以前、うなぎとワインの相性について言及しました。

“うなぎとワインは好相性”という結論で締めくくったものの、ひとつ問題がありました。

それが、「日常的に試せるペアリングではない」ということです。

クリスマス時期だけに飲む高級シャンパーニュと同じように、土用の丑の日付近でしか思い浮かばないレアなペアリングなため、“あこがれ”として脳裏に焼き付けただけで終わってしまう方も多かったかもしれません。

そこで今回、うなぎに変わる救世主「アナゴ」をフューチャー。

日常的に楽しめる「アナゴ×ワイン」のペアリングについてお伝えしていきたいと思います。

アナゴはうなぎ?

うなぎがダメなら、 アナゴでいこう。

こういうといかにもアナゴの地位が低いイメージを抱かせてしまうのですが、じつはアナゴもうなぎと同じウナギ目アナゴ科に属する魚類のひとつ。

一般的に「穴子」という漢字で知られているものの、「海鰻、海鰻鱺(英語ではsee eelとも)」とも書くことからうなぎに近しいことがわかります。

さらにウナギもアナゴも幼生から稚魚に変態するのですが、うなぎは川を遡り、アナゴは海に残るという違いだけ。

基本的には別の魚類となりますが、そこまで関係性は遠いわけではない、ということなのです。

バリエーションが多く使いやすい

とはいえ味を確認すると、うなぎとアナゴは全く別もの。

アミノ酸量でいうと二つの魚類はほとんど差がないものの、脂肪の量に大きな差があったのです。(もちろんうなぎの方が豊富)

私たちの舌には味蕾と呼ばれる味細胞の受容体があり、五味の強弱などを受容することでいろいろな味わいを感じます。

以前、NHKのとある番組で九州大学のグループが脂肪味に反応する神経を発見した…ということが放映されていましたが、脂肪味と同時に甘みやうま味も感じている可能性があると示唆されていました。

要するに、同じアミノ酸量であるうなぎとアナゴですが、脂肪量が多いうなぎの方を私たちは美味しい!と感じやすいと考えることができそうです。

とはいえ、アナゴは淡白であるために蒲焼きや塩焼きはもちろん、

  • 天ぷら
  • 柔らか煮
  • 煮つめたっぷりの寿司
  • バッテラ
  • 照り焼き
  • 唐揚げ…etc

などなど、さまざまなレパートリーを楽しめます。

うなぎも汎用性が高いとはいえ、業者でもない人が日常的に蒲焼きや白焼き以外を楽しむか…といわれると少し違ってくるでしょう。

やはり、庶民の味方はアナゴ。

アナゴとワインを楽しむのがおすすめなのです。

アナゴとワインを合わせてみよう

アナゴをワインに合わせる場合、やはり新鮮で処理がしっかりとしたものを使いましょう。

アナゴ特有の生臭さは、“ぬめり”や“血”なのでしっかりと処理されているもの、そして半額シールが貼ってあるものより新鮮なものを購入したいところです。

基本、アナゴ特有の風味はあるもののそこまで主張しないため、香りが強すぎたりアルコール度数が高過ぎるもの、樽熟成が強過ぎるものなどはアナゴの良さをマスキングしてしまう可能性があります。

それらを考慮した、アナゴとペアリングしやすそうなワインの組み合わせをご紹介しましょう。

白ワイン

塩でいただく天ぷらや塩焼きの場合、甲州やリースリング、グリューナー・ヴェルトリーナーなどさっぱりとした白ワインがおすすめです。

山椒などを一緒に使ったものは、スパイシーな白コショウのニュアンスのあるゲヴュルツトラミネールもおもしろいかもしれません。

少し甘みのある煮アナゴなどは、デラウェアやケルナー、甘みを残した日本の白ワインなどがよいでしょう。

赤ワイン

甘く煮付けたアナゴや煮ツメをたっぷりと塗ったアナゴ寿司、照り焼きや蒲焼きを楽しむのであれば赤ワインがよいでしょう。

ちなみに、砂糖(ザラメ)、醤油、みりん、日本酒を煮詰めたこのタレ。

加熱によって糖とアミノ酸が反応する「メイラード反応」が起こるため、香ばしく美味しいそうな風味が特徴です。

そうなると、タンニンが強過ぎずフルーティーさとスパイシーさを感じるものがいいかもしれません。

また、前述したようにアナゴは脂肪量が少なくさっぱりとしています。

そのためウナギの場合はカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどもいいのですが、アナゴだとやや渋みが口に残ってしまう可能性があります。

そのため、甘辛で香ばしいタレが主張することから、マスカット・ベーリーAやピノ・ノワール、日本産のエレガントなシラーや長野県産のメルロー、北海道のツヴァイゲルト、ブラック・クイーンなどがおすすめです。

アナゴなどに使われるタレは日本の赤ワインと相性抜群です。

ぜひ試してみてください。

勝沼醸造のベーリーA×アナゴの握り寿司

実際にアナゴと赤ワインを合わせてみました。

今回は、勝沼醸造の〈山梨県収穫ベーリーA ヴィンテージ 2019〉

ちなみに、マスカット・ベーリーA最大の特徴は「フラネオール」と呼ばれる、ストロベリー様の甘くフルーティーな甘い香気成分です。

同ワインもしっかりと甘やかでチャーミングなベリー感を感じます。

さらにフレンチオーク樽で熟成させていることから、ほのかなスパイシーさを感じる高品質なマスカット・ベーリーAです。

さて、そこに合わせるのは“アナゴの握り寿司”。

たっぷりとタレをかけたアナゴの握り寿司、そして甘やかな香りとスパイシーなマスカット・ベーリーA。

風味の方向性が一緒である上に脂っぽさがなく、双方後味がスッキリとしているので抜群のペアリングに。

ほのかにタンニンを感じるのですが、アナゴ特有の臭みを抑えてくれるのでそれもまた

食べ飽きしない、本当におすすめの組み合わせです。

たまにはアナゴとワインで乾杯!

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ここまで書いていて薄々気がついたのですが、アナゴもそこまで頻繁に食べるような食材ではないかもしれません。

とはいえ、うなぎに比べるとお寿司で食べたり天ぷらで食べたりする機会も多く、「和食(とくに江戸前系)」がお好きな方であれば月に1回は楽しまれているような気がします。

和食店やお寿司屋さんに行った時にアナゴを所望される方もいるでしょう。

そんなときは、ぜひワインを合わせてみてください。

なんとなく、“通”な雰囲気を醸し出せるかもしれませんよ。

参考

Fatty acid taste quality information via GPR120 in the anterior tongue of mice ,Acta physiologica, 10.1111/apha.13215