2018年6月28日、ワインにおける地理的表示(GI)として「北海道」が指定されました。

ワインでは「山梨」に次ぐ2例目で、さまざまな生産基準を満たした後、審査に合格した道産ワインのみ「GI 北海道(GI Hokkaido)」※以下(GI北海道)を表記することができます。

日本には数多くのワイン産地がありますが、その中でも北海道が指定されたこと意義深いことです。

ここでは、「GI 北海道」の生産基準について簡単にまとめてみたいと思います。

「GI 北海道」に認定されているワインを選ぶ際の参考にしてみてください。

「GI 北海道」の生産基準とは?

GIとは、「Geographical Indication」の略で地理的表示を意味しています。

「A.O.C.〇〇」のように、その産地を商品名に表示できることから厳しく生産基準が設けられているのが特徴です。

「GI 北海道」の生産基準は大きくわけてこれら4つに分けられています。

  • 酒類の特性
  • 酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて
  • 酒類の原料及び製法
  • 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

少し専門的な内容なので、注目すべきトピックを抜き出しながら解説していきましょう。

酒類の特性

酒類の特性とはそのワインが持つ性質や特性のことで、「GI 北海道」の表示をするためには「官能的要素」「科学的要素」における基準が設けられています。

官能的要素

「官能的要素」の場合にはこれらの要素が求められるようです。

白ワイン

色合いは透明に近いものから淡黄色。豊かで、華やかな花や青リンゴや柑橘系の果実の香り。辛口は酸味が鮮明に感じられ、甘口は酸味と甘味の調和のバランスが取れたているフルーティで軽快なもの。

赤ワイン

色合いは薄めの鮮紅色からやや濃い赤紫色。スパイスや果実の香りと軽快な熟成香を有している。味わいは中程度もしくは軽めで、はっきりとした酸味と穏やかな渋味があり、熟成されても果実味を感じるもの。

ロゼワイン

色合いは、一般的に紫系からオレンジ系。豊かな果実の香り。甘口のものでは原料ブドウ連想させるほど良い甘味と酸味。辛口はその酸味が鮮明に感じられ、いずれもフルーティーかつ爽やかであるもの。

これらを見る限り、「GI 北海道」を名乗るためには前提として「健全なワインであること」といった印象を受けます。

“珍しい味わい”、“独特”といったワインも魅力的ですが、「北海道」という名を冠するためには、「健全」であることが重要といった視点なのかもしれません。

科学的要素

前述した官能検査は人間の嗅覚や味覚などによる基準ですが、「GI 北海道」には“アルコール分、総亜硫酸値、揮発酸値及び総酸値”といった科学的要素の基準もあります。

例えばこれら要素が求められます。

  • アルコール分 14.5%以下
  • 総亜硫酸値 350mg/kg以下
  • 揮発酸値 1.5g/L以下

「GI 北海道」の特徴は補酸についての規定です。

補酸をすることなく果汁糖度が21%未満のぶどうを原料とした場合、白ワイン及びロゼワインの総酸値は5.8g/L以上、赤ワインで5.2g/L以上。

一方、果汁糖度が21%以上のブドウを原料とした場合、白ワイン及びロゼワインの総酸値は5.4g/L以上、赤ワインで4.8g/L以上であるもの、とされています。

酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

“酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて”。

解釈は人それぞれですが、要するに製造されたワインの特性がその産地らしさを表現しているか、という意味合いと捉えるとわかりやすいかもしれません。

この生産基準には、「自然的要因」「人的要因」があります。

それぞれ簡単に解説していきましょう。

自然的要因

「GI」として指定されるためには、ワイン産地として良質なブドウが収穫できる自然的要因に恵まれている必要があります。

北海道は冷涼でブドウ生育期の積算温度が低く、最も冷涼な気候区分「RegionⅠ」に区分されているようです。(欧州系白品種には国内でも最も適した気候)

さらに北海道の主なブドウ栽培地は、4〜10月の日照時間が長く気温の日較差が大きいため糖度の高いブドウの収穫が可能。

さらに、冷涼であることから有機酸が豊富なブドウが収穫できるいう他産地では珍しい特徴があるといいます。

また、4~10月の降水量が700mm以下と少なく、健全なブドウを収穫できるところも特徴。

近年、きれいな酸味と果実味を求めて標高の高い場所に圃場を開く生産者が多いですが、北海道の場合は標高200m以下でもこのようなブドウが収穫できるというところは、他産地との大きな違いでしょう。

人的要因

北海道におけるワインの歴史は、1875年(明治8年)にアメリカ系ブドウを札幌に移植し、翌1876年には開拓使の開拓殖産業として札幌に葡萄酒醸造所が開設したことに始まるとされています。

紆余曲折がありワイン製造は中断していたものの、昭和40年頃より寒冷地に適したブドウの品種選抜にヤマブドウとの交配によるブドウ育種、ワイン醸造方法の模索が開始。

昭和59年には道産ワイン懇談会が設立され、製造者同士の情報交換が活発化するなどブドウ栽培からワイン醸造技術が飛躍的に発展していったとされています。

そもそも北海道は寒冷地であることから生産者が産地に合わせて栽培方法を工夫したり、自然環境に適応するヤマブドウ種やハイブリッド種など耐寒性品種の開発も積極的におこなうなど、ワイン製造における人的要因が大きく関わっているところが特徴です。

また、産地の性質上ブドウが有機酸を豊富に含有するため補酸をおこなわず、色調安定や亜硫酸調整におけるpH調整が必要になる時だけの使用にとどめる醸造方法を採用しているところも独特。

個人の生産者が優れたワインを製造するのではなく、産地全体が良質なワイン造りをおこなうための自然的要因と人的要因(ワイン製造の歴史など)を持っているからこそ、北海道が「GI」に指定されたと考えられるのではないでしょうか。

酒類の原料及び製法

「GI 北海道」には、ワインの原料となるブドウ品種と製法による生産基準が設けられています。

それぞれ簡単にまとめてみました。

ブドウ品種(原料)

「GI 北海道」では、北海道で収穫されたブドウのみを原料として使用することが定められています。

ヴィニフィラ種の場合、ソービニヨン・ブランやピノ・ブラン、ピノ・ノワール(主ペートブルグンダー)、トロリンガー、ドルンフェルダーなど、約30種。

ラブルスカ種は、ナイヤガラ、ポートランド、デラウェアなど8種。

ほか、ヤマブドウ種やハイブリッド種などが指定されています。

また果汁糖度の基準として、ヴィニフィラ種は16.0%、ラブルスカ種は13.0%以上、ヤマブドウ種及びハイブリッド種は15.0%以上が定められているようです。(天候不順だった場合にはそれぞれの必要果汁糖度を1.0%下げることが可能)

製法

「GI 北海道」では、ワイン製造における製法も厳しく規定されています。

規定された「果実酒」の製造方法により北海道内において製造されたものであり、さらに規定により「日本ワイン」であること。

また、糖類の重量合計、香味料に含有される糖類の重量なども規定されていますが、やはり特徴は補酸です。

「GI 北海道」における製法の生産基準によると、補酸前の果汁の総酸値が7.5g/L未満であるのにもかかわらず補酸された場合、「官能的」に酸味を増す目的とみなされるため認められないとされています。

ただし、総酸値が7.5g/L以上の場合、色調安定化やpH調整をおこなうためとして必要最小限の補酸(1.0g/Lまで)が認められているようです。

逆に除酸剤については、総酸値を2.0g/L低減させるまで加えることができるといった基準もあります。

有機酸が豊富なブドウが収穫できる、冷涼産地らしい生産基準ではないでしょうか。

酒類の特性を維持するための管理に関する事項

前述してきた生産基準を満たしていたとしても、製造者が任意で「GI 北海道」を自由に使えるわけではありません。

地理的表示「北海道」使用管理委員会が作成する業務実施要領に基づく確認を受けた結果、生産基準をクリアしていた場合「GI 北海道」の表示が認められます。

ちなみに地理的表示「北海道」使用管理委員会が2021年4月19日(月)に発表した、「GI北海道 第11回認定銘柄」によると、6社31銘柄があたらしく「GI 北海道」に認定されたそう。

現段階で、「GI 北海道」に認定されたワインは累計18社426銘柄。

北海道全体が、「GI 北海道」へ積極的に取り組んでいることがわかる数字ではないでしょうか。

「GI 北海道」を飲もう!

「GI 北海道」認定ワインは、ラベル表示かロゴマークにて「GI Hokkaido」の文字が目印となります。

前述したように厳しい生産基準が設けられた認定なので、その品質は間違いないでしょう。

もちろん、「GI 北海道」の認定が無いからといって低質なワインではないことは注意すべきです。

ひとまず、「北海道のワインを飲んでみたい」という方は、まず「GI 北海道」のワインから始めてみてください。

基準を知り、そこからさまざまな北海道産のワインを飲み比べて好みを探してみましょう。

 

参考

国税庁 地理的表示「北海道」生産基準

GI北海道 HP