近年、「蕎麦×ワインのマリアージュ」を標榜する飲食店が増えています。

“そばとワインだと?…”と、思われている方は一度グーグル先生で、「蕎麦 ワイン 楽しめる店」と検索してみましょう。

そこそこ情報が出てくるはずです。

とはいえ、蕎麦にワインを合わせるなんてやり過ぎでは?と思われている方もいるはず。

ここではあらためて、「蕎麦×ワイン」の相性、そして蕎麦に合うワインについて考えていきたいと思います。

※今回は、「かけそば」ではなく「ざるそばとワイン」という視点でお伝えしていきます。

そばの歴史

蕎麦のルーツは中国・三江地域。

その歴史は紀元前3000年ほど前に遡るといわれています。(ワインの歴史は一説によると紀元前8000年前まで遡るとか…)

その後、海を渡り日本にやってきた蕎麦は粒のままや蕎麦がきなど、今のような麺の形ではない状態で食べられていたようです。

そして、江戸時代中期頃。

製麺技術が発達したことで、「麺としての蕎麦」が江戸を中心に広がります。

当時の江戸には単身者男性が異様に多かったことから、蕎麦を提供する店舗が大流行。(ご飯を作ってくれる嫁さんが足りないため)

結果、庶民だけだけでなく、武士や殿様までも蕎麦を愛すほどに蕎麦が市民権を得たとのことです。

ちなみに、蕎麦といえば「つゆ」が命ですが、関東と関西では味付けに違いがあるところも興味深いポイント。

一説によると関西は軟水であることから“うす削りの鰹節と昆布スタイル”、関東は硬水であることから“薄口醤油と厚削りの鰹節”スタイルになったのだとか。

古く江戸の屋台では、房総生まれの濃口醤油に亀節(鰹節の一種)、鯖節などの雑節を使ってそばつゆが仕込まれたと伝えられています。

蕎麦&蕎麦つゆの風味

当サイトはワインサイトですので、蕎麦の種類や美味しい茹で方などの解説は割愛。

ワインとの相性を探るべく、蕎麦の風味について言及していきましょう。

まず、蕎麦自体の風味です。

とある研究によると、蕎麦には「果物様・ゴム様・溶剤様・穀物様・甘い・苦い」などを思わせる香り成分が含まれているそう。

これを考えると酸味や樽香、タンニンが強過ぎるようなワインとはぶつかってしまいそうです。また、果実の風味や軽い苦みもあるのでフルーティーかつ、ほど良い苦みのあるワインが良さそうです。

そもそもフランス・ブルターニュ地方の郷土料理のガレットはそば粉を利用したものですので、日本の蕎麦とワインの相性の良さも、“当たらずといえども遠からず”といった感じです。

とはいえ…とはいえです。

相当な蕎麦好きの方でない限り、蕎麦をそのまま食べてワインを一杯…という楽しみ方はしないでしょう。(そもそも蕎麦と真剣勝負をされる方はワインを選ばないかもしれませんが…)

ワインと蕎麦の相性を考えるのであれば、やはり「蕎麦つゆ」とのペアリング。

こちらについて考えた方がよいかもしれません。

蕎麦つゆの風味を考える

蕎麦つゆは、鰹節や濃口醤油がベースとなったつけ汁。

とくに、ざる蕎麦で使用する江戸風のそばつゆは濃い味に仕上げられています。

さて、蕎麦つゆには、アルコール類やアルデヒド類、エステル類、フラン類、フェノール類などさまざまな香りに寄与する化合物が含まれているようです。

とはいえ、これではよくわからないのでわかりやすくまとめてみました。

蕎麦つゆのおもな香り

  • ロースト様
  • スモーキー様
  • サワー様

とくに蕎麦つゆにはスモーキーな香気に関係する化合物が多く含まれている上に、うま味を増強するような化合物なども多く含まれているとのことです。

また、蕎麦つゆといえば、「グルタミン酸とイノシン酸」が豊富に含まれていることが有名です。

「甘味、塩味、酸味、苦味、うま味」という五味のひとつである、“うまみ”に関与しているこれら成分は、そばの味わいを良くするための必須成分といえるでしょう。

さて、これら風味成分をまとめた結果…どんなワインと合わせると蕎麦が美味しく食べられるのかをひも解いていきたいと思います。

蕎麦にはピノ・ノワールか!?

まず、蕎麦自体の特徴を振り返りましょう。

「果物様・ゴム様・溶剤様・穀物様・甘い・苦い」。

少し無機質な雰囲気を持ちながらも、大地を感じさせる穀物の風味に果物の香り、そしてほろ苦さ…。

つぎに、蕎麦つゆです。

「ロースト様・スモーキー様・サワー様」「グルタミン酸・イノシン酸」。

若干の香ばしさと甘さ、そして奥深いうまみ…。

さらにプラスしたい情報として、とある研究によるとストロベリーなどの香気が甘みを増やすという研究があり、こういった香気成分が味覚を修飾するという話もあるようです。

大地の味、スモーキー、うまみ、ストロベリー。

もはや、「ピノ・ノワール」しか思いつきません…。

ただし、重要なのがジャミーなピノ・ノワールではなく、ブルゴーニュのような枯れたニュアンス&エレガントなピノ・ノワールの方が蕎麦のベクトルと合いそうな気がします。

では早速…いきたいところですが、ブルゴーニュクオリティの日本のピノ・ノワールは少々お値段が張る&希少なため日常使いしやすいとはいいにくい部分があるでしょう。

ということで、参考までに今回は本家本元、ブルゴーニュ産ピノ・ノワールと蕎麦を合わせてみました。

フレデリック マニャン ブルゴーニュ・ピノノワール2017

今回、蕎麦に合わせてみたワインはフランス ブルゴーニュの注目生産者フレデリック・マニャンの、〈ブルゴーニュ・ピノノワール2017〉。

ストロベリーやチェリーなどの赤い果実、鰹節を思わせるスモーキーなニュアンス、ほど良い酸味に緻密でこなれたタンニンが楽しめる素晴らしい1本です。

まず、蕎麦単体とピノ・ノワールの組み合わせ。

予想通り、蕎麦のよい風味は残しつつピノ・ノワールの風味が突出し過ぎないシンプルな組み合わせとなりました。

そして本命の蕎麦つゆと合わせてみると、これも予想通りの組み合わせに。

ピノ・ノワールの赤い果実系の風味が蕎麦つゆのうまみを膨らませる上に、双方が持つスーモーキーさが同調し合い素晴らしいバランス。

ピノ・ノワールの強過ぎないタンニンとほど良い酸味が、蕎麦つゆの塩辛い後味を抑え、余韻をすっときれいにまとめます。

蕎麦の味を決して邪魔せず、それでもピノ・ノワールの存在感はしっかりと感じられるというユニークなマリアージュが魅力です。

ほかのワインでも試したい!

今回はブルゴーニュ産のピノ・ノワールと蕎麦を試しましたが、樽を軽く効かせたマスカット・ベーリーAや熟成させたリースリング、長野県産のメルローとの相性もおもしろいかもしれません。

ちなみに、以前蕎麦と辛口のデラゥエアを試したところ、なかなか良い相性を示したので白ワインとのペアリングも楽しめそうです。(スパークリングワインを推奨する方も多くいるのでチャレンジすべきでしょう)

冒頭でお伝えした通り、蕎麦とワインのマリアージュを標榜するお店が増えています。

意外なアプローチかもしれませんが、敬遠せずにワインと食の組み合わせをいろいろ楽しんでみるのも一興ではないでしょうか。

参考

つゆの香気成分とコク寄与成分

臭いかぎ装置を用いたそば香気成分の分析