オーク樽は、ワインにさまざまな影響を与える重要なアイテムです。

大げさかもしれませんが、オーク樽の存在無しにワイン造りを語ることはできない…といっても過言ではありません。

さて、たまに“このワインは樽の影響を強く受けている”とか“樽使いが上手だな”とか、“樽の影響を感じさせないですね”など、樽関連のテイスティングコメントを耳にすることはないでしょうか。

こういったコメントを聞いて、“そもそも樽の影響って何?”と思われている方もいるかもしれません。

ここでは、樽がワインに与える影響について簡単に解説していきたいと思います。

酸素との接触

まず、単純にオーク樽がワインに与える影響は、“酸素接触による科学的変化(風味など)”でしょう。

一般的に225ℓの樽にワインを貯蔵していた場合、1ℓあたり20〜40mg(年間)の酸素がワインに溶け込むといわれています。

酸素がワインに溶け込むことにより、タンニンとアントシアニンなどのポリフェノール関連の成分が反応を起こし、色が鮮やかになったり渋みが和らげられる効果が期待できます。

オーク樽における酸素供給はワインに多種多様な影響を及ぼしますが、「見た目」と「ストラクチャー」に関与すると考えると分かりやすいかもしれません。

酸化はワインにとって敵ですが、ごく微量な酸素供給であればワインの品質が高まるのです。

風味への影響

オーク樽がワインに与える影響の中で覚えておきたいのが、風味への影響です。

“樽由来のうんちゃら…”とプロのテイスターがコメントしますが、これを覚えておけば何となく理解できるようになるでしょう。

まず、ワインを熟成させるために使用されるオーク樽にはさまざまな風味化合物が含まれています。(種類によって含有量などが違う。種類はまた別の機会に…)

オーク樽内にワインを長期間保存すれば、当然ながら樽由来の成分がワインの液中に抽出されるため、樽熟成を経たワインは樽由来の風味がするわけです。

とはいえ問題は、その樽由来の風味の特徴。

簡単にまとめてみました。

  • ラクトン
  • バニリン
  • グアヤコール
  • オイゲノール
  • フルフラール
  • エランジンタンニン
  • クマリン

では、これらがどのような風味に関連するのかお伝えしていきましょう。

ラクトン

オーク由来の風味化合物の中でも重要視されているのが、ラクトン。(オークラクトンとも呼ばれている)

ラクトンの特徴はココナッツやオークの香りで、ワインに多く抽出されると強いオーク風味を感じることができます。

一部、土臭さや草の香りにも関連すると言われているようです。

ちなみに、オーク樽にはフランス産のものとアメリカ産のものがありますが、アメリカ産はこのラクトン含有量がずば抜けて高いことで知られており、アメリカ産オーク樽で熟成されたワインは強烈なオーク風味を感じます。

バニリン

樽が効いている…とコメントする際、おそらくキーマンになっている風味化合物がバニリンです。

名前の通りバニリンは、「天然バニラ」の香りの主成分であり、バニラ風味をワインに与えると考えられている風味化合物となります。

新樽をガンガン効かせたワインなど、甘やかな香りがしますがバニリンの影響が大きいと考えられるでしょう。(ラクトンとの相互作用も関連か?)

グアヤコール

聞き慣れない風味化合物かもしれませんが、グアヤコールもワインの風味に大きな影響を与えます。

グアヤコールは、炭を彷彿とさせるスモーキーな香りに関与します。

種類によってはスパイシーさにも関与するといわれており、これが強過ぎるとやや焦げ臭いワインと感じてしまうかもしれません。

ただしスモーキーさは、酵母ブレタノミセスなどの影響でも発生することがあるため、一概にこの影響が全て樽由来ではない可能性があります。

オイゲノール

木材由来の揮発性フェノールのひとつ、オイゲノール。

こちらも聞き慣れませんが、じつは「丁字(クローブ)」の香りに関与する風味化合物です。

樽熟成を経た赤ワインに丁字の香りがするのも、ひとつこのオイゲノールが一役買っていると考えることができるでしょう。

フルフラール

樽由来の香りの中でも、お菓子のような甘やかな影響を与えているのがフルフラールです。

フルフラールは、バタースコッチやキャラメルのような風味に関与しており、あまり抽出され過ぎると子どもっぽい味わいになってしまうものの、ごく少量であればワインに複雑性を与える注目の化合物でしょう。

アーモンドの風味に関与するといわれています。

エラジンタンニン

タンニンには、縮合型タンニンと加水分解型タンニンの二種類がありますが、その後者にあたる風味化合物がエラジンタンニンです。

アントシアニンと結合して色を濃くしたり、ワインのストラクチャーを改善するといわれている化合物となります。

タンニンですのでやや渋みを感じさせますが、種子や果皮由来の縮合型タンニンに比べると大変おだやかです。

樽熟成を経た白ワインにやや渋みを感じることがありますが、このエラジンタンニンの抽出が関連していると考えられるでしょう。(短期間の醸しなどをおこなっていない場合)

クマリン

クマリンなんて愛らしい名前の風味化合物ですが、これが多過ぎるとワインに強い苦みを与えてしまいます。

あまりワインに抽出されないといわれていますが、樽材の乾燥状況などによってクマリン量は変化するため、樽熟成を経ているのにあまりにも苦いワインはクマリンが関連しているかもしれません。

ごく微量であれば、ワインにとって良好なストラクチャーや風味に影響を与えると考えられています。

樽使いを気にしてみよう

ワインの風味に影響を与える風味化合物は、まだ数多く存在します。

今回は、その代表的なものを紹介したので覚えておきましょう。

さて、近年はこれらの影響をあまりワインに与えたくない…という生産者が増えてきており、新樽ではなく古樽や大樽、もはや樽を使用しないという生産者まであらわれています。

ブドウ本来のアロマや風味を大切にしたいと考える傾向にあるため、樽が効き過ぎているワインは世界的にも少なくなっている状況です。

とくに日本ワインは繊細であるため、樽の影響を受け過ぎたワインはあまり見られません。(一昔前は、そういったものばかりでしたが)

今後、ワインを飲む際には樽の影響がどれだけ出ているのか、考えながら飲んでもおもしろいかもしれません。

ぜひ、チャンレジしてみてください。

参考

樽とオークに魅せられて―森の王(クエルクス)の恵み、ウイスキー・ワイン・山海の幸
加藤 定彦 (著), 吉田 勝彦 (イラスト)