近年、ワインの商品説明の中に、「ナイトハーベスト」という文字を見かけることが多くなりました。

【このワインに使用されているブドウは、「ナイトハーベスト」により収穫されています。】

といった感じです。

しかし、このナイトハーベスト。

なんとなくスゴそうなネーミングであることから、“意味や効果”を理解せずにありがたがってしまっている方も少なくありません。

今コラムでは、ナイトハーベストの意味や効果について詳しく解説していきます。

“あぁ、ナイトハーベストね。あれ、いいよね。”的な知っているフリは、今日で終わりにしましょう。

ナイトハーベストとは?

ナイトハーベストとは、ワイン用のブドウを夜間に収穫する…という意味の言葉です。(夜摘みともいう)

ブドウの収穫というと、素晴らしい秋晴れの下で栽培責任者やボランティアの人たちがせっせとブドウを手摘みする…というイメージですが、ブドウの品質を考えるとナイトハーベストに軍配が上がります。

“夜中とか早朝とか、めっちゃ眠いし寒いのになんで?”と思われる方もいるでしょう。

ここからは、ナイトハーベストをおこなう理由や効果について深堀りしていきます。

痛みを防いで醸造におけるリスクを回避!

ナイトハーベストは世界中のワイナリーでおこなわれている収穫方法であり、近年日本の生産者も積極的に取り入れていることで知られています。

前述したように、収穫期の深夜および早朝は気温が低く(眠い)、収穫する人間は体調的に万全とは言いがたいでしょう。

生産者たちは、なぜそのような“苦行”を選択するか…。

その理由のひとつが、糖度を安定させるほか醸造中の酸化を防ぐという目的です。

とある海外のワイナリーによると、日中に収穫したブドウは温度が35度以上になることもあるそうですが、午前6時頃に収穫したブドウは温度が18度程度なのだとか。

収穫した後のブドウが高温だった場合、さまざまな要因から痛みが進行しやすくなってしまいます。

一方、ナイトハーベストで収穫した低い温度のブドウをすぐに醸造にまわすことができれば、低温での原料処理が可能になるため、酸化や微生物汚染のリスクを低減することができるのです。

ちなみに、“収穫する人間にとってはツラいのでは?”と伝えましたが、日中に35以上の気温になる産地の場合、“できれば…涼しい夜間でおねえしゃす…”という作業員の声が多いといわれています。

重要なのは芳香!

ナイトハーベストで得られる効果として、“酸化や微生物汚染のリスクを低減できる”というのはよく知られた話です。

もちろんそれらも大切な効果ですが、「芳香の複雑性を高めることができる」ということに注目している生産者が多く存在しています。

ナイトハーベストをすることで、ワインの芳香の複雑性が高まる…とはどういうことなのでしょうか。

ブドウの果実に香りの秘密が!

ナイトハーベストと芳香の関係性をお伝えする前に、ブドウの果実と香りの関係性についてお伝えします。

かなり複雑で専門性が高いトピックなので、噛み砕いたかたちで解説しましょう。

まず、ソーヴィニヨン・ブランや甲州、シャルドネに含まれていることで有名な香り成分「3MH(3-メルカプトヘキサノール)」の生成を例にあげます。(柑橘の香気に関与)

※参照 ブドウの品種特徴香から紐解くナイトハーベストの科学的有意性 鈴木 俊二

この3MHは、ブドウの果皮に存在している「3MH前駆体」が最終的に酵母の働きによって変換されて生成されるものです。

※前駆体とは、とある化学物質について、その物質が生成する前の段階の物質。

経路

ブドウ果実内でグルタチオン抱合体が合成される

中間代謝産物 システニルグリシン抱合体を経由

システイン抱合体が合成される

搾汁された果汁に酵母添加

グルタチオン抱合体とシステイン抱合体が酵母の酵素活性により…

3MHに変換!

なんだかよくわからないと思いますが、要するに…

「3MHなどの香気成分は、その成分を最終的に生成させるための“前駆体”が必要である」ということ。

さらにいえば、この前駆体が多ければ多いほど香り成分が多いワインとなる…(一概にはいえませんが)というわけです。

ナイトハーベストで香りの成分量アップ!?

さて、ナイトハーベストとこの香り成分の前駆体にどんな関係があるのかお伝えしていきましょう。

今回、参考にしている「ブドウの品種特徴香から紐解くナイトハーベストの科学的有意性」では、タイトル通りさまざまなナイトハーベストと香気成分の関係を探った研究です。

同研究では、長野県の高山村の圃場を舞台に、収穫適期のシャルドネを「朝5時」「正午前後」の2パターンで収穫し、ブドウ搾汁後の3MH前駆体をふくむ果実成分が測定されました。

結果…

日中に収穫した果汁よりも早朝に収穫した果汁の方が3MH前駆体が高く、その差は2倍ほどの差が出たというのです。

もちろんこれはシャルドネと3MH前駆体での研究ですが、実際に海外の生産者もナイトハーベストをおこなうことで芳香の複雑性が高まると、『Decanter』で伝えています。

ブドウの酸化や糖度の安定といったイメージの強いナイトハーベストですが、“芳香”についても良い効果をもたらすということが分かったことは意義深いことです。

ナイトハーベストのワインは…買い!

ナイトハーベストについて全く知らなかった…という方もいたかもしれません。

しかし、我慢してここまで読み進めた方であれば、どれだけ効果的な収穫方法なのか理解できたはずです。

正直、ナイトハーベストで収穫されたブドウから造られているワインは、“買い”でしょう。

とはいえ、飲まないことには始まりません。

ネットではもちろん、ワインショップで「ナイトハーベスト」のワインを見つけて購入し、その味をご自身の五感で確かめてみてください。

参考

ブドウの品種特徴香から紐解くナイトハーベストの科学的有意性 鈴木 俊二