3月8日は、語呂合わせから『鯖すしの日』に制定されているようです。(老舗のすし店・料亭「すし慶」が制定)

“よし!鯖寿司をワインに合わせてその日を祝おう!”と思ってはみたものの、鯖寿司のような鯖料理はワインと相性が悪いことで知られており、ベストな組み合わせを探すのは難しいといわれています。

しかし、せっかく思い立ったのだから成功させたい…と思うのがワイン狂い。

試行錯誤の結果、「鯖寿司×甘口ワイン」という答えにたどり着きました。

ここでは、鯖寿司と甘口ワインの相性について解説していきたいと思います。

鯖寿司の特徴を知る

鯖寿司と相性の良いワインを探すとはいえ、むやみに合わせてみても時間のムダ。

敵情視察ということで、鯖寿司の特徴をしっかりと掴んでからワインを選びたいと思います。(敵ではなく味方ですが)

鯖寿司は京都府や岡山県、若狭地方などが発祥の郷土料理であり、バッテラのように型に入れないのが特徴的な棒寿司の一種です。

調理方法は多種多様ですが、一般的に使用される食材は、「鯖、米、米酢、みりん、昆布、砂糖、塩」といったところ。

これらの特徴をベースにワインを合わせていくのが、成功の秘訣となります。

ワインに合わせるには難しい要素だらけ…

前述した鯖寿司の要素を振り返りましょう。

「鯖、米、米酢、みりん、昆布、砂糖、塩」。

要するに、鯖寿司はある意味で、“しめさばと酢飯の融合体”と考えることもできそうです。

しかし、しめさばとワインを合わせるのはかなり難しいことで知られています。

絶対にダメ!とはいえませんが、米酢の強い酸味とワインのまろやかな酸味がぶつかったり、鯖などの青魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)が由来となった生臭みと喧嘩したり、血合いの風味と喧嘩したり…。

また、昆布が持つヨードのニュアンスとワインの果実感とぶつかりやすくなったり、赤ワインであればタンニンを多くふくむことから口内でのバランスが崩れてしまうなど、数多くのハードルが存在しているのです。

生臭さはマヨネーズで抑えられたり、コショウ、オリーブオイルなどを駆使すればワインとの親和性が高まりますが、もはや「鯖寿司でなくて良くね?」というアレンジしてしまっては意味がありません。

一体、どんなワインを選べばよいのでしょうか…。

手軽に合わせるなら甘口ワイン

鯖寿司に合わせるワイン選びとして、単純な発想から二つの方向性が考えられます。

  • 個性のないワインで攻める
  • 酸化的なニュアンスのトリッキーなワインで攻める

まず、鯖の生臭さや米酢の特徴的な風味とバッティングさせないためには、鉄分が少なく、香りもフルーティー過ぎず、酸味・渋みもほどよいものを選ぶ必要があるでしょう。

きいろ香などではない甲州、新酒レベルのマスカット・ベーリーA、ボディと香りの弱い国際品種から造られた日本ワインなどがイケそうです。

一方、逆転の発想で酸化的なニュアンスのあるナチュール系や硫黄のニュアンスが強いワインの場合、鯖の風味を包み込む理由から意外に良い相性を示します。(実際に一流の鮨店でも、しめさばにはこういったワインをおすすめしています)

とはいえ、せっかくの鯖寿司ペアリングです。

わざわざ要素の弱いワインを選ぶのアレですし、酸化的なニュアンスのワインは産地と生産者を知る必要があるので選ぶのが難しく(または、ワイン自体の個性が強過ぎて好みが分かれる)、ふと思い立ったら手軽にできるペアリングとはいえません。

そこで…おすすめしたいのが、甘口ワインなのです。

鯖寿司に合う要素が多い

甘口ワインといえば、ボルドーのソーテルヌやドイツ、ハンガリー、オーストリアが有名ですが、基本的には世界のワイン産地で造られています。(もちろん日本でも)

甘口ワインと鯖寿司など、ますます想像できない組み合わせなような気がするのですが、意外や意外。

これがなかなかイイんです。

まず、甘口ワインの柑橘や杏、フローラルな香りは甘さを兼ね備えた風味となるため、一般的なワイン以上に強烈です。

前述したように、爽やかなフルーティーさやハーブなニュアンスは昆布や鯖の風味とぶつかりますが、これくらい強くなると逆に青魚特有の金属臭を和らげてくれます。

さらに甘口ワインは甘味がありながら酸味もシャープなので、鯖の脂をしっかりと切ってくれて後味もすっきりした印象に。

また、注目なのが酢飯との相性。

鯖寿司のような具材に味がつけられている、「すし」の場合、砂糖や塩分濃度が高い傾向にあり、さらにお酢の使用量も多くなるといわれています。

関西の酢飯が甘い理由のひとつですが、鯖寿司の場合、甘口ワインの甘酸っぱいニュアンスと酢飯の風味のバランスがよくなると考えられるのです。

ちなみに、鯖寿司といえば日本酒を合わせたくなるものですが、じつはフルーティーな純米吟醸系というよりは、甘味の強い日本酒と合わせるとよい…と指南されています。

甘口ワインと鯖寿司をペアリングさせること自体は、そこまでおかしい話ではない…ということになるでしょう。

実際に組み合わせた結果

論より証拠ということで、実際に甘口ワインと鯖寿司を合わせてみました。

本来ソーテルヌやドイツのアウスレーゼ以上の甘口ワインが良さそうですが、こちらは日本ワインを紹介しているサイトですので、今回は〈五一わいん 氷菓の雫 ナイヤガラ〉をチョイスしました。

鯖を一口食べたら、〈五一わいん 氷菓の雫 ナイヤガラ〉を合わせます。

鯖の風味をまろやかな甘味とデラウェア特有の風味が包み込み、生臭みは一切感じません。

酢飯との相性もいいですし、酸味もしっかりとしたワインなので後味もすっきりしてイイ感じです。

〈五一わいん 氷菓の雫 ナイヤガラ〉であれば、鯖身の使用量が多くない、しめさばの刺身やにぎり寿司あたりと合わせてみてもいいかもしれませんね。

鯖をつまみにワインを楽しもう!

鯖というとワインと合わせることを敬遠しがちですが、じつはワインと相性がよい食材としても知られています。

今回は、かたくなに伝統的な鯖寿司との相性を探求しましたが、揚げたり、洋風にしたり、味噌煮にして赤ワインと合わせるなど、ペアリングの可能性は無限大です。

さらに鯖は栄養が豊富であることから、高い健康効果も期待されています。

鯖寿司と甘口ワインはもちろん、鯖をつまみにワインを楽しむ日々を送ってみてはいかがでしょうか。

参考

料理書にみられるすしの構成要素の分析

和食とワイン 田崎真也&高橋拓児

酒とつまみの科学 成瀬宇平

オーストリアワイン、江戸前鮓と会席料理 岡田壮右