近年、“ナチュラルな造りのワイン”を飲んだことをきっかけとしてワイン好きになる方が多いようです。

こういったワインには大量生産されているワインには無い独特の風味があるため、あまりに酷い造りのワインでない限り自分も好んで飲用しています。

さて、こういったナチュラルな造りのワインの多くは醸造学的な観点から、「品質不良」の烙印を押されるのが常です。

この品質不良の要因の大部分はオフフレーバーと呼ばれる欠陥臭の存在であり、正しいワイン造りを目指す人にとってはあまり好ましいとはいえない香りとされています。

しかし、不思議なことに一部の人たちは(自分もふくめ)このオフフレーバーを好む傾向にあり、程度によってはワインの複雑な風味・香味に貢献しているとすら考えているようです。

ここでは、ナチュラルな造りのワインでよく発生する代表的なオフフレーバー(オフと考えない人もいますが)の種類とその魅力について考えていきたいと思います。

ブレット(フェノレ)

ナチュラルな造りのワインから感じられる香りの代表例といっても過言ではないのが、ブレット(フェノレとも呼ばれる)。

ブレタノミセスという酵母が関連するオフフレーバーですが、これを感じさせるワインは日本でも多く見受けられます。

ブレットは、4-エチルフェノールや4-エチルグアヤコールが関連するフェノール系異臭のひとつですが、馬小屋とか農場臭、プラスチックの香りなどロクな評価を得ていません。

ただし、このブレットは少量であればワインに複雑性を感じさせるということで高く評価されている向きもあります。

とくに、4-エチルグアヤコールが関連するオフフレーバーとして、クローブやスモーキーという評価があるため、少量であればワインに奥行きが出てくるかもしれません。

また、異臭とはワイン自体がそれをマスクするほどほかの要素が勝っていれば、それはそれで余韻の上でほかにはない風味になるとも考えられます。

事実、ボルドーやコート・デュ・ローヌの高級ワインにはブレットが多く含まれているものが多かったという研究結果などもあるなど、旧世界のワインやそのクオリティを目指す生産者にとっては重要な要素となっています。

もちろん、ほどほどの量というところがポイントですので生産者の経験値がモノをいいそうです。

白のブレット(フェノレ)

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ちなみに、ブレットというと赤ワインのオフフレーバーとして有名ですが白ワインにも存在しています。

4-ビニルフェノールや4-エチルフェノールが関連するといわれており、キユーピー人形や薬品など、こちらもあまり好まれない香りとされています。

これも本当にわずかに感じるだけであれば面白いかもしれませんが、あまり強過ぎるとやはり品質不良のレッテルを貼られてしまうかもしれません。

酸化による影響

ワインを製造する際、もっとも注意を払うべきポイントが「酸化」です。

酸化についてはひとつのテーマに値する重要なことなので細かな部分は省きますが、過渡な酸化はオフフレーバーどころか、ワインを大きく劣化させることは間違いありません。(シェリーなどは別)

酸化によって起こるオフフレーバーの代表例が、アルデヒド臭でしょう。

そして酸化が進むと焦げたような香り、醤油、老酒などもはやワインの原型が消え去るような香りを放つようになってしまいます。

酸化による影響は、購入してきたワインのコルクを抜栓した後、酸化的環境にて1週間ほど放置しておけば簡単に確認可能です。

ナチュラルな造りのワインの中には、この酸素管理をおろそかにしたものが一部存在しており、その存在の是非も議論されているところです。(徹底したナチュラル主義であるとか、希少なマイクロワイナリーだからとか、品質ではない部分で評価されるのはどうか?という部分)

しかし、前者は完全に酸化であり、品質の高いナチュラルな造りのワインは「酸化的」と表現されているよう。

例えば、樽熟成は酸化的熟成のひとつですが、ワインの品質向上にとってプラスとなる酸化であればそれは、「オフ」ではないフレーバーとなりえます。

例えば、アルデヒド臭ですが、リンゴを切った時の断面の香りなどと表現されることもあります。

亜硫酸無添加のワインなどは酸化的なワインになりやすいのですが、それ由来の香りの程度が爽やかなリンゴのニュアンスや木の実であればむしろ喜ばしいと感じる方も多く存在するでしょう。

「面白い香り」と称されるナチュラルな造りのワインは、「品質の高い酸化的なワイン」ともいえるということです。

揮発酸

揮発酸は、ヴォラタイル・アシディティの日本語訳で、よく「VA」という呼ばれています。

ワインの揮発酸は、プロピオン酸やブチル酸、葉酸などいろいろありますが、おそらくオフフレーバーに最も重要なのは酢酸でしょう。

醸造工程の中のどこかでワインが酢酸菌によって汚染されることで、酢酸や酢酸エチルが生成され欠陥臭をワインに与えます。

「酢エチ臭」とも呼ばれており、セメダインのような香りがあり間違いなく多すぎれば品質不良。

フランスの原産地呼称制度における規定やO.I.V(国際ぶどう・ぶどう酒機構。Office International de la vigne et du vin)などで1ℓ当たりの揮発酸のレベルが定められているようですが、それでもナチュラルな造りのワインには製造の都合上、それなりの揮発酸は含まれています。

しかし、仮に多くの揮発酸が含まれていたとしても、それをカバーするだけのアロマがワインに存在していれば複雑性のあるワインとして、「正解」となることもあるようです。

出会ったナチュラルな造りのワインが美味しいと思ったら、じつはハンパではない揮発酸レベルだった…ということも全然あり得ます。

個性にハマる!

ナチュラルな造りのワインから感じられる、一般的なオフフレーバー要素はまだまだたくさんあります。

とはいえ、全てに通じることは結局、「バランス」です。

例えば、ナチュラルな造りのワインは微発泡なものが多いですが、これはナチュラルな造りであるが故に瓶内に残った一部の酵母が再発酵して発生するもの。

大量生産のワインであれば不安になりますが、ナチュラルな造りのワインであればその生命力を感じ、好ましいとすら思うはずです。

ぶっ飛んでしまっているナチュラルなワインも存在しますし、その逆で恐ろしいほどキレイなナチュラルな造りのワインも存在します。

こういった事実を知った上でワインと対峙すれば、ナチュラルな造りのワインの味わい方が必ず変わってきます。

品質不良と見なされるワインも、「個性」と捉えてみる。

ぜひ、フレーバーに意識を向けてナチュラルなワインを探してみてはいかがでしょうか。

参考

ワインの香りの評価用語/後藤 奈美
自然派ワイン入門 | イザベル・レジュロン, 清水 玲奈