日本ワインを代表する白ブドウ品種のひとつ、甲州。

甲州はワイン用としてはもちろん生食用も兼ねていることから、日本人にとってもっとも馴染み深いブドウのひとつといっても過言ではないでしょう。

さまざまなスタイルで醸されている甲州ですが、近年品質が格段にアップしている上に輸出量も増加傾向。

今だからこそ、甲州について理解することはとても重要です。

ここでは、日本ワインの重要品種「甲州」について徹底解説していきます。

甲州の概要

甲州は完熟すると果皮が薄い藤紫色になる、“グリ系品種”のひとつ。

日本の在来品種で、古くから日本で栽培されていたといわれているほか、日本で初めて本格的にワインが仕込まれた際も甲州が使用されているなど、日本ワインの歴史を語る上で外すことができない品種です。

ちなみに、国税庁による国内製造ワインの概況(平成30年度調査分内の 原料用ぶどう品種(白上位10種)の主要産地(ぶどう産地別受入数量)によると…

  • 山梨県 3,293t
  • 島根県 78t
  • 山形県 27t

となっていることから、圧倒的に山梨県で栽培されていることがわかります。

1601年頃までは山梨県(当時の甲斐国)のみに栽培が限定されていたり、江戸時代中期頃には献上品として利用されていたことなどから、今もなお山梨県では甲州の栽培が盛んです。

また、各地で大正時代頃に栽培が試みれた結果、島根県での栽培に適していたこともあり現在は大産地のひとつに。

山形県も江戸中期に甲州の栽培が始まっていたといわれているようで、今も産地のひとつとして機能しているようです。

甲州の来歴

前述したように甲州は古くから山梨県で栽培されていたという記録が残っていますが、じつはその来歴が判明したのはつい最近。

今まで、1186年に当時の八代郡祝村(現甲州市勝沼町)の城の平で山ブドウの変異種を見つけた雨宮勘解由が甲州をつくったとされる、「雨宮勘解由」。

718年、奈良時代に西方よりやってきた僧、行基が薬師如来から授けられたとされる「大禅師説」という2つの来歴説がありましたが、2013年に独立行政法人種類総合研究所の後藤奈美氏が甲州のDNAを詳細に解析したことから、科学的な来歴が判明しました。(核DNAと葉緑体DNAの解析により)

甲州はヨーロッパ系品種のヴィティス・ヴィニフィラと中国の野生種ヴィティス・ダヴィーディの2つのDNAがふくまれた白ブドウで、カスピ海で生まれたヴィニフィラが中国を何百、何千年かけて交雑しながら日本に伝わってきたのではないかと示唆されたのです。

甲州はヴィニフィラ寄りだが、トゲがある?

甲州はヴィティス・ヴィニフィラとヴィティス・ダヴィーディのDNAがふくまれているとお伝えしましたが、研究によると比較的ヴィニフィラ寄りの性格といったこともわかったようです。

後藤氏とアメリカの研究チームの共同研究でおこなわれた核DNASNPs(スニップ)解析によると、甲州は「ヴィニフィラ71.5% 東アジア系野生種28.5%」といった位置にあることが判明。

ヴィニフィラと東アジア系野生種の交雑種が、さらにヴィニフィラと交配したクォーターである可能性が高いが高いのだそうです。

ちなみに、ヴィティス・ダヴィーディは“トゲブドウ”と呼ばれていることから枝に多くのトゲがあるようですが、甲州の枝の付け根にも小さなトゲが見受けられることから、やはりその“性質”は受け継がれているのではないか、ともいわれています。

欧州の良いところ、アジアの良いところを融合して美味しいワインを生み出すといったところなど、さまざまな文化を独自のものしてしまう日本らしいブドウ品種ともいえますね。

甲州の特徴 栽培

甲州は果皮に厚みのあるところが特徴で、一般的なヨーロッパ系品種と比較すると耐病性があることで知られています。

カビ大国とも謳われる日本だけに、そこで今も生き抜いているということ耐病性があることの証でしょう。

ちなみに甲州は樹勢が強いことから多くが棚仕立てで栽培されており、「X字剪定」や「一文字短梢剪定」などの仕立てが主流。

垣根仕立てには向かないといわれていたものの、近年は挑戦・成功している生産者もおり、糖度が高まったり粒が小さくなったりワイン用ブドウとして優れた品質に育つとされています。

とはいえ甲州はヨーロッパ系品種のように糖度が上がりにくい品種であることから、地理的表示の「山梨」を名乗る上で必要な糖度基準も低めの14度に設定されているようです。

多くの生産者は醸造の際に補糖をしている傾向にありますが、糖度を高めたブドウを懸命に栽培したり、あえてナチュラルな味わいを大切にするために補糖を避ける生産者など、今ではその哲学によって違うスタイルの甲州が生み出されています。

甲州の特徴 醸造

甲州の収穫時期は9月中旬から10月後半といわれており、多くのワイナリーが10月頃に甲州を仕込みはじめます。

しかし、近年甲州のポテンシャルを意識した栽培方法も採用されていることから、目指すワインのスタイルに合わせた頃合いで収穫されることも多いようです。

多くの甲州は基本的な白ワインの醸造方法が採用されていますが、さまざまなスタイルのワインを生み出すためユニークな製造方法で仕込まれることも少なくありません。

・シュール・リー

澱と一緒に樽内に一定期間置いておく製法。フレッシュで厚みのある風味に仕上がる。

・スキンコンタクト

破砕後すぐに果皮と果汁を分けず一定期間低温で接触させる製法。果皮由来のフェノールや香り成分が果汁に移行することから、色合いの濃く香しい白ワインができる。

・小樽発酵

小さい樽で仕込むことにより、樽由来の成分が白ワインに付与される。

・きいろ香

近年の研究から甲州にはソーヴィニヨン・ブランにふくまれている各種チオール系物質が存在することが判明。収穫時期を早めたり、この香りをしっかりと出すための酵母や醸造法により柑橘系のフレッシュな香りの白ワインが仕上がる。

甲州はフレッシュ&フルーティーな白ワイン、樽香のある白ワイン、熟成された白ワイン、オレンジワイン、香り豊かなワイン、さらにスパークリングワインの原料としても優れているという研究もあるなど、多種多様なスタイルのワインを生み出します。

さらに近頃では生産者によっては前述した棚仕立てを採用したり区画を限定したり、選抜したものを使うなど、より高品質化への動きが活発化しているようです。

世界に比肩するような最高品質の甲州と出会える日も、そう遠くはないでしょう。

甲州の味わい

甲州ワインは以前、“香りもなく、水っぽい”といったイメージを持たれていましたが、近年栽培技術・醸造技術の向上から、個性がしっかりとわかる味わいに進化したと認識されるようになりました。

色合いは透明度が高く、淡い印象。

柑橘系や青リンゴ、シダといったフレッシュな香りがあったり、仕込み方によっては甘いコンポートの香りやヴァニラも感じます。

酸味は穏やかで、後味にほのかな苦味を感じるところも特徴です。

一部重厚なものもありますが、その多くが洗練されたエレガントで美しい味わいと表現されるものばかり。

パワーが強過ぎない繊細さも、今のワインの潮流に合っていると考えられます。

甲州のペアリング

甲州は、ジャンル問わずさまざまな料理と合わせることができます。

ただし柑橘の風味や繊細が特徴であることから、和食やダシの風味とよく合うことが特徴です。

欧州系のワインのようなパワータイプではないため、料理の味わいを邪魔せずにキレイに流してくれるところが関係しているかもしれません。

寿司や天ぷら、漬け物、うなぎの白焼き、数の子など、生臭みを感じてしまいそうなものとも難なく合わせられます。

ひとつ、とある研究で甲州ワインはシャルドネの約2倍ほどグルタミンが含まれてると示唆されており、これがダシなどの旨味と相性が良くなる理由か…と勝手に推測していますが、これは不明なので真に受けないようにしてください。

甲州は日本の重要品種!

2009年、山梨県内のワイン生産者を中心に甲州ワインEU輸出プロジェクト(Koshu Of Japan:KOJ)といったものも設立されました。

その翌年の2010年には、甲州がOIV(Office International de la vigne et du vin 国際ブドウ・ワイン機構)に登録されるなど、“世界”を視野にいれた活動も活発化しています。

日本ワインの輸出量は、平成30年のデータで72kl。日本酒などと比較するとまだまだ少ないですが、今後品質の高まりと共に増加していくことは間違いないでしょう。

日本ワインを語る上で、まず欠かせない品種である甲州。

海外からやってきた方に堂々と「日本のワインは美味しい」と紹介するためにも、あらためて甲州について深く学んでみてはいかがでしょうか。

参照

DNA多型解析による甲州の分類的検討 後藤奈美

甲州ワインEU輸出プロジェクト

甲州ワインおよびシャルドネワインに含まれるアミノ酸の分析と比 較

ワインの香りについて