ワイングラスの中の液体を回す行為。

これを、「スワリング」と呼びます。

ワインに詳しい方はもちろん、ワイン初心者の方もなんとなくワイングラスをグルグルと回した経験があるはずです。

じつはこのスワリング。

ちゃんと理解しないとワインの味わいを損ねてしまう可能性がある行為なのです。

ここではいまさら聞けないスワリングの基本、そして知っておくべき注意点についてお伝えしていきましょう。

スワリングの役割とは?

スワリングを一言でいえば、「ワインの香りを立たせる(またはタンニンの渋みをやわらげる)」ためにグラス内の液体を回す行為です。

ワインに詳しい方の場合、「ワインを目覚めさせる」というような表現を使うこともあるようです。

スワリングの主な効果としては…

  • ワインが空気に触れることにより表面積が増える
  • 表面積が増えることによりさらに香りが引き出せる
  • 空気中の酸素と触れ合わせて味わいを変化させる
  • ワインを飲み馴れている風に見える(個人的な見解)

などが考えられます。

ワンスクールでもワインの香りを取る際にスワリングは推奨されていますし、前述したように飲食店でワインをグルグル回している姿が通っぽいことから真似をしている方もいるかもしれません。

しかし、このスワリング。

あまり適当にやっているとワインが持つ本来の魅力を損なってしまう恐れがあります。一体、どういうことなのか解説していきましょう。

分子量に注目

まず、スワリング前のワインを「第一香」、スワリング後の香りを「第二香」と呼びます。

香りは分子であるため、その多さなどによって持続時間や強度が変化していくことは理解できるでしょう。

要するに、

  • スワリング前は揮発性の高い分子量が少ない香りが立ちがある
  • スワリング後は分子量が多い重たい香りが立ち上がる

ということになります。

ワインを損なう可能性とお伝えしましたが、じつはここの分子量に秘密があるのです。

香りが混ざってしまう

正しいテイスティングを実践されている方は別ですが、ワインが運ばれてきてすぐにスワリングをおこなう方は少なくありません。

もはや反射神経的のようなものかもしれませんね。

しかし、ワインには揮発性の高い「第一香」が存在しているため、早い段階でスワリングをしてしまうと「第二香」と混ざってしまいワインが本来持っている繊細な香りをキャッチできなくなってしまう可能性があるわけです。

さらにワインが運ばれてきた時にクンっとひと嗅ぎして、すぐにスワリングされる方もいるでしょう。

人間の鼻というのは大変優秀でありこの一瞬であっても嗅神経は香りを即座に判断してくれるわけですが、かなり訓練を積んだテイスターでないと「第一香」を正しく判断するのは難しいと考えられます。

まず、すぐにスワリングをせずに「第一香」をしっかりと楽しんだ後にスワリングをされた方が、ワインの性格を知るには得策といえるでしょう。

そもそも香りが無くなる

スワリングでもっとも注意したいのが、“回し過ぎ”による影響です。

グラスの回し方や方向は人の自由ですが、一般的には“反時計まわりに二、三回程度”といわれています。

とはいえグラスに注がれたワインを常にグルグル回していたり、時間が経過しているのに飲む度にぐわんぐわん回している方を見かけることもあるでしょう。

香りを際立たせるためには効果的かもしれませんが、ワインの香りはかなり揮発性が高く成分全体の中でもかなり容量が少ないことで知られています。

“いや、どんどん香りは出てくるんだ。粘らせてくれ!”という方もいるかもしれません。

では、こんなピノ・ノワールの香りについての研究を見ていきましょう。

ピノ・ノワールにはエタノールやイソアミルアルコール、オクタン酸エチルやヘキサン酸エチルなどのエステル類がふくまれているのですが、スワリングすることでこれらエステル類が立ち上がります。

しかし、長時間撹拌した結果エステル類が減少。

それを飲んだ時に口中の香りなくなり味わいが相当低下した…と示唆されています。

もしそれでも香りが強く感じられるのであれば凄まじい分量の香り成分がふくまれたワインか脳内の想像で楽しんでいるかどちらかの可能性があるということです。

そこまでじっくり考えて探す必要はあるか?

ワインは香りを楽しむお酒といっても過言ではありません。

そのためスワリングひとつでこういったネタができあがるわけです。

さて、グルグルいつまでもグラスを回している方がいる一方でいつまでも真剣に香りを取ろう必死になる方もいるようです。

ワインの勉強や試験かなにかであればいいですが、日常的にワインを楽しむのであればいつまでも香りを探そうとしないでも大丈夫だと考えています。

まず、人間というのは臭いが混じり合っている香りや単一分子のような香りであっても識別できるのはせいぜい4種類程度だといわれています。

つまり、「第一香」を取った時に感じる香りからスワリングをした後は香り自体が変わっていくわけで、「第一香」を取ること(探し出す)はかなり困難になります。

またスワリングをすればするほど香りは減少。より香りの要素が少なくなります。

以前、無理をして頑張ろうとグラスに鼻を近づけ過ぎてワインが鼻の中に入ってむせかえたことがあるのですが、もはやこういった結末を迎えるのは時間の問題なわけです。

ちなみにプロのテイスターの場合、かなりの数の訓練を受けている上に例える言葉を脳内に数多くストックしています。

ハンパではない量のワインを真剣に飲み勉強している方やそういった勉強をしたい方はねばるのもいいですが、“普通にワインを楽しみたい”という方であれば手軽に感じられる香りを楽しむ程度でよいのではないでしょうか。

この繊細さと儚さがイイ!

スワリング前の香りとスワリング後の香り、回し過ぎてはいけないなど、面倒な要素がたくさんあるイメージのワイン。

しかし、それだけ繊細で儚い酒類であり、それこそがワインの醍醐味のひとつといえるのではないでしょうか。

もちろんワインの飲み方は自由ですし、その方が美味しく楽しく飲めることが最も重要です。

とはいえワインの性質を知っておくだけで、いつも飲んでいるワインがより美味しく飲めることも事実。

スワリングについても参考程度にとどめておき、今後のワインライフに軽く取り入れてもらえれば幸いです。

参考

機器分析から見たワインの香り 大西正展