じつは、キャンベル・アーリー(4倍体品種石原早生)とセンテニアルの交配で誕生したブドウ品種です。

甘さを感じさせるワインを生み出しますが、スパークリングワインとしても近年注目されるようになっています。

福岡県、山梨県、長野県などが主要産地です。

ビジュノワール

山梨27号とマルベックの交配により誕生した黒ブドウ品種。

山梨県果樹試験場によって開発され、2008年に品種登録されています。

温暖な地域でも着色が良く、酸がおだやかでタンニン豊かなワインを生み出します。

甲斐ブラン

甲州とピノ・ブランの交配品種で、山梨県果樹試験場によって1992年に開発された白ブドウ品種です。

糖度が上がりやすくなるよう、日本の気候に合わせて開発されています。

信濃リースリング

シャルドネとリースリングの交配で誕生した、白ブドウ品種。

マンズワインが開発、1992年に品種登録されています。

シャルドネの栽培しやすさ、リースリングの持つ華やかな香りを兼ね備えた品種であり、飲みやすくエレガントな白ワインとなるようです。

ほかの交配品種

これらのほか、リースリング・フォルテ、リースリング・リオン、アルモノワール、サンセミヨンなど、多種多様な交配品種が日本では栽培されています。

また、ヨーロッパ系の交雑品種である、セイベル9110、セイベル13053といった品種も北海道や岩手県、長野県などを中心に栽培されているようです。

高温多湿な日本において、育てやすいブドウ品種を交配などで誕生させるのは重要なことです。

近年、生産者の栽培レベルや醸造技術によってヨーロッパ系ブドウ品種の品質が高まりだしているため影を潜めていますが、これら交配品種系の栽培・ワイン製造は継続されるはずなので、ぜひ覚えておきましょう。

野生ブドウ系

 

日本では、野生ブドウからもワインが造られています。

どこか懐かしい独特の風味と酸味が特徴で、一部の日本ワインファンからも人気です。

最後に日本で栽培されているワイン用の野生ブドウについてまとめていきます。

ヤマブドウ

主に北海道から東北地方の高山地に生息するブドウで、粒がとても小さく酸味がとても豊かなワインを生み出します。

ほか、さまざまな野生ブドウが生息しており、全体的に酸味が豊かなワインとなるようです。

小公子

島根県や山梨県、岩手県を主体に、小公子からもワインが造られています。

日本葡萄愛好会の澤登晴雄氏によって開発された野生ブドウの交配品種で、酸味と香りが豊かなワインを生み出します。

山幸

北海道で開発された山幸は、耐寒性に優れた黒ブドウ品種。

ヤマブドウと清見の交配で誕生したもので、色合いが濃く酸味豊かなワインを生み出すことで知られています。

ちなみに甲州、マスカット・ベーリーAに続き、2020年にOIVに品種登録されました。

ヤマソービニオン

ヤマブドウとカベルネ・ソーヴィニヨンを交配したユニークな黒ブドウ。

1990年に山梨大学の山川祥秀氏により開発された品種で、タンニンが穏やかで酸が豊かなワインを生み出すことで知られています。

山梨県や静岡県、広島県、岩手県、長野県、石川県など幅広い産地で栽培されているのが特徴です。

ふらの2号

ヴィティス・アムレンシスとセイベルの交配で生まれた、黒ブドウ品種。

耐寒性に優れていることから、北海道でアイスワイン用として利用されています。

これからも増え続けるブドウ品種

ここで紹介したブドウ品種だけでなく、日本各地ではイタリア系、スペイン系、ドイツ系、交配種など多種多様なブドウ品種が各地で栽培されています。

栽培技術、醸造技術の向上に伴い、“日本では無理だ”と言われていたブドウ品種も少しずつ各地で植樹されており、思わぬ品種から造られる高品質な日本ワインも今後出てくることは間違いありません。

今記事を参考にしながら、今後日本で新しく栽培されるブドウ品種についてもチェックしていきましょう。

参考

国税庁 -国内製造ワインの概況(平成30年度調査分)-