ワインの代表的な添加物といえば、亜硫酸塩。

ヴァン・ナチュールやナチュラルな造りのワインがお好き方であれば、ワインに亜硫酸塩が添加されているか否かといった部分がとても気になるはずです。

昨今、世界でヴァン・ナチュールやナチュラルな造りのワインが人気を博しており、日本ワインにおいてもこのような造りのワインが多く見受けられるようになりました。

そして、これらワインを語る上で必ず出てくるのが亜硫酸塩の話です。

本記事では、初心者向けにヴァン・ナチュールやナチュラルな造りのワインと亜硫酸塩の関係性について簡単に解説していきたいと思います。

亜硫酸塩の働きを知ろう

ワインの添加物のひとつ、亜硫酸塩。

消費者には、「亜硫酸塩=添加物→つまり悪」として見られることが多いようですが、まずその働きを知ってから判断してみましょう。

亜硫酸塩とは?

亜硫酸塩とは、硫黄を焼いた際に生成される物質で数多くの食品に使用されている食品添加物です。

亜硫酸塩は古くより消毒などの目的で使われており、ワインにおいては酸化や劣化、微生物汚染を防ぐために添加されています。

古代よりワインに添加されていると言い伝えられているものの、その説は眉唾ものといった意見があり、19世紀頃に本格的にワインに使用され始められたともいわれているようです。

ワインにおける亜硫酸塩の働き①

ワインに亜硫酸塩が添加される目的は、上記で解説したように酸化や微生物汚染などを防ぐ目的です。

ただし亜硫酸塩が酸化を防ぐのではなく、酸化によって受けたダメージを抑止する働きがあります。

一例として、ワインが空気中の酸素によって酸化した場合の流れを記します。

ワイン中に含まれるフェノール類が酸素と触れて反応を起こす

キノンや過酸化水素といった、酸化作用が強い成分が生成される

放置するとワイン中のさまざまな物質と反応を続け、ワインの香味を劣化させる

さらに、アルコールと酸素の反応で発生するアセトアルデヒドという成分が生成

酸化特有の焦げや酸っぱい香りを発生させる…など

ワインにとって害となるこれらの生成物と亜硫酸塩(厳密には遊離亜硫酸)は結合しやすいため、ワインへの被害の拡大を抑え、ワインを劣化から守ってくれているわけです。

ワインの製造工程、さらに抜栓した後に酸化から100%逃れることはできないため、亜硫酸を添加していないとワインの劣化スピードは著しく進みます。

ワインにおける亜硫酸塩の働き②

亜硫酸塩はワインが完成した後、瓶詰め前に添加されることが多いですが、製造途中の至るポイントでも使用されています。

その代表的なものが、マストの状態での添加です。

マストとはアルコール発酵が始まる前の果醪の状態ですが、ブドウを収穫して破砕する際に状態がよろしくないブドウがマスト内に混ざってしまうことがあります。

こういった状態の悪いブドウは酸化酵素(オキシダーゼ)の濃度が高く、亜硫酸塩添加などの対策を取らなかった場合、マスト内で酸化反応が発生することに。

ワイン中の酸化しやすい成分が酸化酵素によって不快な香りを発したり、味わいを劣化させるような成分が生み出されるなど、低質なワインが生み出されてしまう恐れがあるのです。

亜硫酸塩は抗菌作用をもっていることから、これら酵素を破壊したり、またワインの発酵に悪影響を与える野生酵母やバクテリアなどを無力化する働きがあり、ワイン造りにおいて必要不可欠なものとされています。(醸造機器にも使われる)

亜硫酸塩はナチュラルなワインの魅力を無くす?

亜硫酸塩はワイン造りには欠かせない添加物です。

一方、冒頭でお伝えしたようにヴァン・ナチュールなどのナチュラルな造りのワインには亜硫酸が少量、また使われていないものが少なくありません。

2020年春頃にスタートした自然派ワインの認証制度である、「ヴァン・メトード・ナチュール」の認証マークにも…

  • 亜硫酸塩を一切添加していないワイン
  • 亜硫酸塩を最大30mg/lまでしか添加していないワイン

といった2種類が用意されているなど、ヴァン・ナチュールを名乗るためには亜硫酸塩をできる限り使用しないことが定められています。(もちろん、加熱殺菌法や逆浸透膜、濾過なども認められていない)

一部有識者の中には、かなり曖昧な認証制度であり、亜硫酸塩添加量に関しても甘いといった声がありますが、ナチュラルな造りのワインを名乗る上で“亜硫酸塩の添加はあまり好ましくない”といった方向性については一致していそうです。

なぜ、ナチュラルなワインに亜硫酸塩の添加は認められないのでしょうか…。

野生酵母の魅力を排除するから

亜硫酸塩の働きでお伝えしたように、亜硫酸塩は野生酵母を駆逐する働きをもっています。

しかし、近年酵母の中でも野生酵母の一部がワインの香味に複雑性を与えているなど、重要な役割をもっていることが発表されています。

また、有名な研究に、ニュージーランドで酵母研究をするマシュー・ゴダードのチームが、土地によって特有の遺伝子を持つ酵母(サッカロミセス・セレヴィシエ)が存在し、その土地特有の発酵をしている可能性があると発表。

仮に亜硫酸塩を使って野生酵母を駆逐し、培養酵母でワインを醸せばその土地(テロワール)固有の味わいではなく、どこにでもある金太郎飴のようなワインが仕上がってしまうという見解です。

使う必要があまりないため

亜硫酸塩を使うことは健全なワイン造りおいて重要ですが、生産者の中にはそもそも亜硫酸を使う必要がないといった見解をもっている方もいるようです。

そもそも亜硫酸塩が添加されるシチュエーションで最も多いのは瓶詰め前ですが、亜硫酸の働き上、そのうち亜硫酸塩は存在しなくなってしまいます。

亜硫酸塩には、遊離亜硫酸と結合亜硫酸の二つが存在しており、実際に添加した量全てが働いてくれるわけではなく、仕事をしてくれるのはごく僅かな量の活発な遊離亜硫酸分子のみ。

当然、ワイン中でいろいろな物質と結合した後に遊離亜硫酸分子は姿を変え、最終的に亜硫酸は消滅します。(早くて3ヶ月、遅くとも2年以内には消滅)

そもそも発酵の工程で亜硫酸は生成されるため、それを考えた上でも無理に添加してワインの風味を台無しにするのは違うのでは、という考え方もあるようです。

哲学

ヴァン・ナチュールやナチュラルなワインを造る生産者の多くが、テロワールを大切にしています。(一部、マーケティング目的で名乗っている生産者もいますが…)

「ヴァン・メトード・ナチュール」をはじめ、ヴァン・ナチュールを定義づける認証ではワインの添加物は亜硫酸塩のみで、ほかは認められていません。(ワインには多くの添加物が認められています)

ナチュラルな造りのワインはテロワールやヴィンテージを最大限表現したものと謳っている以上、できる限り自然な姿で瓶詰めしたいと思うのは当然でしょう。

また、諸説ありますが亜硫酸塩は健康に悪いとか二日酔いの要因とか、劣化ワインをごまかすために使っているといった消費者心理も関連しているかもしれません。

善し悪し以前に、まずは亜硫酸塩について知ろう

亜硫酸塩は、健全なワインを造るためには重要な役割を担っている添加物です。

ヴァン・ナチュールやナチュラルな造りのワインを健全に造るためには、亜硫酸塩の働きを必要とせずにワインを醸す技術や経験、科学的知見が必要でしょう。

個人的にも、“おもしろい”と感じられるのは亜硫酸塩を使わなナチュール系のワインですが、だからといって亜硫酸塩を規定通り使う一般的なワインが美味しくないとは思いません。

善し悪しを判断するのは個人の自由です。

しかし、先入観だけでなく亜硫酸塩について理解した上で、自分で選ぶワインを判断してみるのも必要なのではないでしょうか。

参考

自然派ワイン入門 | イザベル・レジュロン, 清水 玲奈

“Vin méthode nature”, the natural wine method, new private natural wine label, with fuzzy rules

https://www-bkwine-com.translate.goog/features/winemaking-viticulture/vin-methode-nature-private-label-natural-wine/?