ワインの味わいを表現する際、ミネラリティという言葉を使う方は少なくありません。

“ミネラリティ”は、そのワインにほのかな塩味や骨格、ピュアな風味を感じた時に使われていますが、その感覚は人によって違うようです。

しかし、そもそもミネラリティという表現が合っているのか、その使われ方に疑問を投げかける専門家も存在します。

ここではテイスティング時に使われている、“ミネラリティ”について考えていきましょう。

ミネラリティとは?

ワインをテイスティングする際、“ミネラリティ”と表現される時はどんな場合でしょうか。

固くフレッシュな感じ、塩気をやや感じる場合、酸度が高くキシキシした感じ…。

人それぞれのミネラリティーの定義は違うと思いますが、専門家の多くは「湿った岩」という比喩で用いることが多いようです。(※火打石という表現もよく聞く)

こういったミネラリティのあるワインができあがるのは、“使われているブドウ樹の根が地中奥深くまで伸び続け、土壌の持つミネラリティーを吸収するから”という説が有名ですが、科学者の多くは基本的に因果関係はないと考えています。

なぜ、世界の科学者たちは土壌とミネラリティの関連性はないというのでしょうか。

ミネラリティと土壌

ミネラルには、「亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム・セレン、マグネシウム、リン」といった成分があります。

そもそも地質学的には鉱物を英語で「ミネラル」と呼んでおり、あらゆる土壌や岩石は地質学的にはミネラルを含有しているため、土壌からブドウの根がミネラルを吸い上げるといった説は間違いないように感じるでしょう。

しかしミネラルは大変複雑な物質であるほか、“不溶性”であることから地中に溶け出すことはほぼあり得ないのだそう。

とはいえ、ブドウの生育にミネラルは少なくとも14種類以上は必要といわれています。

つまり、どこかの段階でブドウ樹はミネラルを吸収しなければなりません。

可能性としてはブドウ樹が土壌からミネラルを吸い上げるのではなく、畑の表面や腐葉土から吸い上げているのではないか、と考えられています。

ミネラルな味わいを感じることはできる?

土壌とミネラリティの関係性は微妙であるものの、ブドウは多少なりともミネラルが含まれていることは間違いありません。

つまり、ワインからその味わいを感じることができると考えられます。

しかし、ブドウがミネラルを吸い上げたとしても人間が関知できるレベル含有量にはならず、醸造などワインが完成するさまざまな段階でミネラルがもたらす個性は消滅してしまうという意見が一般的。

さらにブドウ果粒に含まれている80%近くは水分であり、ほか含まれている成分は糖分、有機酸、食物繊維、ポリフェノール類が主体であるため、ミネラルが占める割合はわずか0.3~0.5%。

0.2%程度という意見もありますが、そもそもこんな数字では、神の舌を持っていない限り、ミネラルを感じることは不可能ということになります。

ミネラリティなワインの正体とは?

ワイン専門家の中にも、“ミネラリティなワイン”を具体的に説明できる人は少ないそうです。

考えられる理由として、“はっきりとしたことがわかっていない”、“人によってミネラリティの基準が違う”といった要因が挙げられます。

“はっきりとしたことがわかっていない”というのは前述したようなことをふくめ、ブドウマストの窒素不足による化学反応がそういった風味を生み出しているとか、硫黄化合物がそういった風味をもたらしている…といった説もあるからです。

例えば、ミネラルなワインを表現する上で代表的な“火打石”といった例えがありますが(シャブリが代表的)、この香りを感じさせる成分のひとつが、土壌に関連しない「ベンジルメルカプタン(以下、BM)」という硫黄化合物の仕業という見解。

そのほか、圃場が海に近いためブドウが海風からのミネラルをもたらす…といった形でミネラリティが使われることもありますが、圃場近くの枯草から湿った岩の臭いを感じさせる「ぺトリコール」という成分がワインに何らかの影響を与えているだけ…という見解もあります。

塩っぽい、緊張感がある、なんともいえないミネラルウォーターを飲んだ時のようなピュアな風味など、人によってミネラルの定義も違うなど、“ミネラリティ”はまだまだわからないことが多いテイスティング用語でもあるのです。

表現方法にも疑問を持とう!

ワインテイスティング用語における「ミネラル」という言葉は、1980年から前の時代には存在していなかったそう。

つまり、近年多く使われるようなったテイスティング用語であることがわかります。

もちろんワインテイスティングの目的は相手にワインの個性を伝えるためなので、「ミネラリティ」が相手に伝われば問題ないでしょう。

とはいえ、こういったワイン用語について深く考えてみると意外な結末にたどり着くこともあります。

ぜひ、よく耳にするワインテイスティング用語を、あらためて深堀りしてみてはいかがでしょうか?

参考

ジェイミー・グッド – ワインの科学