日本では、ヨーロッパ・ブドウ(ヴィティス・ヴィニフィラ種)だけでなく、アメリカ・ブドウ(ヴィティス・ラブルスカ種)からもワインが造られています。

ラブルスカ種に属するブドウはコンコードやデラウェア、ナイアガラ、キャンベル・アーリーなどがそれにあたりますが、どれも日本ワインでお馴染みのブドウ品種です。

さて、そんなラブルスカ種から造られるワイン。

「フォクシー・フレイバー」と呼ばれる、独特の香り(風味)を持っていることで知られています。

聞き慣れない…という方もいるかもしれませんが、日本ワイン好きであれば必ず知っておきたい用語。

ここでは、「フォクシー・フレイバー」について、またその魅力を簡単に解説していきましょう。

フォクシー・フレイバーとは?

フォクシー・フレイバーとは、ラブルスカ種(Vitis labrusca 系の交配品種)に存在する、「グレープジュース」のような甘い特徴的な香りを指して使われている用語です。

グレープジュースという表現をみるとポジティブなイメージを抱きますが、ヨーロッパなどラブルスカ種からワインを造らない国のワイン専門家からは、“毛皮のコート、麝香、動物の部屋”などと表現されることが多く、“フォクシー”はネガティブな言葉として捉えられています。

フォクシー・フレイバーは、日本語で「狐臭(こしゅう)」と表現されているため、きつねの臭いが由来していると思う方が多いようですが、その語源ははっきりとわかっていないのだとか。

フォクシー・フレイバーの要因となるエステルと狐の麝香腺から見られるという怪しい説、この香りについて追求した人物がフォックスさんだった説、その昔バージニア州で生息していたブドウが「フォックス・グレープ」と呼ばれていたから…など、多種多様な説があります。

とりあえず、狐の臭いとは関係ないことだけは間違いなさそうです。

フォクシー・フレイバーの香りは個性

カベルネ・ソーヴィニヨンとコンコードのワインを飲み比べしてみてください。

優劣をつけるわけではありませんが、コンコードの風味にはかなり独特なものを感じるため、カベルネ・ソーヴィニヨンに劣るような印象を感じることでしょう。

しかし、じっくりとフォクシー・フレイバーと向き合うと意外にコンコードも複雑な香りを持っていることがわかり、魅力的に感じてくるはずです。

まず、フォクシー・フレイバーを構成する香り成分はアントラニル酸メチル、ο-アミノアセトフェノン等の一連の化合物ということがわかっていますが、これ以外にもさまざまな要因が組合わさることにより、その香りが決定づけられていると考えます。

マスカット・ベーリーAに多く含まれているフラネオール、4-メトキシ–2,5-ジメチル-3-フラノンなど、アメリカ系ブドウに含まれている各種成分が複雑に絡み合うことでフォクシー・フレイバーの香りが形成されているのではないでしょうか。

前述したようにフォクシー・フレイバーは、ワイン専門家や海外産ワイン通には毛嫌いされていますが、冷静に考えるとこれが個性であり、バランスの取り方によっては新しいジャンルのワインのあり方と考えることもできるはず。(古くからあるので新しいわけではありませんが…)

日本ワインの名誉のためにも、これこそ個性であり魅力であることを訴え続けたいと思っています。

マスカット・ベーリーAで実感できる

フォクシー・フレイバーの魅力を体感するためには、その風味がしっかりとわかるワインを飲んでみることが一番です。

となれば、やはりマスカット・ベーリーAから造られたワインでしょう。

マスカット・ベーリーAは、ヨーロッパ系のマスカットハンブルグとアメリカ系のベーリーの交雑育種で生み出されたブドウで、そこから造られるワインからはフォクシー・フレイバーを感じることができます。(ちなみにマスカット・ベーリーBというものもあった)

甘いキャンディ香、綿飴、タンニンの少ないライトボディが特徴と言われていることから海外産ワインと比較してインパクトが弱いと思われがちですが、じつは栽培方法や醸造方法、熟成方法によってそのスタイルに幅が生まれるユニークな品種です。

収穫期を早めてロゼにしたり、収穫期を遅らせてミディアムボディに仕上げたり。

マスカット・ベーリーAに多く含まれるフラネオールを生かした醸造をしたり、数年熟成させてボディ感を与えるなど、生産者によって全くスタイルの違うマスカット・ベーリーAのワインが生み出されています。

フォクシー・フレイバーを逆手にとってそれを生かす造りもあれば、ほかの要素を強めてフォキシーの要素をあえてスパイスとして利用するなど、ヨーロッパ系のブドウではできない、さまざまなアレンジが楽しめるところもマスカット・ベーリーAの魅力でしょう。

また、フォクシー・フレイバーの要素と和食の命である「だし」には共通点があるといわれており、それだけが理由ではないものの、だしを利用した料理とこういったワインは相性がよいということはよく知られています。

栽培、醸造、熟成によってフォクシー・フレイバーの感じ方にも違いが出てくるところが面白いところ。

ぜひ、その個性をマスカット・ベーリーAから体感してみていかがでしょうか。

日本ワインのスタイルのひとつ

フォクシー・フレイバーが強過ぎるため、ほかにワインの持っている要素がマスキングされてしまうのであれば問題です。

とはいえ、近年日本ワインは品質がかなり向上しており、フォクシー・フレイバーとブドウ品種が持つほかの個性とのバランスが優れたものが多く見受けられます。

“この香りがダメだ…”ではなく、これも日本ワインのスタイルのひとつとして真剣に向き合うことで、あらためて魅力が発見できるはず。

次回、一部の日本ワインを選ぶ際、フォクシー・フレイバーといった部分に意識しながら選んでみるのもよいのではないでしょうか。

 

参照

ワインの香りの評価用語

What is a “foxy” wine? | Wine Spectator

Foxy terroir – what are foxy wines?